NTTドコモは2月2日から28日まで、最新技術を紹介するイベント「docomo Open House'23」をオンライン開催しています。1日には、関係者向けにリアル会場での展示が行われ、発表の一部が公開されました。ここでは、同社が開発した超多人数同時接続、価値観理解、行動変容によるコミュニケーション活性化技術を導入したメタバースサービス「MetaMe」を紹介します。

  • MetaMe

    1万人が同時に同じ空間に集まれるMetaMe

VRChatやclusterなど、メタバースサービスはいくつもありますが、従来のクラウドレンダリング環境の制約によって、1つの空間に同時接続できるのは数十人程度だと言います。メタバース空間で大規模なイベントなども開催されていますが、空間分割やサーバーリソースのスケールを変えることで一時的に同時接続人数を増やしているそうです。

  • ドコモの考えるコミュニケーションの進化

    iモード、SNSと進化してきたコミュニケーションが、今後はメタコミュニケーションになるというのがドコモの考え

空間分割をするなどした場合、同じイベントに参加しているユーザー同士が「出会えない」可能性もあるとのことで、1つの空間に多数のユーザーを大量に収容できる技術を開発しました。新たに開発したクラウドレンダリング技術も活用し、映像処理装置の運用コストも従来比で96%以上低減。コストを削減しながら多人数同時接続を実現したとしています。これによって、最大で1万人が同時接続できるそうです。

  • 超多人数同時接続技術

    いちどに1万人が同時接続しながら運用コストも削減する新たな技術を開発

さらに、特にコロナ禍において「偶発的な出会い」が求められているとして、メタバース上で実現するために「価値観理解技術」を開発。同じ興味関心のある不特定多数を見つけやすくして、コミュニケーションを取りやすい環境の構築を狙います。

  • 価値観理解技術

    従来の行動理解に加えて、さらに感情や動機までもモデル化する価値観理解技術を開発

これは、モバイル空間統計でリアル環境での行動分析で培った技術、バーチャル空間での個人の動き、発話内容、会話相手との関係、表情などから内面感情を読み取ってモデル化する技術を実現したと言います。今後はさらに音声の音色、文脈なども考慮する音声感情を認識する技術、言語関係を理解する技術などを用いて、特定の行動の裏にある動機にも焦点を当てて、さらなる進化を目指します。

加えて行動変容技術も開発。価値観理解技術によって得られた個人の価値観に応じて、高精度のマッチングをする技術で、行動だけでなく感情、価値観にもとづいたマッチングを可能にしたそうです。例えば、動画を視聴している場合に、「1人で退屈している」のであれば同じ価値観の人をマッチングするといった具合です。他にも、「多くの人と同じように驚きを体験したい」といった場合にはコミュニティとマッチングするのだそうです。

  • 行動変容技術

    従来のマッチングだと類似アーティストを紹介するだけだったところを、人やコミュニティとのマッチングも可能にする行動変容技術

状況などに応じて利用者の環境や感情は変化するので、それに合わせてコメントやマッチングで推薦をするといった機能を盛り込んでいるとのことです。

  • 3つの技術からなる新しいメタコミュニケーション技術

    この3つの技術をメタコミュニケーション技術として新サービスに盛り込みます

これを、同社では「メタコミュニケーション」と表現。この技術を盛り込んだサービスとして「MetaMe」を提供します。メタコミュニケーション技術の「事業展開実証」が目的としていますが、サービス自体は正式版に向けて検証していく計画です。2月中にベータ版をスタートし、PC/スマートフォンのブラウザで参加できます。利用者のアバターが空間内を動き、同じ参加者と音声やテキストで対話できます。ブラウザベースなので、対応していればVRゴーグルでも動作しそうですが、基本的にはPC/Android/iPhone/iPadを想定しているそうです。

  • 2月中にベータ版の鄭居を開始する「MetaMe」

    新サービスは「MetaMe」。まずはベータ版として一般公開されます

MetaMeでは、個人の「家」である「Identity World」と、様々なコミュニティが存在する「Community World」の2つの空間が用意されます。Identity Worldは、家具や設備など、個人が自由にカスタマイズ可能な空間で、ビジネスモデル的にはカスタマイズ機能に対する課金なども検討されているようです。

  • Identity WorldとCommunity Worldのふたつの空間

    MetaMeの空間は個人のスペースであるIdentity Worldと、ユーザーが自由に移動できるCommunity Worldで構成されます

  • MetaMeのコミュニケーション活性化機能

    メタコミュニケーション技術を導入した機能によって、コミュニケーションの活性化を図ります

  • カスタマイズ前の空間
  • カスタマイズした空間

    Identity Worldの自宅内は、自由にカスタマイズ可能。コミュニケーションを取るなどして独自通貨を貯めて、家具や服などを買い足すことができます

Community Worldは、他者とコミュニケーションをして、新たなコミュニティを築くための空間という位置づけです。価値観に基づく自己表現とユーザー間の交流を活性化する機能を搭載したとしており、それがメタコミュニケーション技術です。

