「いい感じの」音楽に欠かせない鍵盤楽器のひとつにオルガンがある。ゴスペル、ジャズ、ロックンロール、ジャズ、フュージョン、プログレ、etc……、ジャンルを問わず、名曲の中にオルガンサウンドが息づいているケースは非常に多い。そんなオルガンサウンドを気軽にギターで再現できるのが今回紹介するElectro-Harmonix「B9」だ。早速レビューしてみたのでご紹介しよう。

まさにオルガンマシーン!

冒頭でも紹介したとおり、今回紹介するElectro Harmonix社の「B9」は、オルガンサウンドをシミュレートしたエフェクターになる。60年代から現在まで、脈々と続いているオルガンサウンドの歴史を凝縮したかのようなプリセットが9種類揃っており、簡単な操作で自分が再現したいサウンドをすぐに再現できる製品になる。

筆者がエレキギターを弾き始めた頃のヒーロー達が生み出す名曲の多くにオルガンサウンドが入っており、自分でバンドを組み始めたときには“あの曲”やりたさに、必至でキーボード弾きを探し回ったこともあったほど。当時の日本にはピアノ弾きか、YMOよろしくシンセサイザー弾きの2極化していたこともあって、なかなかロックオルガンを弾いてくれるキーボードプレイヤーが見つからなかった。もし、その当時にこれがあったら、あんな苦労はなかったのに、などと本気で思ってしまう(冗談です)。

筆者の“あの曲”とは、もちろんジョン・ロードのいたディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」、「スピード・キング」などなど。オルガンソロをギターで弾けばいいのだが、そうするとさらにギターばかりが目立つことになり、バンド内の不協和音がいっそう高まることに(経験済み)

話は脱線したが、B9から出力されるオルガンサウンドクオリティはまさにプロレベル。一度音を聞けば納得の製品に仕上がっているのがお分かりいただけると思う。

  • Electro Harmonix「B9」。同ブランド共通の一見、無骨だが、使ってみたくなる面構えのエフェクターだ

こちらで筆者が実際のサウンドを紹介しているので是非参考にしていただきたい。使用ギターはFender Stratocaster、アンプはHughes & Kettner TubeMeister 18 COMBO。録音環境は、ギター→Electro Harmonix B9→アンプのセッティング。アンプはクリーンチャンネルを使用。スピーカーサウンドをコメントと同時にリアルタイム撮影している)

サウンドメイクは超かんたん

このエフェクターにはノブが5つついており、それぞれDRY、ORGAN、MOD、CLICK、そしてプリセットを選択するダイヤルとなっている。

DRYは、ギターの生音とシミュレーターサウンドのミックス具合を調節するノブで、左側いっぱいに回せばオルガントーンだけという選択も可能となっている。

ORGANはプリセット音の音量を調整するためのノブで、簡単にいえばエフェクターのアウトプットの音量レベルを調整するボリュームノブだと思えばよい。

MODはプリセットに設定されているモジュレーション(コーラス、トレモロ、ビブラート)の掛かり具合を調整するノブで、エフェクト音に大きく影響するので、このエフェクターの中では唯一慎重にセッティングしたい部分となっている。

CLICKはギターのアタック音を独特のパーカッシブなトーンに変換する機能のレベル調整に使われるノブとなっていて、曲調によって合わせていきたい部分となる。

基本的にはプリセットで選んだサウンドをこの4つのノブで決めていくだけとなるので、とてもシンプルな構成といえる。オルガンをギターで再現、というと、難しいサウンドメイキングを強いられると思ってしまいそうだが、実際にはほとんど悩まず必要な音にたどり着けるようになっているところもギタリストとしては好感が持てる部分となっている。

  • サウンドコントロールを決めるのは4つのノブ。シンプルな設計だ

収録されている各プリセットを紹介

肝心のプリセットは9種類あり、それぞれ個性的なオルガントーンを再現している。

プリセット1「Fat & Full」

原音のオクターブ上と下が追加されており、本機の中では一番豊かなトーンが出るのが特長。このプリセットで曲中に和音を入れるだけでサウンドの奥行きが一気に広がる実践的な音色といえる。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット2「Jazz」

