例えば、脱Twitterのソリューションとなる「Fediverse」です。Twitterのデイリーアクティブユーザーは約2億6,000万人。Facebookの19億人に遠く及ばず、米国ではソーシャルツールとしてマイナーな存在です。そんなTwitterがイーロン・マスク氏に買収されたことがなぜこんな大騒動になっているかというと、英語圏のメディア、テクノロジー、金融において価値のある言論を広げるユニークなソーシャルグラフを持っているからです。

メディアを例にすると、ジャーナリストやライター、アナリストが互いにフォローし、自分達が関係している媒体の垣根を超えて発信したり、意見を述べ合うプロフェッショナルのつながり(コミュニティ)が形成されています。ソーシャルメディアとしてTwitterから直接ニュースを得る一般のネットユーザーはそれほど多くはないものの、メディア関係者の間で密度の濃い情報が交換され、文化的影響力が大きい言論が広がる場になっています。そこがTwitterと他のSNSの大きな違いです。

ただ、Twitterはそうした強みを収益につなげることができず、継続して黒字を出すことができないサービスになっており、不安定な経営を脱するために「イーロン・マスク氏による買収」という劇薬を飲み込みました。

  • マスク氏のCEO就任直後の大規模人員削減が大きく報道されましたが、経済環境を考えると、同氏が買収していなかったとしてもTwitterは大規模リストラを避けられなかったと見られています

マスク氏の舵取りによって事業の黒字化の可能性が高まったものの、Twitterの運営に同氏の意向が強く反映され、TwitterをTwitterたらしめてきた独自性が失われる可能性が出てきました。一般ユーザーの多くにとっては大きな変化ではありませんが、ジャーナリストなどにとってそれはTwitterの崩壊を意味します。だから、ユーザーの活動がサービス運営にコントロールされる中央集権型のSNS(Twitterなど)を脱し、Mastodonなど分散型のソーシャルネットワークへのジャーナリストなどの移動が始まっています。そうした独立性を持った小さなプラットフォームがつながる環境が「Fediverse」です。

ただ、自身でMastodonなどのサーバー(インスタンス)を立ててサービスを運用するのは容易な作業ではありません。知識もコストも必要です。誰かのインスタンスを利用するならそのサーバーのルールがSNSの活動に適用されます。過去に何度かMastodonが話題になった時に大きな動きにならなかったのは、現状では厳しい困難が伴うからです。しかし、今回はTwitterを離れる決心をしてFediverseという新天地に進み始めた人達がいて、分散型のソーシャルネットワークの課題の解決を求める確かなニーズが存在しています。

  • 昨年12月、ブラウザ「Firefox」などを開発する非営利団体Mozillaが、パブリックアクセス可能なFediverseのインスタンスをMozilla.Socialにおいて2023年初頭に立ち上げてテストする計画を発表しました