7年という長い歴史を持つ、タクティカルシューティングゲーム『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)。オペレーターやマップが定期的に追加され、常に進化を遂げる奥深い戦略性から、eスポーツタイトルとして世界的に根強い人気を誇ります。
まもなく始まる2023年シーズンでは、競技シーンのフォーマットが大きく変わり、日本から3チームが世界大会「Six Major」に出場します。これまで、APAC地域の枠は少しずつ拡大してきましたが、日本チームにとって世界大会への道のりは遠く、挑めるチームも限られていました。しかし、今年からは国内大会が世界大会に直接つながるので、日本チームのチャンスが一気に拡大します。
今回は、『R6S』競技シーンの初期から大会運営に携わり、キャスターとしても活躍するOkayamaさんにインタビュー。7年の歴史のなかで日本の競技シーンを取り巻く環境やチームのレベルがどう変化してきたのか。そして、2023年シーズンの新たな大会形式が、国内のシーンにどのような影響を与えるかなどを聞きました。
少しずつ存在感を増し、2018年に節目を迎えたAPAC地域
――最初に、『R6S』のシーンに携わってきたOkayamaさんの経歴を教えてください。
Okayama:『R6S』はリリース翌年の2016年から、競技シーンがスタートしています。そのころに競技シーンのおもしろさに気づき、選手ではなく運営として携わりたいと思って、eスポーツ大会を運営する制作会社に入社しました。5年ほど制作に携わるなかで、『R6S』の国内大会の運営や配信などを任せてもらうようになりました。
そして、その会社を辞めたのち、2022年1月にUbisoft Japanへ入社。Ubisoft Japanでも、大会ルールに関する部分をはじめ、大会運営や配信管理といった『R6S』のeスポーツにまつわる業務を担っています。
並行して、『R6S』のキャスターもしています。もともとキャスターになるつもりはなかったのですが、大会ディレクターをしていたときに、急きょ解説の方が出られなくなってしまったことがあり、僕が代わりに出たのがきっかけです。以降は、大会運営に携わりつつ、キャスターとしても4年ほど活動を続けています。
――『R6S』の競技シーンが始まった当初、日本を含むAPAC地域はどのような環境だったのでしょうか?
Okayama:当初は、NA、EU、ラテンアメリカの地域が中心となって、PC版とXbox版の世界大会が行われていました。APACは、そのなかに招待枠で入れてもらうくらい。しかも、もともとFPSが盛んな地域とはレベルの差が大きく、最下位で終わるなど結果は振るいませんでした。
2017年からは、世界大会にAPACの枠ができ、NA、EU、ラテンアメリカ、APACの4つの地域に分けられました。ただ、APACから世界大会に出場するには険しい道が待ち構えます。日本、韓国、東南アジア、オーストラリアの各地域での予選を勝ち抜いたチームで、さらにAPACでのオフライン大会を実施。そこで優勝した1チームだけが世界大会に行けるというものでした。
――APAC地域への評価が変化したタイミングはありましたか?
Okayama:2018年ごろが1つの節目でしたね。2018年には、APACから2チームが世界大会に行けるようになりました。そして、2018年シーズンを締めくくる「Six Invitational 2019」で、日本チームがベスト4、オーストラリアチームがベスト8を獲得したのです。APACが世界に認められた瞬間だったといえます。
2018年は、東京の秋葉原ベルサールで、世界大会への出場権をかけたAPAC地域のオフライン大会「Pro League APAC Finals - in TOKYO」が開催された年でもあります。最近では、海外チームを日本に呼んで大会をすることも増えてきましたが、当時はほとんど前例がなかったので、すごい盛り上がりでした。
当時はそもそも、日本チームが世界大会で活躍すること自体、FPSでは考えられなかった時代です。そのため、国内での注目度も高く、このころのYouTubeでの大会視聴数は、1位のブラジルに次いで日本が2位。NAやEUなどではTwitchでの視聴が多いので、単純には比べられませんが、日本を含むAPACでの盛り上がりが世界にも伝わっていった時期でした。
その後、APACリーグは2020年に大会形式が変わり、APAC North(日本・韓国・東南アジア)と、APAC South(オセアニア・南アジア)という2つの地域に分かれます。直近の2022年では、このAPAC NorthとAPAC Southから上位2チームずつが、世界大会に行けました。
コンソール版からPC版へ、多くのプレイヤーが移行
――先ほどXbox版の話題が出ていましたが、国内外の競技シーンでコンソール版とPC版にはどのような変遷がありましたか?
