インテルが先日、同社が推進するクリエイター支援施策「Blue Carpet Project」にもとづいて、東京で作品展示イベント「Blue Carpet Fes 2023 Spring」を開催した(参考記事はこちら)。デジタルとクリエイティブが融合したトップクリエイターの作品に触れることができただけでなく、同プロジェクトの最新状況や、今後の展望なども聞くことができたので、ちょっと紹介しておきたい。
ちょうど1年前の2022年3月に始動した「Blue Carpet Project」は、「創作活動と最新テクノロジーの橋渡しをすることで、クリエイティブ・シーン全体を底上げし、クリエイティブの最前線で活躍するクリエイターが主役になれる機会を創出し、そこから生み出されていくコンテンツがより多くの人々に届くことを支援する」として、プロフェッショナルから学生まで、さまざまな次世代を担うクリエイターの支援を目的としている。インテルだけでなく、同社のパートナーであるPCメーカー各社などの協力も取りつけ、クリエイターの創作活動に最適な最新PCを提供するなど様々な支援の取り組みを展開している。
支援するクリエイターを「Blue Carpet Club」として、「横に繋がる」コミュニティー化しようとしている点も特徴で、Blue Carpet Clubのメンバーらによる次世代クリエイター向けワークショップを実施したり、メンバーの作品の展示機会の創出をしたりといった取り組みも実施している。
製作環境の参考に、機材とセットで紹介する作品展示
今回のイベント「Blue Carpet Fes 2023 Spring」は、そのBlue Carpet Clubに賛同するクリエイターの作品を展示し、それらを来場者が体験したり、クリエイター同士のつながりを広げようと開催したもので、東京都千代田区丸の内のインテル社内スペースを会場に、SNS上のキャンペーンなども織り交ぜながら、入場無料でひろく公開されていた。会場展示は、各クリエイターの作品展示とセットで、その作品を生み出すために使用したPCベースのデジタル機材も紹介しており、制作環境の参考にできるようにもなっている。
モーショングラフィックデザイナー、ヨシダタカユキさんの展示。iiyamaのクリエイター向けデスクトップPC「SENSE∞」を使用。Core i9-13900KFとGeForce RTX 4080、メモリも128GBという強力な構成
プログラマー・ビジュアルアーティスト、松山周平さんの展示。最近は週間少年ジャンプの集英社とXR組織「集英社XR」の立ち上げなども手掛ける。使っているのはASUSのハイエンドゲーミングノートPC「ROG Strix SCAR」
アートディレクター・映像監督・CGアーティスト、YUKARIさんの展示。ノートPCにHPの「Zbook Studio」を使っているほか、デスクトップPCとしてマウスコンピューターが先日発表したばかりの「DAIV DD」を早くも導入していた
3DCG・Visual Artist、フジモトタカシさんの展示。AcerのノートPC「Predator Helios 300」のほか、ASUSの「ROG STRIX」マザーボードがベースの強力なカスタムデスクトップも使っている
アニメーション作家、稲葉秀樹さんの展示。常に流動して姿を変える独特のアニメーション映像が面白い。報道ステーションのオープニング映像は見たことある人が多いと思う。MSIの「MEG」マザーボードをベースに第13世代Core i9を組み込んだカスタムデスクトップPCと、EIZOの「ColorEdge」を使用
ディレクター・CGデザイナー、西郡勲さんの展示。ASRockの「Taichi」マザーボードとCore i9-12900KS、NVIDIA RTX A6000で組んだカスタムデスクトップを使用。Blue Carpet Projectのサポートならではなのか、パーツから組んだデスクトップPCを使っているクリエイターが意外に多い
TPSのキャラクターの特徴的な動きなど、「ゲームあるある」を再現する映像が人気の、駒沢アイソレーションさんの展示。作品が縦型動画なので、スマホで作っているのかと思うが、実際にはMSIとマウスコンピューターのPCで製作していたりする
映像イラストレーター、ケイゴイノウエさんの展示。Adoの「FREEDOM」のMVの人。ASUSの「ProArt」マザーボードをべースに、Core i9-13900KとGeForce RTX 3090で組んだかなり強力なカスタムPCを使用
個人的に特に面白かったのが、京仏師の宮本我休さん(写真左)による作品解説。当初は、木彫りの仏像作品と、デジタルテクノロジーがどうコラボするのか、いまいちよくわからなかったので、そのギャップがあった分もあり、解説を聞いて非常に面白かった
