DynabookのモバイルノートPCに導入された特徴的な機能の1つに「dynabook エンパワーテクノロジー」がある。dynabookエンパワーテクノロジーは新モデルの登場に合わせてその中身をアップデートしてきた。dynabook Xでもそれは変わらない。

  • dynabook X83のメイン基板周り。今回も、CPUパフォーマンスを高い状態で維持する「エンパワーテクノロジー」を採用している

dynabook X83は、CPUにTDP28Wの“P”タイプを搭載する構成と、TDP15Wの“U”タイプを搭載する構成を用意しているが、“P”タイプ搭載構成では、サイズが異なる2基のファンとヒートシンクを組み込んだクーラーユニットを搭載する。

「フィンとファンの大きさを変えています。大きさを変えただけでなく、ブレードの枚数を従来モデルの47枚から89枚に増やしています。回転数も最大時で4,500rpmから5,000rpmに速めています」(中村氏)

ブレードの枚数を増やして回転速度を上げたら風切り音は大きくならないのだろうか。

「ブレードの数が47枚の状態で測定された音圧は38.5dBA。それに対して89枚の状態では37dBAに下がっています」(中村氏)

「これはブレードの枚数と(取り付けた)角度のなせる技です。ただ、ブレードの枚数が増えると(ファンが回転するときに発生する抵抗力は増して)当然重くなるため、駆動するのに必要な電流も増えます」(荻野氏)

消費電力を抑えるためには回転数を落としたい。新しいファンでは、「(ファンが送り出せる)風量のパフォーマンスが非常に良くなっていることが、データでも示されています」(荻野氏)と、効率よく冷却できているという。

  • X83のメインファン。従来モデル(G83)と比べ、ファンのブレードが倍増し、最大回転数もアップした

CPUからクーラーユニットのジャケットに伝わった熱を、左右に設けた2基のヒートシンクまでヒートパイプで誘導して、左右それぞれに組み込んだクーラーファンで外に排出するが、その2基のヒートシンクとクーラーファンのサイズが異なっている。

サイズが異なるファンとヒートシンクを用いることで、制御は困難にならないのだろうか。

  • 左右のファンとヒートシンクはサイズが異なる

中村氏によると、ファンの回転数を制御するテーブルを全部変えているという(筆者注:PCの冷却では、本体内部の複数の箇所をセンサーで測定した温度ごとにファンの回転数を決定する表=テーブルを用意している)。

「2基のクーラーファンを使うことで発生する干渉音については、既に登場しているdynabook Rシリーズも、デュアルファン構成でファンから発生する周波数を考慮し、干渉音を打ち消すように制御しています。dynabook X83でもそれに近い制御をしています。ただ、ファンのサイズが2基でサイズも異なるなど状況は相当変わっていますので、回転数を制御するために用いるテーブルは全部作り変えました」(中村氏)

サイズが異なるデュアルファンには、このような複雑な処理が必要になる。これを組み込んだクーラーユニットを、新しいdynabookエンパワーテクノロジーで導入したのはなぜなのだろうか。

「そこには3つの理由があります。まずは本体を軽く薄くするため。そして実装面積を減らすため。薄く軽くする=フットプリントの削減なんですね。でも、そのボディにはファンとフィンとバッテリーも収容しなければならない。こうなると、(dynabook Rシリーズと同じような、風量を稼ぐための)大きいファンが2基も入らない。どうしても1つのファンは小さくならざるを得なくなりました」(中村氏)

サイズの異なるファンを載せたことで、ノイズへの対策もより困難になった。

「風量として、TDP28WのCPUが冷やせるだけ回さないとならない。でもサイズは小さい。そこでブレードの数を増やして、さらに取り付け角を上げます。加えて回転数を制御するテーブルの内容も全部変更します。そこまでして何とかTDP28WのCPUに対応できるようになりました」(中村氏)

しかし、そこで終わりではない。モバイルノートPCに載せるためには「最後は重さ」となる。

「クーラーファンが大きくなると、やはり本体は重くなる。Dynabookの開発陣としては1g、コンマ何mmの世界をずっとさまよっていますので、最後に挑むのは“そこ”(軽量化)になると思います」(中村氏)