Okayama:世界的にはPC版とXbox版が多くプレイされていたので、最初は両方で世界大会が行われていたのですが、2018年からはPC版のみになっています。一方、国内でプレイヤーが圧倒的に多かったのはPlayStation 4(PS4)版。なので、もともと国内ではPC版とPS4版で大会が行われていました。
当初、PC版では8チームくらいのところ、PS4版では200チームくらいのエントリーがあったんです。でも、世界大会などトップの競技シーンはPC版なので、PS4版のプレイヤーたちがゲーミングPCを買って、どんどんPC版に移行していったんですよ。その結果、PC版とPS4版の出場チームの比率が変わっていき、国内大会もPC版がメインになりました。
――世界大会につながるからPC版に移行しようと考えたプレイヤーが多かったのでしょうか。
Okayama:それもあると思います。実際に、コンソール版からPC版に移行して活躍している選手はたくさんいて、例えば「Fnatic」のMag選手はもともとXbox版のプレイヤーでしたし、「CYCLOPS athlete gaming」のBlackRay選手はPS4版のプレイヤーでした。
ただ、一番大きかったのは、PC版の頭一発で相手を倒す洗練された動きを見て、憧れるプレイヤーが多かったことだと思いますね。PS4版はパッドでプレイしますが、『R6S』にはエイムアシストがないので、ものすごく操作が難しいんです。なので、「自分もPC版でカッコいいプレイがしたい」と考えた人が多かったのではないでしょうか。
国内シーンの成長と、日本チームがぶつかる地域差の壁
――日本国内のシーンについて、大会やチームの環境がどのように変化してきたか教えてください。
Okayama:最初はPS4版とPC版で、優勝賞金10万円くらいの誰でも参加できるオープン大会が開催されていました。その後、世界大会につながるPC版のオープン大会「ESL Challenger League」が始まり、少しずつアジアチームとの交流が増えていきました。そして、8チーム出場する日本国内のリーグができたのが、2018年のことですね。
なにより、日本のシーンにとって大きな変化になったのは、2020年に始まったX-MOMENT主催の「Rainbow Six Japan League」(以下、RJL)です。それまで、海外ではすでに多くのプロチームが参入していたなか、国内で活動していたのはアマチュアチームがほとんどだったんです。RJLが始まり、選手への給与が保証され、賞金も一気に上がったことで、プロチームが多く参入し、専業で練習に打ち込める選手が増えました。
さらに、海外プロチームも日本に目を向けるようになり、昨年には海外の名門チーム「Fnatic」や、世界的なサッカークラブ「パリ・サンジェルマンFC」のeスポーツ部門「PSG Esports」が日本に参入しました。こうした海外プロチームは、練習スケジュールやコンディションの整え方など、他部門で成功したノウハウを持っていますから、日本のシーンにとってプラスになります。
――環境が変化してきたなか、日本チームのレベルはどう成長してきたのでしょうか?
Okayama:ほとんど国内でしか戦う機会がなかったころの日本チームは、世界大会で見た作戦を取り入れて、それを練習していました。なので、世界に比べて3カ月から半年くらい作戦が遅れていたんです。すると、それを実践するころには、新しいオペレーターも増えていて、世界大会では新しいメタが出てきている。そこに古い作戦を持っていっても、すでに対策は知られていました。
ですが、日本チームが世界大会に行く機会が増えるにつれて、海外チームからいろんな作戦を吸収したり、コーチがついて海外チームに匹敵する新しい作戦を持ってきたりするようになりました。2018年ごろの日本チームの活躍には、海外チームから「それほど対策する必要はないだろう」と思われていたところに、相手の想像を上回る成長があったという背景があります。
加えて、ほかのチームがやらない作戦を持っていって、それが刺さったというのもありました。1つずつエリアを取って進んでいく『R6S』の戦い方のセオリーを無視して、ど真ん中を突っ切るような、リスキーだけど通れば強い作戦をぶつけたんです。今までそんなことをするチームがいなかったので、相手もそれに対応できなかったんですね。
しかし、やはり世界大会に何度も日本チームが出てくると、チームの作戦や選手のクセなどが相手に研究され、対策されるようになります。なにより、リスキーな作戦は、一度止められてしまうと通らなくなってしまう。それ以降は、そうした作戦の止め方を海外チームがしっかりと準備してきて、対策されるようになりました。
――「Six Invitational 2019」以降は、世界大会でなかなか日本チームが結果が残せない状況が続いています。これには、ほかにも何か理由があるのでしょうか?
Okayama:例えば、NAなら、世界大会を経験するチームが4~5チームくらいいて、そのチームが地域のリーグに戻ってきたときに、彼らが経験したトップレベルの技術がすぐに広まります。一方で、日本からは1チームだけ世界大会に出場することが続いたため、ほかの日本チームに波及しづらく、全体のレベルが上がりにくい状況がありました。
しかも、2020年から2021年にかけては、コロナ禍でオフラインの世界大会がなくなってしまい、それによっても地域のレベル差が広がってしまいました。APAC地域はpingの影響で、NAやEU、ラテンアメリカとのスクリムが現実的ではありません。そのため、他地域のチームと戦える世界大会がなかった期間に、よりガラパゴス化が進んでしまった背景があります。
世界から見て、今は日本チームの立ち位置が低くなってきていますから、危機感もあります。ただ、これから始まる2023年シーズンの大会形式では、日本から世界大会に行けるチームが増えるので、こうした地域による差も縮まっていくのではないかと期待しています。
日本から世界へ3枠、求められるのは“世界で勝てる戦い方”
――2023年シーズンは、日本から3チームが世界大会「Six Major」に出場できると発表されました。この大会形式の変更が、日本のシーンにどう影響すると考えられますか?
