今回の実験で用いられた顔画像は、男女それぞれ2名の怒り、恐怖、喜びとなっており、フルカラーの表情条件の顔画像を1秒間提示した後、10~50ミリ秒の範囲で画像の彩度を70%低下させ、彩度変化が見えるのに必要な最短時間が計測されたという。

その結果、怒り、恐怖だけでなく喜びの条件でも、無表情条件より短い時間で彩度低下が認識されることが示されたとするほか、こうした表情条件間の違いは顔画像を倒立させた場合には見られなかったともしている。

感情反応には、興奮の度合い(ドキッと感じる程度)に対応する覚醒度と、好き・嫌いの度合いに対応する感情価の2つの次元があることから、さらに覚醒度の次元における感情反応の程度が、視覚の時間解像度に及ぼす影響も調べられた。具体的には、引き起こされる覚醒度の反応が大きいと予測される怒り、中程度と予想される悲しみ、小さいと予想される無表情の提示が行われ、視覚の時間精度が計測されたところ、視覚の時間精度は、覚醒度の水準に対応して高くなることが認められたとする。

  • 視覚の時間精度を計る実験

    視覚の時間精度を計る実験 (出所:千葉大Webサイト)

これらの結果について研究チームでは、画像観察によって喚起される覚醒度に対応して、ドキッとするほど視覚の時間精度が高くなり、短い時間間隔の中で生じた出来事を認識しやすくなることを示していると説明している。

  • 表情による視覚の時間精度への影響を調べた実験の結果。時間精度は怒り、恐怖、喜びで、無表情より高かった

    表情による視覚の時間精度への影響を調べた実験の結果。時間精度は怒り、恐怖、喜びで、無表情より高かった (出所:千葉大プレスリリースPDF)

また研究チームによると、これらの結果は、画像の色彩特性ではなく、喚起された感情により、視覚の時間精度が上昇するという前回の研究結果を確認するものであるとしているほか、時間精度の上昇を引き起こすのはネガティブな強い感情に限定されないこと、特に覚醒度次元の感情が視覚の時間精度を上げる効果が大きいことを示すものであるとしている。

なお、今回の研究から、覚醒度が高まるほど視覚の時間精度が高まることが示されたことから、今後、交通事故のような危険な場面や、アスリートがゾーンに入った時などにおける物事がスローモーションに見える現象の解明に向けて一歩前進できたものと考えられるとしている。