ソニーのハイエンドスマートフォンの最新モデル「Xperia 1 V」が登場しました。「Xperia 1」シリーズとしては第5世代目の製品にあたり、前モデルに対してカメラの新センサーを搭載した点が大きな特徴です。
使いやすいカメラ機能と独特の機能を満載したこの「Xperia 1 V」をチェックしてみました。
暗所ノイズを削減した新センサー
まずはやはり、注目のカメラ機能をチェックしたいと思います。
「Xperia 1 V」に搭載されているカメラは、従来通り35mm判換算24mmの広角カメラ、16mmの超広角カメラ、85~125mmの望遠カメラのトリプルカメラとなっています。ZEISS T*コーティングが施されていることも変わりません。
大きな違いが広角カメラのセンサーで、従来1,220万画素1/1.7型Exmor RS for mobileセンサーを搭載していましたが、これが4,800万画素1/1.35型Exmor T for mobileセンサーに刷新されました。4,800万画素をピクセルビニングで1,200万画素にすることで、ピクセルピッチを大型化しています。
このセンサーは、2層トランジスタ画素積層型CMOSセンサーと称されています。Exmor Rセンサーの裏面照射型・積層型という特徴は継続し、さらに従来は一体化されていたフォトダイオードとトランジスタを分離して積層するという設計になっています。
これはソニーセミコンダクタソリューションズが2021年12月に発表したセンサー技術です。従来の構造では、センサーの1つの画素にフォトダイオードとトランジスタが同一基板上に組み込まれていました。
そのフォトダイオードと配線層の上下をひっくり返したのが裏面照射型(Exmor R)で、さらに信号処理回路が形成されたロジックチップを積層させたのが積層型(Exmor RS)です。そしてまだフォトトランジスタ側に残っていた画素トランジスタを分離して積層した、というのが今回採用された2層トランジスタ画素積層型(Exmor T)となります。
フォトダイオードとトランジスタを分離したことで、それぞれ個別に設計することが可能になり、フォトダイオードの体積を増加させたり、トランジスタのサイズ拡大をしたり、トータルでのサイズ拡大が可能になったようです。
これによって1つの画素が受光できる光の量(飽和信号量)が2倍になった、とされています。その結果、ダイナミックレンジ拡大とノイズ低減が実現できるというのが今回の新センサーです。
もともと「Xperia 1」シリーズは1/1.7型という大型のセンサーを搭載していましたが、これが1/1.35型とさらに大型化。これも画質改善に貢献していそうです。また、一般的なセンサーは4:3のアスペクト比となっていますが、「Xperia 1 V」の場合は4.3:3というちょっと横が長い特殊なアスペクト比になっています。
このため、そのセンサー範囲のうち4:3の部分だけを切り出して静止画撮影に利用しています。動画の場合は16:9のエリアを切り出していますが、4:3のセンサーから切り出すのに対してセンサーが広いため、電子式手ブレ補正で使える領域が広くなり、手ブレ補正の性能が向上しているそうです。
また今回、「Xperia 1」シリーズとしては初めて4,800万画素の有効画素数から1,200万画素の画像を生成するピクセルビニングに対応。全画素でAFを使えることによるAF面での効果はともかく、画質面での効果は難しいところですが、逆に言えば悪い影響も感じられません。
こうしたハード面での強化に加え、重ね合わせ処理を行うことによるダイナミックレンジ拡大、ノイズ低減の効果も見逃せません。重ね合わせ処理は、「Photography Pro」アプリのBASICまたはAUTOモードでしか動作しないとのことで試してみましたが、明るい日中の撮影では、シーンによって明確な差が現れます。基本的には自然なHDR処理という感じでしょうか。
日中の描写では、特に広角カメラの写りは良好です。シャープネス、コントラスト、色合いなど、特に問題点を感じません。
重ね合わせ処理がない場合、センサーとレンズの素の性能差ということになりますが、晴天下でのダイナミックレンジにはあまり差は感じませんでした。暗所撮影時はISO感度1段分ほどのノイズ量の差があるようで、新センサーの性能差も十分にありそうです。
重ね合わせ処理はシーンを自動認識した上で動作するようなので、シーン認識のないPモードなどでは動作しないというのも分かるのですが、スマホカメラだとこうしたソフトウェア処理も含めてカメラの画質ではあるので、P/A/Mモードでも重ね合わせ処理は行ってほしいように感じました。
AFは新方式で従来以上
iToFの代わりにAIを利用するようになった被写体までの距離測定は、通常撮影時には差を感じない程度には精度とスピードでしょう。あくまで「Xperia 1 III」との比較ですが、近距離ならともかく遠距離の被写体の検出は明らかに良くなっているように感じました。
下の作例では、ボートを主被写体だと考えてカメラを構えてシャッターボタン半押しすると、「Xperia 1 V」では期待通りの被写体を検出してくれました。被写体の追跡も現実的なレベルです。
