今回の研究成果であるフラーレン1分子による電子の分岐器は、光のパラメータを変えることにより、さらに分岐の機能を増やすことが理論上可能だ。分岐を増やすことは、超高速スイッチを1分子に集積させることを意味する。この技術を用いれば、いくらスイッチを集積化しても1分子のサイズは変わらないため、画期的な技術につながることが期待されるという。

また、今回の研究は、スイッチ集積化という技術開発の側面だけでなく、顕微鏡法開発の側面もあるとする。光により固体から出された電子は顕微鏡に用いられ、ナノスケールに潜むフェムト秒やアト秒といった極短時間における現象を、実空間で観測することが可能だ。だがその一方で、このような顕微鏡の空間分解能は10nm程度だった。今回の研究では、FE顕微鏡を用いるとこの分解能を30倍以上の0.3nm程度まで改善させることが可能であることも示されたとする。

現在、さらにFE顕微鏡の分解能を改善させるプロジェクトがさきがけ研究において行われており、まだ誰も達成できていない1生体分子の原子分解能観察を目指しているとのこと。今回解明されたメカニズムにより、原子を観測するための方法は1つではなく、いくつかあることが見えてきたといい、今後それらのアイディアを検証し、世界初の顕微鏡法を開発するとしている。

さらに今回解明された電子の1分子通過メカニズムは、FE顕微鏡が1分子内に潜む特異な電子の広がりを観測するための手法であることも示されているとする。1分子内に潜む電子の特異な広がりにはさまざまなパターンがあり、たとえば2つ葉や、4つ葉、リング構造といったものが見られ、まるで花畑のような世界が広がっているという。これらの構造は、電子が原子レベルの領域に閉じ込められた時に現れ、量子的な効果により引き起こされるものである。つまり、FE顕微鏡は量子という極小の世界を観測できるツールとなり得るとした。

FE顕微鏡は、その動作原理がほかの電子顕微鏡に比べて非常に簡便であるため、少し高価なパソコンの購入価格程度で作製できる可能性があるという。研究チームは今後、1分子に潜む量子の世界を観測できるFE顕微鏡を手に入れやすい価格で作製し、小中学校などの教育機関で使用してもらうことも検討しているとした。