ロジクールが初の左右独立型・完全ワイヤレスイヤホン「G FITS」を発表しました。4月27日の発売を前に試用した先行レポートをお届けします。高い遮音性能を備えるカスタムイヤーピースや、ゲーミングに最適な低遅延ワイヤレス伝送など、見どころ機能が満載の個性派イヤホンです。

  • ロジクールG初の完全ワイヤレスイヤホン「G FITS」。発売に先がけて試用したレポートをお届けする

ロジクールG初の完全ワイヤレスイヤホン「3つの特徴」

G FITS(ジー・フィッツ/直販35,750円)はロジクールのゲーミングブランドである「ロジクールG」の完全ワイヤレス(TWS)イヤホンです。現在はスイス・Logitech(ロジテック)グループの傘下にあるオーディオブランド「Ultimate Ears」(アルティメット イヤーズ)が、2020年11月に北米で発売した「UE FITS」をベースに、ロジクールGのプロダクトとして最適化を図っています。G FITSは2022年10月に北米で先行発売されており、今回待望の日本上陸を果たしました。

  • ロジクール「G FITS」のベースとなった、北米で発売されているUltimate Earsの完全ワイヤレスイヤホン「UE FITS」(国内未展開)

G FITSは音楽リスニングだけでなく、ゲームコンテンツのサウンドを高品位に楽しみたいすべてのゲーマーに向けて開発されています。サウンドのキャラクターをゲームコンテンツに合わせる機能を備えつつ、ワイヤレス通信の弱点とされている音声の伝送遅延をロジクールの独自技術により克服しました。

G FITSの大きな特徴は3つあります。ひとつは、専用モバイルアプリを使って約60秒でユーザーの耳にフィットするカスタムイヤーピースを自動で作れる「LIGHTFORM」という画期的な技術。2点目は、高級カスタムイヤホンの開発経験も豊富なUltimate Earsのサウンドエンジニアがチューニングを手がけた音質。そして3点目が、ワイヤレス伝送による遅延を抑える「LIGHTSPEED」です。

それぞれを順に試しながらレポートします。

ユーザーの耳だけにフィットするカスタムイヤーピースを採用

最初にG FITSの最大の特徴である「LIGHTFORM」をピックアップします。樹脂素材のイヤーピースで耳を塞ぐカナル(耳栓)型のイヤホンで、ハウジング(きょう体)は密閉型なので、音漏れを気にせず使えます。

G FITSのイヤーピースの素材には、紫外線に触れると短時間で硬化し、その形が固定される「フォトポリマー」という特殊な樹脂が使われています。ロジクールでは左右のイヤホンに搭載するLEDライトを専用アプリから点灯させて、ユーザーの耳に挿入したイヤーピースを60秒以内に硬化させるLIGHTFORMという技術を開発し、特許を取得。UE FITSに続いてG FITSにも採用しました。

つまり、G FITSはユーザーの耳の形にフィットするカスタムメイドのイヤーピースが付いてくる完全ワイヤレスイヤホンなのです。しかもカスタムフィットのイヤーピースを、ユーザーが面倒な手間をかけることなく、商品を購入直後に約1分で「自作」できるところがとても画期的といえます。

アプリでカスタムイヤーピースを作ってみた。1分待てば完成

G FITSの商品パッケージには紫外線に触れないようにパッキングされたイヤーピースが同梱されています。開封する前にロジクールのiOS/Android用「G FITS」アプリをダウンロードして、カスタムフィットのメニューをスタートします。

  • パッキングされた状態で同梱されているG FITSのイヤホン。Mサイズの専用イヤーピースが装着されている

イヤーピースの樹脂は、通常のカナル型イヤホンに同梱されているイヤーピースよりも柔らかく“生っぽい”感じの手触りです。最初にイヤーピースを少しねじりながら耳に挿入します。イヤホンからテストトーンが聞こえてきたら、低音がしっかりと聞こえる位置を探りながら、耳にフィットするポジションを見つけます。

  • G FITSアプリを起動するとイヤーピースの成形プロセスがスタート

このとき、耳穴にあまり深く入れすぎないことが、後で心地よいフィット感を得るためのコツなのだそうです。なぜなら、むりやり挿入した状態で樹脂が硬化してしまうと、内耳を押しつけて痛みを感じさせるイヤーピースになってしまうからです。

