全国の小中学校に1人1台のコンピュータ環境を導入する「GIGAスクール構想」の整備が進められたなか、ICT教育の先進自治体として全国の教育関係者に名が知られているのが熊本市。そのなかでも特別な存在なのが、JR熊本駅近くにある熊本市立五福小学校です。私立の有名進学校が名を連ねる「Apple Distinguished School」のなかで、唯一公立校から選ばれた小学校なのです。

そんな五福小学校に、ティム・クックCEOがサプライズで来訪。児童がiPadを用いた授業に取り組んでいる様子を見学し、「少人数のチームを作って自発的にアイデアを出し合いながら学習を進めているのは、アップルの仕事の進め方と同じ。iPadを用いた共同作業が学びを加速させているのを感じました」と、GIGAスクール構想でiPadを導入した学校の成果に手応えをつかんでいました。

  • 熊本市の公立小学校の授業を見学したアップルのティム・クックCEO

  • 五福小学校のエントランスには、Apple Distinguished Schoolの垂れ幕が。Apple Distinguished Schoolは、iPadなどのアップル製品を巧みに活用して先進的な学びに取り組んでいることがアップルに認定された教育機関にのみ与えられる称号だ

少人数の共同作業で学びのスキルを高める

ティム・クックCEOがひょっこり現れたのは、五福小学校の3年生の国語の授業。絵本「モチモチの木」を題材に、主人公の気持ちを考えながら朗読してiPadに録音し、GarageBandのアプリを使ってシーンに合ったBGMを付けていく、というクリエイティブな内容です。

  • 国語の授業ながら、iPadのGarageBandを用いるというユニークな内容となっていた

  • 絵本「モチモチの木」の英語版。この表紙の切り絵に見覚えのある人は多いはず

担任の荒川美穂子先生が作業の内容を説明し終えたら、児童たちは机の向きを変えて3~4人ずつの班に分かれ、iPadを手にしてワイワイと議論しながら学習を開始。この「少人数の班に分かれて学習を進める」というスタイルは、以前取材した熊本市内の別の小学校でも見かけました。

  • 机を動かして3~4人のグループに分かれ、少人数のメンバーで議論をしつつ学習が進められた

  • 作ったBGMをメンバーそれぞれで聞き合いながら、意見交換して仕上げていく姿も

熊本市は、iPadの活用に成功している学校や先生への聞き取りや授業見学を市の教育委員会や教育センターが実施し、研修や授業支援を通してほかの学校や先生に知識やノウハウを共有する仕組みを整えています。この仕組みのおかげで、ITに詳しい先生がいるいないにかかわらず、市の学校全体でiPadを効果的に活用できるようになっているのです。

授業を見学したティム・クックCEOは「先生がクラスをチーム分けしたうえで授業を進めているのがとても印象的でした。これは、アップルにおける仕事のやり方と同じです。子どもたちが自分のアイデアをGarageBandに盛り込み、クラスメートの前で発表する技術を身につけているのにも驚きました。子どもたちは、これからの人生で重要なスキルとなる共同作業や創造性を身につけ、学びをさらに加速させていくでしょう」と評価していました。

  • チームで話し合いながら課題を仕上げていく様子を見守るティム・クックCEO

  • 英語ができる児童に対しては、iPadを操作しながらアドバイスしていた

  • ふだん家でもiPadは使っていますか、などと気さくに問いかける場面も

さらに、ティム・クックCEOは「優れたテクノロジーの活用方法をよく理解している先生方がいるからこそ、子どもたちの学びや創造性が養われ、彼らの能力が最大限引き出せるのです。未来のスキルを育てるべく、iPadを授業に取り入れて最大限に活用すべく奮闘している先生方に、私は心から拍手を送りたいと思います」と、全国の学校の先生にもエールを送りました。

  • ワールドワイドマーケティング担当 上級副社長のグレッグ・ジョズウィアック氏も授業見学に同行し、笑顔で子どもたちとコミュニケーションした

「熊本ができたことは、日本のどの自治体でもできる」

ティム・クックCEOにも評価された熊本市のGIGAスクールの先進的な取り組みですが、熊本市の大西一史市長は「かつて熊本市はこの分野で出遅れていた」と振り返ります。「熊本地震で被災をした際、当時はICT教育が整っていなかったこともあり、学びを止めてしまいました。それを教訓に、先生や教育関係者が協力して取り組んで体制を整備し、さらにiPadというデバイスを取り入れたことで、現在はICT教育で最先端のポジションになれました。熊本ができたことは、日本のどこの自治体でもできるはずです」と語ります。

  • ティム・クックCEOに熊本城の写真集を贈呈する熊本市の大西一史市長

クラスの現場を担う荒川美穂子先生は「今回の授業は、主人公の気持ちを音読+αで表せないかという狙いがあります。iPadを用いた朗読の録音やGarageBandでのBGMの追加は、小学3年生には難しいかな…とも思っていたのですが、まったくの杞憂でした。子どもたちは、私が教えていないことでも友だち同士で教えあって操作でき、こうやったらうまくできましたと教えてくれるほどなんです」と、子どもでも直感的に使えるiPadを評価していました。

  • ティム・クックCEOが見学した授業を担当した荒川美穂子先生

本田裕紀校長は「iPadを導入したのはわずか4年前ですが、子どもたちがみずから問いを持って学習を進めたり、探求的な学びを進めるようになりました。iPadを持っていろいろな場所に出かけ、地域の人に話を聞いてまとめたり、逆に地域の人に学びの内容を説明したりしています」と、学びの姿が変わったことを体感していました。

  • 五福小学校の本田裕紀校長

遠藤洋路教育長は「ティム・クックCEO、日本の学校を見るのは初めてだとうかがいました。これまで東京や京都などにしか行かれていないのに、熊本にお越しになったのはとても光栄です」と感慨深く語ります。

  • 熊本市の遠藤洋路教育長

熊本市の取り組みを参考にしてiPadを授業で効果的に活用し、次にティム・クックCEOが訪れる自治体はどこになるのでしょうか。