Okayama:昨年まで、日本チームが「Six Major」に出るには、APAC Northリーグで上位2チームに入る必要がありました。つまり、APAC Northリーグに出場していた「CYCLOPS athlete gaming」、「Fnatic」、「FAV gaming」、「REJECT」の4チームにしか、世界大会に出られるチャンスがほとんどなかったんです。
ですが、これからスタートする2023年シーズンは、日本が独立した1つの地域となり、RJLとオープン予選の「Six Major Open Qualifier」から、合わせて3チーム「Six Major」に出場できます。オープン予選があることで、RJLに出場する8チーム以外にも世界大会に行けるチャンスが生まれたことは、かなり大きいと思います。
これまで、すべてのチームがチャレンジできるオープン予選は、年に1度しかない「Six Invitational」の地域予選だけでした。それでは、なかなか選手たちもモチベーションを保ちにくいし、チームとしても投資しづらい。それが、今年からは年に2回の「Six Major」でチャンスが生まれるので、選手たちの目標にもなりやすく、チームにとっても投資しやすい状況になります。
実際に、今回の大会形式の発表をうけて、RJLに出場していない複数のチームから、今まで以上に選手たちをサポートして、専業の選手として世界大会を目指せる体制を整えていくという話を聞いています。こうした動きがあるのは、やはりうれしいですね。
――RJLに出場する8チームにとっても、大会形式の変更が影響する部分はあるでしょうか?
Okayama:昨年まではAPAC NorthリーグとRJL、2つの大会が並行して行われていて、それぞれに戦い方が違っていました。国内で勝つための戦い方と、世界で勝つための戦い方は、スピード感などがまったくの別物なんです。なので、両方に出場するチームの選手からは、どちらに合わせて練習すべきか悩む声もありました。
結果として、昨年までは国内で勝つための作戦を持ってくるチームが多かったのですが、これからは複数チームが世界大会に行くようになりますから、世界で勝てる戦い方を練習しなければなりません。なので、RJL出場チームにとっても、これまでとは練習の意識や作戦の立て方が変わっていくと思います。
海外からの見え方を変えた、日本の『R6S』コミュニティ
――長い歴史を持つタイトルということで、それを支える『R6S』のコミュニティについてもお聞きしたいと思います。
Okayama:『R6S』のコミュニティはもともと、本当に小さなコミュニティだったのですが、少しずつ広がって大きくなってきた背景があります。ゲーマーのなかでも、『R6S』をきっかけにeスポーツに興味を持った人も多いと思いますし、それまではかなりコアなeスポーツファンしか知らなかった海外の有名プロチームの存在を、『R6S』の世界大会をきっかけに知った人も多いでしょう。
そのうえ、日本のコミュニティで、海外チームのグッズやチームスキンを買ったり、それをTwitterで報告したりするファンがどんどん増えていったんですね。すると、海外チームも日本のコミュニティや市場の大きさを知って、続々とチームの公式Twitterで日本語のツイートをしたり、日本語の公式Twitterアカウントを作ったりするようになりました。海外チームからの見え方を、日本のコミュニティが変えたんです。
――コミュニティの盛り上がりが、そうして海外チームにまで届くとはすごい影響力ですね。
Okayama:コミュニティの皆さんは、長い人でもう7年も応援してくれていますから、すごく活発な人が多いんです。『R6S』のシーンをより盛り上げたり、好きなチームを応援したりするために、自ら活動するファンの方が多くて、本当にすばらしいことだなと思います。
――コミュニティへの向き合い方として、Okayamaさんが意識していることはありますか?
Okayama:僕自身の向き合い方としては、強制しないことですね。やはり自由なアイデアは重要なものですし、コミュニティの皆さんの行動力もすごいので、「もっとこうやって応援してほしい」と押し付けないようにしています。そのうえで、皆さんがされている活動を、より多くの人の目に留まるように拡散するなどして、できるだけ手助けするようにしています。
――それでは最後に、『R6S』シーンに興味を持つ人や、コミュニティの皆さんに向けたメッセージをお願いします。
Okayama:最近、初心者の方と一緒にプレイする機会が多いのですが、やはり長く続いているゲームなので、少し入りづらいと言われることがあります。でも、最初は戦術的なことはまったく知らなくていいので、まずはとにかく観てもらえるだけでもいいと思っています。例えば、「この選手がカッコいい」とか「このオペレーターが好き」とか、どんな入り口でもいいので何か1つ興味を持って観てみてもらえるとうれしいですね。
2023年のYear8からは、世界大会に挑戦できる日本チームが増えるので、コミュニティの皆さんには、そのチャンスを一緒に楽しんでほしいです。今後も、キャスターとして皆さんにわかりやすく伝えていきながら、運営としても選手やチームのことをよりサポートして、彼らが世界で羽ばたくチャンスを増やしていきたいと思っています。ぜひこれからのYear8を楽しみにしていてください。
――Okayamaさん、ありがとうございました!