成形プロセスが実行される約60秒間、耳の中でLED照射が行われ、耳の中が温かくなります。このイヤーピースの成形は“やり直し”がきかない工程なので、時間にゆとりがあるときに腰を落ち着けてのぞむことをおすすめします。

  • イヤーピースに紫外線を照射中。成形プロセスは約1分で完了

G FITS用のイヤーピースはS/M/Lの3サイズがあり、デフォルトでイヤホンに装着されているイヤーピースはMサイズです。ほかのサイズは同梱されていないので、耳穴のサイズにイヤーピースが合わない場合、ロジクールのカスタマーサポートに相談する必要があります。2023年夏頃には、各サイズのイヤーピースをスペアとして単品販売する計画もあるそうです。

Ultimate Earsの系譜を受け継ぐ、高品位なサウンド

G FITSは10mm口径のダイナミック型ドライバーを1基搭載しています。音質のチューニングはUltimate Earsのサウンドエンジニアが担当しました。

Ultimate Earsといえば、日本ではBluetoothスピーカーのイメージが強くなってしまいましたが、元はプロフェッショナル向けカスタムIEM(インイヤーモニター=イヤホン)のブランドとして名を馳せていました。現在も北米ではUE PROシリーズのカスタムIEMを展開しています。そのノウハウを惜しみなく、価格もより手ごろな完全ワイヤレスイヤホンに投入した製品がG FITSであり、その原型が(前述の)UE FITSなのです。

  • 北米ではUE PROシリーズのカスタムIEMの新製品も発売されている

イヤーピースの作成が完了したところで、iPhone 14 PlusにペアリングしてG FITSの音を聴いてみます。G FITSが対応するBluetoothオーディオのコーデックはAACとSBCです。

聴いてすぐにわかるほど、クリアでくもりのないサウンドです。映画『BLUE GIANT』のオリジナル・サウンドトラックから「FIRST NOTE」を聞いてみると、サキソフォンの音色がツヤっぽくうるおいに満ちています。ピアノは音の輪郭の切れ味が鋭く、音運びが軽快。低音の余韻がとてもふくよかに感じられました。ドラムスのリズムは粒立ちが鮮やか。中高音域に雑味がなく、シンバルやハイハットの余韻が静寂の中にスウッと溶けていきます。圧倒的な熱量が感じられるG FITSのサウンドは聴き応え抜群です。

世界的ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンとフランス放送フィルハーモニー管弦楽団、ミッコ・フランク指揮によるアルバム「ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19 第2楽章: Scherzo. Vivacissimo」では、きらびやかなヴァイオリンの音色が冴えわたります。スケールの大きなオーケストラとのコントラストも誇張されず、自然な一体感のある演奏が描かれます。

  • G FITSをiPhone 14 Plusに接続してApple Musicの楽曲を試聴した

シユイの「君よ 気高くあれ」も聞いてみました。G FITSはボーカルの押し出しがとてもスムーズです。エネルギッシュな演奏もスッと柔らかく体に染みこんでくる、しなやかなエネルギーのほとばしりが感じられました。

カイリー・ミノーグのアルバム「DISCO」から「Magic」を聞いてみると、タイトで切れ味鋭い重低音が楽しめます。アプリのイコライザー機能には5つのプリセットが設けられており、「低音ブースト」よりもデフォルトの「Gシグネチャー」の方が中高音域とのつながりがよく、ダンスミュージックのグルーヴを余すところなく引き出せる手応えがありました。

ゲーム用イコライザーも充実

アプリのイコライザーにはゲームコンテンツに最適化した「FPS」と「MOBA/RPG」、ボイスコミュニケーションのために声の帯域にフォーカスした「話し言葉」もあります。FPSはゲームの効果音が聞こえやすくなるように低音域を大胆にカットして、中高音域にバランスを寄せています。MOBA/RPGではやや中音域を立たせていました。

  • 音楽リスニング用、ゲーミング用、ハンズフリー通話用のプリセットを用意。5バンドイコライザー機能により好みの音質を設定して、保存したセットアップを繰り返し使える

Apple Arcadeで配信されているゲーム『ファンタジアン』をプレイしながら効果を確かめてみました。イコライザーはMOBA/RPGがやはりベストでした。ゲームの効果音が鮮明になり、反対にBGMが一歩後に引くことでゲームの世界観に踏み込みやすくなります。

