VAIOらしさを失わず、幅広い層へアピールする「Windows PCの定番」
2023年3月29日、VAIOは都内で新製品「VAIO F14/F16/Pro BM/Pro BK」を発表しました。しばらくハイエンド志向だったこれまでのVAIO製品とは路線が異なり、「スペック表には書いてない所」がウリの製品です。当初より最短お届け日が6月以降と遅くなっていますが、発表会の様子をお届けします。
発表会では冒頭、代表取締役社長 山野 正樹氏が市場の現状と経営目標について説明しました。山野氏は「前期まで逆風が吹いていたが、追い風になりつつある」と現状を説明。
他社も同様ですが、2022年はパソコン業界そのものが不調で出荷台数は28%の大幅減、Windows 7のサポート終了による需要もひと段落し、コロナ禍で購入したパソコンの買い替えはまだ先で、さらに円安の影響がありました。
3年連続で市場が低迷するなか、2022年5月期は前年より売上は若干向上したものの(+2.52%)、営業損益は2.48億円の赤字となりました。対策として営業体制の強化と既存製品の本質的価値を追求を行い、これによって法人向けPC事業が好転。過去最高の売り上げを達成する見込みとなる予定です。VAIOは他社に真似のできない商品力を持っており、ここが今回の新商品への取り組みに繋がったと話します。
VAIOの製品やサービスでは「Inspiring:カッコイイ」「Ingenious:カシコイ」「Genuine:ホンモノ」という要因を満たし、常に時代の一歩先を行っていると改めてVAIOの商品理念を紹介。
一方、これまでは高い付加価値を求めるプロフェッショナルユーザーという、ニッチなユーザー層をターゲットにしてきていました。ただ、「いつまでもプレミアムにこだわっていいのか?」と開発戦略を抜本的に見直し、VAIOの価値を多くのお客様に広げたいという思いでプロジェクトチームを結成。今回のVAIO F14 / VAIO F16で実ったと語ります。
多くのお客様に届けるという製品のテーマは、つまり「Windowsの定番PC」を作ること。「(一社ですべてを行っている)Appleに対して、プレイヤーの数が多いWindows PCには突出して売れている製品はなく定番がない」と山野社長は語り、この製品は業界最軽量でも驚くような機能があるわけではないが、「愛着を持って長く使うものを作りたい」という思いを込めたと紹介しました。
なんと2年後に出荷台数の150%成長を目指し、今回発表した製品群で全体の4~5割を占めるよう拡販を図っていくと話します。そして現在ほとんどの売り上げ(95%)が日本であり、海外の製品もライセンス品が大半となっているところを改め、グローバル向けにも自社製品を本格進出したいと今後の目標を表明しました。
普通を造る難しさ。「普通のPCだね」と言ってくれることが誉め言葉
次にプロダクトセンター長 黒崎 大輔氏が開発の背景と新製品の紹介をしました。まずユーザーのニーズと製品にギャップがあると把握したと言います。個人市場では「心地よさ、デザイン、ちょうどよさ、コスパ、タイパが大事」ですし、法人市場では「より良い働く環境のために、より高いクオリティを期待」しています。
しかし実際の個人向け製品はスペック表と価格で語られることが多く、法人向けに至っては価格が最重視されており、このミスマッチを解消したい。そのためには「愛される定番を造る」。つまり、普通にPCを使いたい人が普通に長く快適に使える製品こそ、良い製品であると説明します。
発表では開発に携わった方々のショートムービーが流され、それぞれの立場から思いを語っていました。
今回発表を聞いていて、筆者は映像にあった「バッテリのセルの構成から見直し、劣化の抑制を評価の中に組み込んだ」という一言に“これは!”と思いました。
というのも、ノートPCを買い替えるきっかけとして大きな要因になるのがバッテリの劣化です。たしかにこれまでの従来機種にも3年以内にクリーニング、リフレッシュ、バッテリの交換を行う有償オプション「メンテナンスパック」が用意されており、ツールで充電容量上限を設定する「いたわり充電」も搭載されていました。
しかし今回、これに加える形でバッテリメーカーと共同でヘタりにくいバッテリを作ったところに、今回の新製品を長く愛着を持って使って欲しいという強い思いが伝わってきました。
また、新製品のプロジェクト発足にあたって「変化する生活への対応」「PCの“当たり前”の見直し」「VAIOが培った価値継承」という3つの思いから新しい定番製品を作りたかったと説明。変化する生活とは、テレワークや在宅勤務でノートパソコン主体で利用すると画面サイズが小さいのでできるだけ大きな画面にしたい、オフィスでもWeb会議を使う人は非常に多いのでコミュニケーションにプラスになる機能が欲しいところ。
