さらに、成熟個体においては4本~8本の年輪が確認され、いずれの個体においても最初の2本の年輪の間隔は大きく、その後の年輪の間隔が急激に狭くなることから、ケイチョウサウルスは生後2年間で急激に成長し、その後はあまり成長しなかったことも明らかにされた。
化石爬虫類を含む化石羊膜類(爬虫類・両生類・哺乳類などの化石)において、思春期とも呼べる時期が確認されたのは初めてのことで、絶滅動物の成長と繁殖、進化を明らかにする上で重要な発見としている。
ケイチョウサウルスの雄に見られる三角形の断面は、筋肉の付着する稜(突起)の発達具合によるもので、腕の骨格や筋肉が思春期以降の雄でだけ変化するようになった原因については3つの仮説があるという。まず1つ目は、雄と雌の相互作用だ。現在のカエルやトカゲのように、繁殖の際に雄が雌の身体に抱きつく「抱接」という行動をしていたり、雄が雌に対して腕を使って自己アピールしていたりした場合、大きく力強い前肢を持つ雄ほど子孫を残すことができたと考えられるとする。
2つ目に、雄同士の相互作用が挙げられる。たとえば雄間闘争で前肢が使われていた可能性があり、仮に雄が前肢で繁殖の優先順位を決めていたとすれば、雄のみで前肢の形が変化しても不思議はないという。
そして3つ目は、繁殖や種内闘争とは直接関係のない行動、たとえば採餌などに前肢が使われていたが、雄のほうが雌より活発に行動する傾向があったために雌雄差に反映されたというものだ。
ケイチョウサウルスの性的二型は、これらの仮説的な要因を含め、雄と雌の生態に見られる何らかの差異や相互作用、特に思春期に起こるできごとが、性ホルモンの分泌と相互に影響し合い、明確な性的二型を持つに至ったと結論づけられるとする。
今回の研究成果により、中生代爬虫類の性選択的進化の一端が明らかになり始めただけでなく、現生の動物たちの性的二型の進化過程を解明する上で「骨組織」という新たな視点を与え、進化生物学分野の全体における研究発展にも貢献することが期待されるという。そして今後の研究では、日本からも発見されている中生代の海生爬虫類化石にも焦点が当てられるとしている。