日本音楽著作権協会(JASRAC)は、世界の主要なデジタル配信サービスのコンテンツ情報と楽曲情報を共有・交換するプラットフォーム「GDSDX」を5月31日に提供開始。YouTubeを皮切りに、JASRACが管理している楽曲情報を含む計140万件でスタートし、今後は他の配信サービスにも拡大していく。

GDSDXは、さまざまなデジタル音楽配信事業者(DSP)からJASRACなどの著作権管理団体に報告される情報のうち、各DSPが配信する楽曲や動画ごとに作成しているユニークコード(配信楽曲ID)と、音源情報をキーとして、各著作権管理団体の管理楽曲の情報を関連付けたデータベース。

各DSPから各国・地域の著作権管理団体に対して、DSPごとに世界共通で使用している配信楽曲IDが報告されるため、このIDをキーとして、利用楽曲を正確に特定。各地でタイトルが現地表記に変換されることがあっても、GDSDXを通じて的確に楽曲を特定できるようになるとのこと。

たとえば『鬼滅の刃』は韓国語で『귀멸의 칼날』、中国語で『鬼灭之刃』といったように、国内で生まれたコンテンツのタイトル表記は、海外では現地の言葉に変換されて流通している。GDSDXを使うことで、こうした作品情報にYouTubeアセットIDなどを紐付け、その識別子をキーとして作品の特定を容易にする仕組みだ。

GDSDXではさらに、CISAC(著作権協会国際連合)内で共有しているISWC(International Standard Musical Work Code、国際標準音楽作品コード)や、作品届(権利者から著作権管理団体に届けられる資料)のデータとも関連付けが行われるため、各団体で行う分配までの作業効率を高められるとする。

今回は、グローバル展開する配信サービスのうち、YouTubeを対象にJASRACが管理する楽曲情報43万件と他のプロジェクト参加4団体の楽曲を合わせた計140万件の楽曲情報でスタート。今後は、AppleやSpotify、TikTokといった、YouTube以外の配信サービスにも拡大する予定だ。

GDSDXはアジア・太平洋地域のポータルシステムとして運用し、今後CISACと連携しながら参加団体を拡大していくことで、楽曲特定の精度を向上。世界中の音楽クリエイター・権利者がより精緻な使用料分配を受けられるようにしていくという。

GDSDXプロジェクト立ち上げの背景

近年、JASRACが扱う音楽著作権において配信分野の使用料収入が拡大しており、2022年度の総徴収額1290億1,000万円に占める配信利用分の割合は34.6%(446.6億円)となった。

グローバル展開する音楽サブスクリプションや動画配信サービスは、膨大な量の楽曲を世界中で聴けるため、利用の対価となる著作権使用料を確実に得ることが、国内のクリエイター・権利者を始めとする音楽関係者にとっての重要な課題・関心事となっている。

デジタル音楽配信事業者(DSP)は、各国・地域ごとにJASRACなどの音楽著作権管理団体らと契約して著作権使用料を支払うとともに、利用した楽曲を報告。海外からJASRACに使用料として送金された実績は2022年度で18.9億円となり、これはコロナ禍以前の2019年度と比べて約3倍にあたる数字だという。

一方で、音楽ストリーミングサービスや動画配信サービスでは膨大な楽曲を利用するため、使用料分配にかかる楽曲の特定が日本を含む各国で課題となっている。

特に、自国の楽曲が海外で利用される場合、現地には音源情報(ISRC:International Standard Recording Code、国際標準レコーディングコードのこと)に関連付けられる楽曲情報がないことが多く、さらにタイトルが現地表記に変換されることで、独自の文字体系を持つアジア地域での利用においてメタデータによる特定が困難になっているとのこと。

この課題解決を図るため、JASRACは、CISACアジア太平洋委員会に所属するFILSCAP(フィリピン)、KOMCA(韓国)、MÜST(台湾)、WAMI(インドネシア)と連携して、GDSDXプロジェクトを立ち上げた。