当たり前の見直しの一例として、上級者なら知っているWindowsデスクトップの文字サイズの変更を誰でも使えるよう、購入からしばらく経過してから文字サイズ変更の案内を行う機能を付け加えたり、Web会議が不可欠になっていることを鑑みてコミュニケーションクオリティを足す。さらにVAIOの安曇野フィニッシュは死守と、拘るところはこだわります。
一方で、普通の人に不必要なプロセッサーパワーは価格や熱、騒音でマイナスなのでちょうどいいCPUを選定。レガシーになったVGA端子やHDD、多すぎるスペック選択は減らす、と仕分けをしました。同様に上位モデルで採用した機能でも今後は必要なものは継承することでエントリー製品でもコスパのよい製品を目指したと説明しました。
結果としてたどり着いた定番PCの条件は、ずっと長く使ってもらうための仕掛けや気持ちよく使ってもらえる細工、愛着を持ってそばに置けるたたずまいのようにスペック表には現れないところになったそう。
長く使ってもらうために、安曇野工場での全数人手による再チェックといういわゆる「安曇野フィニッシュ」や、日本のメーカーと協業したバッテリーを採用。さらに長く使っても文字がはげにくいキートップ、アルマイト加工のパームレストの採用で長期使用に耐えます。
上位機種譲りのチルトアップキーボードに加え、今回はマウスもオリジナルで開発。持ち方にかかわらずホールドしやすく、カチカチとしたクリック音を減らしつつクリック感のあるマウスはなかなかよいと思います。
コミュニケーションに関しては2つの特徴があります。通常のノートパソコンの開く角度の場合、人と正対していないため、カメラを5度だけ下向きに設置してアングル調整のわずらわしさを軽減。
音に関しては2つのマイクを使うことで、カメラアングル外からの音を1/1000に軽減するプライベートモードと、外部の雑音をカットするAIノイズキャンセリング機能を搭載しています。これは発表会中のデモ動画を見るのがわかりやすいでしょう。
できたものはシンプルなパソコンです。しかし、シンプルなものを作ることは簡単にはできません。パソコンには14の特性の違う素材が組み合わさっていますが、これらの色を合わせこむことで一体感を出しています。
説明会ではあまり語られていませんでしたが、筆者的にもう1つこれは!と思ったのが環境配慮の部分。今回の本体下部のボディ部は無塗装ですが、色味は一体感を持った仕上がりになっています。また構造材でありながら10%のリサイクルプラスチックを採用(注:他社の場合再生プラスチックの利用を行っていても色味や強度が影響しない内部スピーカーエンクロージャー等の限定的な利用か、ボディ部を比較的厚めに作って対処しています)。さらに従来ならばボディにステッカーが張られていますが、これもレーザーマーキングとなっています。
黒崎氏は「皆さんに『普通のPCだね』と言ってもらえるのが誉め言葉」とユーザー評価に期待していました。個人向け製品は16.0インチワイドの「VAIO F16」と14.0インチの「VAIO F14」となり、カラーはネイビーブルー、サテンゴールド、ウォームホワイトとあえて黒を外しています。これに対しては「リビングに黒は似合わない」と理由を説明。法人向けは16インチワイドの「VAIO Pro BM」と14.0インチの「VAIO Pro BK」でカラーは(最近のおしゃれなオフィスに合わせたに)ダークメタルグレーとなっています。
オプションアクセサリは先に説明があったオリジナルマウスで持ちやすく、クリック感がありつつクリック音なしの静音設計。また、14.0インチ製品のみ専用ののぞき見防止フィルターが用意されます。16.0インチののぞき見防止フィルターは設定がなく、理由を聞いたところ「16.0インチなので持ち運びシーンが少なく(サイズが大きいので)高額になる」とのことでした。
普通の人に訴求するためタッチポイントは広く、「定番声優」を起用したスペシャルムービーも制作
最後のマーケティング統括部 統括部長の高木充恵氏から新製品のプロモーション活動の説明がありました。従来は高い性能を求める人向けで限定的だったのですが、今後は個人・法人共に多くのタッチポイントを用意するとの事。
その1つとして「定番」声優の諏訪部順一さんを起用したスペシャルムービーを公開。エピソードごとにガジェット系、美容系、Vtuber、ゲーム実況者という異なる動画配信者を演じるそうで、第一弾の「見やすい大画面」がすでに公開中。3週間ごとに「長持ちする品質・安心」、「必要十分な性能」、「映りの良いカメラ・聞き取りやすいマイク」と5月末まで順次公開予定となっています。