  • 1万人広場
  • トークディスプレイ

    多数の人が集まって同じ体験を共有したり、同じ趣味嗜好のユーザーとの対話をしたりが可能なCommunity World

アバターの周囲にはオーラのような光が出ていて、その色で共通した感覚のユーザーを示しているほか、対話している人がいたら、その対話内容のキーワードがテキスト化されるので、どういった内容の話をしていたのかが分かり、話しかけやすいように工夫されています。

  • アバターの周囲のオーラ
  • それぞれが持つオーラ

    同じ色のオーラを待とうユーザーに話しかければ、スムーズにコミュニケーションができる……かもしれません

各個人には「ペット」がおり、ログアウトした後もペットが個人の代わりにメッセージを受け付けたり、その人の価値観を示したりしてくれるので、不在でもメッセージを残せます。いずれにしても積極性は必要ですが、同好の士を見つけられるようにしていて、ハードルをなるべく下げようという工夫が見て取れます。

  • コミュニケーションを助けるペット

    ログアウトしているユーザーに対しても、ペットがいるのでコミュニケーションが可能

  • ペットによる価値観マッチング

    ペットがマッチングしてくれるので、自分で探さなくてもマッチングが可能

健康/エンターテインメントなどのCommunity Worldの提供が想定されており、今後はドコモと関係のあるパートナーのワールドを提供する予定です。当初のワールドとしては、宝島ワンダーネットの教育向け「J CLASS ACADEMY」と、香川県琴平町の地域創生・観光向けのワールドなどが提供されます。

  • Community Worldの拡大

    今後、ワールド内のサービスを順次拡大します

  • J CLASS ACADEMY

    宝島ワンダーネットのJ CLASS ACADEMYはオンラインスクールでのコミュニケーションをメタバース化

オンラインスクールのJ CLASS ACADEMYでは、好きな時間や場所で来校できて、講師やカウンセラーへ質問・相談したり、受講生同士で交流したりといったコミュニケーションが可能。もともとのオンラインスクールには、コロナ禍で孤独感を覚える/友だちができないといった悩みがあり、友だちがいないと一緒に学ぶことによるシナジーが生まれないなどの弊害があったそうですが、MetaMeによって受講生が集まる集いの場所が生まれ、こうした課題の解消に繋がることを期待しています。

琴平町は、金刀比羅宮、いわゆる「こんぴらさん」を抱える四国の街ですが、琴平町が持つアート、観光、参拝などのコンテンツをメタバース上で体験できるようにします。現地まで行かなくても体験できてそこからリアルの観光にも繋げる、逆に観光の後に現地で体験を再現したり、現地とのコミュニケーションを取ったりといったことを実現したい考え。

  • 香川県琴平町の事例

    こんぴらさんなどの観光資源を活用した琴平町。リアルからバーチャル、バーチャルからリアルの相互送客を目指します

  • 金毘羅宮

    代表的な観光地である金毘羅宮も再現

  • 街並み1
  • 街並み2

    現実の街並みを再現しています

MetaMeの特徴である、1万人の同時体験を体験できるイベントも用意。サウナのイベントを計画しているそうで、3月には開催する予定です。サウナのイベントで1万人を集めるために、どのようなないようにするのか、どのように集客するのかはまだ不明ですが、サウナコミュニティにも声がけをしてユーザーを集めたい考えです。

  • 1万人規模のサウナイベント

    どんなサービスになるかは不明ですが、サウナを使ったイベントを開催するとのこと

Community Worldでは、パートナーとの協業、価値観で集まる人流、コミュニケーションをフックに人を集めて、送客やコンテンツなどでビジネス化を図る考えです。同社の常務執行役員(CTO)でR&Dイノベーション本部長の谷直樹氏は、「ニーズと事業の実証が目的。3つの技術の実証が目的の1つで、ちゃんと人が集まるのか、熱量のあるコミュニティができるのかも重要な検証項目」と話します。

  • 実際の画面

    実際の画面。画面に浮かんでいるテキストには「サッカー」「ワールドカップ」「カレー」などが表示されていて、これまでの対話内容がキーワード化されているので、興味のある内容であれば声をかけてコミュニケーションができます

  • ペットに話しかける

    ペットに話しかけても、そのユーザーの趣味などを教えてくれるので、そこからメッセージを残せます

実証される技術は、今後のサービスでさらなる確立を目指し、他のサービスへも展開できるよう社会実装に繋げていきたい考えです。

  • 谷直樹氏

    MetaMeを紹介したNTTドコモ常務執行役員(CTO)・R&Dイノベーション本部長の谷直樹氏