ジャズプレイヤーのジミー・スミスを彷彿とさせるトーンだとメーカーは説明している。その説明通り、ジャジーでありながらあらゆる音楽に対応できそうなポピュラーさもあり、思わずにんまりしてしまうようなサウンドとなっている。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット3「Gospel」

オクターブ上のドローバーが加わったソウルフルなトーンとなっている。まさに数々のゴスペルの名曲を彷彿とさせるサウンドなので、“いかにも”というトーンが欲しいというケースには最適といえる。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット4「Classic Rock」

ちょっと歪みが入ったトーンは、まさに古き良きハードロックサウンドを再現。ギター弾きには実に馴染み深い音なので弾いていて一番安心感がある。ギタリストとしては最も出番が多くなるであろうプリセットではないだろうか。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット5「Bottom End」

「Gospel」とは逆にオクターブ下のドローバーが加わっているのが特長。出てくるサウンドも低い方に広がりがあるトーンなので、落ち着いた曲調や、ベースラインを再現するようなシーンで効果がありそうだ。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット6「Octaves」

基本のトーンに1オクターブ上の音が追加されたタイプになる。扱いやすいので、どんな曲にも合いそうなトーンが得られるので、使いやすいイメージがある。モジュレーションにはコーラスが使われている。

プリセット7「Cathedral」

これはまさにパイプオルガンそのもので、ロックサウンドにマッチしそうなトーンとなっている。まさにキーボード要らずでイントロやソロパートで活躍してくれそうなサウンドだ。モジュレーションにはトレモロが使われている。

プリセット8「Continental」

クラシックコンボオルガンのトーンが再現されている。これも扱いやすいサウンドなので「迷ったらこれ」といった切り札的に使えそうな音が出てくる。モジュレーションにはビブラートが使われている。

プリセット9「Bell Organ」

エレクトリックピアノとオルガンのミックスで、コケティッシュで魅力のあるトーンが再現されている。使いどころは難しいが、個性的なサウンドなので上手に活かせばかなりの効果が得られそうなプリセットだ。モジュレーションにはトレモロが使われている。

個人的には「Jazz」、「Classic Rock」、「Continental」あたりが使いやすく感じる。DRYによるミックス具合と、モジュレーションの掛かり具合に関しては完全に好みだが、モジュレ―ションの効きが非常に良いので、やや抑えめにしたほうがオリジナルサウンドを活かせるように思う。

ミュージシャン、ビル・ルパートによる公式のデモ演奏動画。オルガン音の再現性をご覧あれ

バンドアンサンブルの切り札的存在

実際のB9のサウンドについては動画を撮っておいたのでそちらを参考にして欲しい。筆者の感覚では、トリオバンドやギター2本の4人編成バンドなどでワンポイント的に使うと非常に効果的なイメージがある。DRYOUTがあるため、アンプ2台による生音とオルガンをそれぞれ出力できるので個性的な演出も可能。これまでにない音圧や奥行きが加わる切り札的な存在になってくれると思う。

和音やバッキングはもちろんだが、実はソロプレイにも使え、速弾きへの追従性もかなりのもの。スリリングなオルガンフレーズを再現したり、ギターにしかないベント、チョーキング、ビブラートなどと組み合わせれば、フレージングの表現力が非常に高くなる。サウンドのクオリティがとても高いので様々な点で可能性を感じさせてくれるエフェクターといえるだろう。

ちなみに購入を考えている人は同メーカーから出ている同じオルガンマシン「C9」との比較に悩んでいる場合も多いと思う。筆者の感覚では、代表的なオルガンサウンドはB9、使用アーティストの仕様に寄せているのがC9という切り分けだと感じている。どのような曲をやりたいかにもよるが、応用範囲が広いのがB9、往年の名曲を完全再現したいならC9といえるのではないだろうか。もっともその辺は好みにもよるので、実際に楽器店などで試奏させてもらって音を比べてみるとよいだろう。

こちらはメーカー公式のC9の動画。プリセット名が「Lord Purple」だったりして、あの人のあの音にアジャストされているのがB9との違いだ

B9の価格は3万5,000円前後(筆者調べ)となっており、クオリティを考えればコストパフォーマンスが十分感じられる価格帯での販売となっている。“あの”オルガントーンが欲しい、弾いてみたいと思うギタリスト諸兄におすすめしたい製品といえる。