イコライザーにはユーザーの好みの設定を保存して、クラシックやジャズ、ボーカル、アクション映画などプリセットを自由に追加できる機能もあります。

ワイヤレス伝送の遅延を抑える「LIGHTSPEED」

G FITSには2つのワイヤレス伝送による音声の遅延を抑える機能があります。ひとつはロジクールGブランドのマウスやヘッドセットなど、ワイヤレス対応のデバイスが採用する2.4GHzデジタル無線伝送技術「LIGHTSPEED」です。

G FITSの商品パッケージに同梱されるトランスミッターをPCやゲーム機(PlayStationプラットフォームの対応機器や、Nintendo Switch)に装着して、G FITSのイヤホンをLIGHTSPEEDモードに切り換えます。左右どちらかのイヤホンをすばやく3回タップすると、トランスミッターのLEDが点灯してモードが切り替わります。

  • トランスミッターはUSB-C/USB-A端子に直付け可能。2.4GHzデジタル無線接続による安定したオーディオ伝送を実現している

LIGHTSPEED時のワイヤレス伝送は遅延がなく、とても安定しています。GarageBandアプリでピアノを弾いてみると、打鍵操作に対してほぼ遅れることなく音が聞こえてきます。USB-C端子を採用するiPadにもトランスミッターを挿すだけで使えるので、Bluetoothコントローラーをペアリングしてゲームを遊びたいときにも最適です。

ほかにもBluetooth接続時の伝送遅延を抑えるゲームモードもあります。LIGHTSPEEDに比べるとわずかに遅延が感じられましたが、動画の再生などには不足を感じません。ひとつ注意点として、イヤホンの内蔵バッテリーによる連続再生はBluetooth接続時で約10時間ですが、LIGHTSPEEDを使うと約7時間まで短くなります(充電ケース込みで計約15時間)。

  • イヤホン本体のマルチタップ操作によりBluetoothベースのゲームモードをオンにできる

ノイキャン/外音取り込みは非搭載、遮音効果は?

LIGHTFORMにより作成したイヤーピースの遮音性能や装着感について触れておきましょう。筆者はイヤーピースの自動成形が上手くできたので、装着感には満足できています。ただ、ユーザーの耳型(インプレッション)を補聴器店などで採取して作る、本格的なカスタムIEMのフィット感を知っている人にとっては、G FITSの耳への密着度が“やや緩め”に感じられるという声もあるようです。G FITSについてはフィット感がわずかに緩めであっても、製品の設計やコンセプト的には間違いではないので「これが正解」と受けとめて良いかと思います。

  • AirPods Proの充電ケースとサイズを比較。カスタムイヤーピースを採用しながらコンパクトなサイズ感を実現している

G FITSはアクティブ方式のノイズキャンセリング(NC)機能は搭載していないので、イヤーピースによるパッシブな遮音感だけでは心もとなく感じるかもしれません。実際、NC機能付きのイヤホンよりも単純な遮音感は控えめです。ただ、そのぶん音のバランスが自然なまま、コンテンツの音を再生すると適度な遮音感が得られます。

カスタムフィットなので、通常のシリコンイヤーピースよりも遮音性は十分に高いと思います。むしろ周囲の音が聞こえにくくなることから、G FITSにも外音取り込み機能が欲しいと感じました。イヤホン本体には独自の耐汗加工を施しているので、屋外を歩きながら、またはスポーツをしながら使うこともできますが、周りには十分気をつける必要があります。

  • Bluetooth接続の場合は音楽再生で最長10時間のリスニングを実現。充電ケース込みで計約22時間使える

G FITSは長時間にわたって、室内で腰を落ち着けながら音楽リスニングやゲーミングを心地よく楽しみたいユーザーにおすすめしたい完全ワイヤレスイヤホンです。そして、LIGHTFORMの技術は今後、ロジクールの完全ワイヤレスイヤホンの代名詞になるかもしれません。

カスタムメイドのイヤホンは値段がピンキリとはいえ、10万円を超えるものも少なくありません。対応してくれる補聴器店などを探して足を運び、ユーザーの耳型を採取する手間と費用もかかります。その点、G FITSは価格が3万円台と比較的手ごろであり、LIGHTFORMのおかげで耳にフィットするイヤーピースが自分で手軽に作れる斬新なカスタムイヤホンであるといえます。G FITSをゲットして、この楽しさにいち早く触れてみてください。