分子科学研究所(分子研)、静岡大学、科学技術振興機構(JST)の3者は1月19日、有機キラル超伝導体を用いた電子デバイスの最新技術を応用し、キラル超伝導体中に発生したスピン蓄積の観測に成功し、これまで曖昧だったキラルな結晶構造とスピン蓄積との関係を明らかにし、磁石の表面でキラリティを分別できることを実証したと発表した。

同成果は、分子研 協奏分子システム研究センターの山本浩史教授、同・広部大地助教(現・静大)、総合研究大学院大学の中島良太大学院生、分子研 メゾスコピック計測研究センターの岡本裕巳教授、同・成島哲也助教(現・文部科学省)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

分子には、右手(右巻き)と左手(左巻き)のように、基本的な構造は同じだが、鏡に映した関係のために重ね合わせることのできない2種類の構造を持つものがある。このように右巻きと左巻きの2種類を持つ分子はキラルな分子と呼ばれ、キラルな分子の場合、右巻きは薬になるが、左巻きは逆に毒になるということもあるため、その区別(キラリティ)は重要だとされている。

近年のキラリティの分別方法として、「キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果」を応用する手法が唱えられている。CISS効果により、キラル分子を通過した電子はそのスピンが揃って出てくるが、そのスピンは分子のキラリティの違いで反対の方向を向くことから分別できるというもの。ただし、分子が気体や溶液の中で自由に回転できるため、CISS効果で出てきたスピンも一緒に回転してしまうという課題があったという。

  • CISS効果の模式図

    CISS効果の模式図。同効果は、電子がキラル分子を通過してくると、進行方向に対して平行または反平行に電子スピンが向く効果のことをいう。実際にはキラル分子の形は多種多様だが、ここではわかりやすいようにDNA などに見られるらせん構造で分子の左右が表現されている (出所:JSTプレスリリースPDF)

そこで唱えられるようになったのが、互いにそっぽを向いたスピン2つが分子の両端にあれば、キラル分子のキラリティ分別ができるのではないか、という仮説だという。しかし、分子はとても小さいので、そのような“2つの互いにそっぽを向いたスピン”が、キラル分子に存在するかどうかを確かめることができておらず、これまで曖昧なままだったとする。

そこで研究チームは今回、キラル分子そのままではスピンの分布を観察するのに小さすぎると考え、より大きなキラル構造を有する「キラル超伝導体」を使って検証実験をすることにしたという。

超伝導体中には多数の電子があるが、量子力学的な波の位相が揃っており、分子の中で見られるような量子力学的干渉効果を、少なくとも1000倍以上の長さスケールで観察できるようになるかもしれないという。つまり、キラル超伝導体があたかも1つの大きなキラル分子になり、CISS効果を“拡大して”検出できる可能性があると考えたためだという。