HDRは比較的自然で、逆に言えば極端な表現にはなりませんが、DRO(Dレンジオプティマイザー)とどちらを選んでも極端な違和感はありませんでした。
望遠カメラユニットはコンパクトにするため、センサーが小型でレンズも性能が落ちるため、メインカメラほどの画質ではありませんが、SoCの性能強化のためか、画質は向上しているように見えます。
動画性能としては、前述の通り電子手ブレ補正の範囲が広くなって補正量が増加しています。手ブレ補正は、「Videography Pro」アプリでStandardに加えてHigh qualityに対応。「Photography Pro」アプリのBASICモードから動画モードに切り替えた場合は、標準と高品質の2つの手ブレ補正が用意されています。
歩くぐらいの揺れだとどちらも変わらない程度の補正ですが、走った時のような激しいブレの時の補正が顕著に大きくなります。加えて、「Xperia 1 V」の方が画角が広くなっています。手ブレ補正オフの時はもとより、「Xperia 1 V」で手ブレ補正を通常にすると、「Xperia 1 III」の手ブレ補正オフよりもわずかに画角が広いのです。
さらに手ブレ補正を高品質にして、「Xperia 1 III」の手ブレ補正をオンにしても、やはり「Xperia 1 V」の方がわずかながら画角が広いため、強力な手ブレ補正でありながら広い画角で撮影できるということになります。
動画面ではほかに、背面カメラ部に「声優先マイク」が搭載された点が新機能。「Photography Pro」のBASICモードの動画にあるメニューか、「Videography Pro」の設定から「マイク(Audio)」で「声優先マイク(リア)/Voice priority(rear)」を設定すると、背面のマイクが優先されます。
実際にこの設定を行うと、音源の方向にカメラを向けるとそちらの方向の音を中心に収集します。全方位の音を収集する場合と比べて、ディスプレイ側からの音は集音せず、カメラを向けた側の声が大きく集音されます。インカメラを使う自撮り時にはあまり効果はありませんが、メインカメラを使う場合に有効でしょう。
ソニーの「VLOGCAM」にも搭載された商品レビュー用設定と同様の機能もあり、設定すると人の顔の手前にある被写体にピントが合うようになります。画面中央に被写体をかざすとピントが合うようです。
こうしたシーンの場合は、USBで画面出力をしてライブビューを確認しながらの撮影になるか、撮影者が別にいるのでしょうが、一人作業だと外部出力なしに実際にピントが合っているのか確認できないのはネックではあります。
UI面では、縦持ち時のUIに対応した点も見逃せません。これまで「Photography Pro」は横持ち/シャッターボタン操作が基本で、「Videography Pro」も横持ちを前提としたUIでした。そのため、縦持ちをしてもUIが変化せず、使いにくいものでした。
「Xperia 1 V」では、縦持ちにすると専用のUIになり、「Photography Pro」ではBASICモード以外でもシャッターボタンが表示されるなど、操作性が向上します。「ようやく」という感じですが、縦持ちが多いスマホカメラということから、これは大きな変更点です。
カメラもゲームも音楽も、エンターテインメントに強い「Xperia」
カメラだけでなく、ゲーム/音楽/映像といったエンターテインメント関連も従来通り高性能にまとめてあります。21:9という長細い画面も従来通りで、細身なので持ちやすく、縦持ちでの2画面表示でも余裕があります。
最大120Hzのリフレッシュレートの4K HDR対応OLEDディスプレイは、美しく鮮やか。画質調整の「クリエーターモード」も映像視聴に最適です。
ステレオスピーカーの音質も、スマホの中では最上位レベルでしょう。有線ヘッドホンだけでなく内蔵スピーカーも空間オーディオ対応。360 Reality Audioは実際に体験してみないと分からないところがあるのですが、体験してみるとちょっと驚きます。
ゲーム面では「Xperia Stream」に対応し、空冷による長時間のゲーム体験も可能。本体自体も熱拡散シートの体積を60%拡大するなど、長時間駆動でも熱くなりにくくしてあるそうです。
ボディは約W71×H165×D8.3mm、約187gなので、前モデルに対して幅と長さは変わらず、厚みが1mmだけ大きくなりましたが、大きな差ではありません。横幅は変わらず、片手でも収まりの良いサイズ感です。
シャッターボタンの存在感は健在。他社だと電源ボタンダブルクリックでカメラを起動できますが、ボタン配置としても1ボタン長押しだけで起動するという点からも、使い勝手は良好です。
全体として、操作感も従来通りで、新機能という感じはありませんが、さらに完成度を高めたという印象です。ハイエンドスマホとして機能的には文句の付けようはなく、特に夜景の描写が向上している点や動画の手ブレ補正強化、商品レビューといった使い勝手も高められていて、カメラ機能を求めて購入しても間違いない製品だと感じました。