「宇宙電気化学」と命名されたこの新たなモデルでは、水と岩石の相互作用によって発生した水素分子ガスが電子供与体として働き、流体と鉱物の界面でアミノ酸を宇宙電気化学的に変成するという点が特徴だという。

その変性の詳細は、まず岩石コアと地下海マントルの水/岩石質量比(W/R比)の違いにより、pHと酸化還元度に勾配が生じるところから始まる。W/R比が低い(<1)多孔質で岩石に富むコアでは、流体はアルカリ性(pH9~13)に緩衝され、蛇紋岩と磁鉄鉱が主要な鉱物として存在。流体中には電子供与体となる水素分子が豊富に含まれている。水素分子が酸化されプロトン・水になると電子が発生し、その電子は導電性鉱物を介して移動して硫化鉱物とマントルの流体の界面でアミノ酸の触媒的還元変成の引き金となるというものである。

今回の研究では、3種類のモデルアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン)がアミンとヒドロキシ酸アナログに分解され、この2種類の化合物がアミノ酸と共存した状態で水質変成を強く経験した炭素質コンドライトに濃縮することが見出されたという。

  • アミノ酸の宇宙電気化学的変成のモデル

    (左)氷微惑星(炭素質コンドライト隕石の母天体)における、水と岩石の相互作用によって引き起こされるアミノ酸の宇宙電気化学的変成のモデル (C)Li et al. Nat. Comm. 2022、(右)CRコンドライト中のアミノ酸、アミン、ヒドロキシ酸の有機的分布に基づく、変成支配型と合成支配型の特徴 (C)Li et al. Nat. Comm. 2022 (出所:東工大ELSI Webサイト)

反応においては、炭素質コンドライトにも含まれている鉄とニッケルの硫化鉱物が重要な触媒として機能する。8チャンネルの電気化学反応器を用いて、酸化還元条件や触媒の違いによる反応速度の変化が調べられた。

今回の研究は、太陽系の氷天体における有機物進化を理解するための新しいステップを踏み出すものだと研究チームでは説明しており、アミノ酸の宇宙電気化学的変化が、太陽系氷天体に見られる派生有機物や関連分子の起源である可能性を提唱している。

なお、今回の説は、将来の準惑星ケレスや、生命が期待される土星の衛星エンケラドゥス、そのほかの氷天体の探査ミッションにおいて検証することが可能だという(2023年に「JUICE」、2024年10月に「エウロパ・クリッパー」と木星の氷衛星がターゲットの探査機が打ち上げられる予定)。

また、このモデルと結果は、はやぶさ2が訪れた小惑星リュウグウ物質に生じた地理化学的プロセスの理解にも役立つ可能性があるともしている。