木彫り仏像の製作には、それこそ1,000年前から続く伝統の手法が受け継がれているのだが、宮本さんはここに独自のデジタル化の手法を持ち込んだ。例えば仏像の設計図のデジタル化によって、製作期間の短縮や修復の円滑化、新たな創作の広がりも期待できるそうだ。例えば仏像は、小さな仏像を製作した後に、大きな仏像を製作することがあるそうなのだが、仏像の図面を手書きではなくデジタルで作成することで拡大が容易になり、図面を引きなおす手間が省ける。また、図面は平面図でしかないが、これを高精細な写真、3Dスキャナで取得した3Dデータと組み合わせることで、再製作や修復の際にも非常に細かいとことまで確認しながら進めることができるようになる。ちなみに、日本との真打ちと影打ちみたいなものなのか、仏像を製作する際に、2体作って1体は参考用に手元に残すことがあるそうなのだが、参考用の仏像を(まだ出力解像度や素材の課題はあるそうだが)3Dプリンタで出力するといった試みもしているそうだ
インテルはBlue Carpet Projectの広がりに手ごたえ
インテルは今後の国内PC市場を、PCゲームとならんで、クリエーター(およびクリエイターが生み出すコンテンツ)が強力なドライバーになるだろうと見込んでいるようだ。クリエイター向けのPCというと、アップル社が席巻しているようなイメージもあるが、近年のコンピューターグラフィックスや、AI活用などの高度化にともない、より高いコンピューティングパワーを求めて、MacからいわゆるWindows PCへの乗り換えが目立ってきているそうで、実際、Blue Carpet Clubの著名クリエイターの中には、Macからの乗り換え組や、Windows PCの試用を進めているメンバーが少なくないのだとか。
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Blue Carpet Projectを紹介するインテル株式会社 第二技術本部 部長 工学博士の安生健一朗氏(写真左)と、同マーケティング本部 本部長の上野晶子氏(写真右)。ちなみに安生氏、この取り組みでは、Blue Carpetのクリエイターのもとに足を運び、みずからPC環境の構築サポートなども行っているそう
同社マーケティング本部の上野晶子本部長は、Blue Carpet Projectの1年を振り返り、「プロジェクトが自走し始めているという実感がある」と話している。Blue Carpetが、賛同してくれたクリエイターや参画パートナーの「口コミ」により、他のクリエイターやパートナーに波及しはじめ、インテルが思ってもいなかったような「つながり」も出始めていることを指したものだそうだ。
伺うと、この1年の活動は、とても地道なものだったという印象を受ける。例えば、Blue Carpetのクリエイターを支援するため、提供する製作環境を「常に最新の状態にアップデート」するよう取り組んでいるそうだが、インテルのテクニカルサポートの人間が直接クリエイターのところに出向き、カスタムPCのパーツをアップグレードしたり、ほかにも、パートナーであるマザーボードメーカーの担当者が、「もっと処理能力が必要」と訴えるのクリエイターのPCを、オーバークロックカスタムによるスペシャルビルドしたという事例もあるそうだ。
そして、この1年でBlue Carpet Projectとしてセミナー・コンテストへの参加、開催は34回を数え、「本来、作品しか目にしないような機会でも、PCによる製作環境も見せる機会を地道に取り組んでいった」と上野本部長は説明する。例えば、音楽ライブのインタラクティブ演出に関するワークショップでWindows PCのワークショップを実施したりしたそうだ。変わったところでは、子供向けサッカースクールにアドビと一緒に乗り込み、動画編集のワークショップを開催したこともあったそうで、これは子供のサッカー動画を撮りためまくっていた親御さんに大好評だったとか。
しかしながら、これら1年間の活動を通して、「写真、音楽分野でのWindows PCの使用率が低いという課題があることは、改めて感じている」(上野本部長)というのも、正直なところのようだ。やはりこの分野ではアップル社が強いというが事実。インテルとしては、この課題に、最重要項目として、Windows PCを使うクリエイターの「コミュニティ」を育てることで風向きを変えようとしているそうだ。「コミュニティというのはすごく大事。自走するコミュニティと、インテル&パートナーによるサポート、この両輪で進める」と上野本部長は話していた。
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写真などで言えば、特にカジュアルなものではスマートフォンとの連携機能は、Windows PCではもっと強化を期待したいところ。この日は、第13世代Coreベースの「Intel Evoプラットフォーム」のPCで利用できるようになる新機能(近日公開予定)、「Intel Unison」のデモも披露していた。ストアで入手したIntel Unisonアプリをスマホにインストールしておけば、Evoノートと簡単にペアリングでき、データ共有や写真転送がとてもシームレスにできるようになる。Windowsはこの辺が弱いだけに、期待したい