その結果、多くの近赤外線はトーラスの1/10ほどの最も内側の領域で放たれて、トーラス内のCO分子によって吸収が起きていることが判明。これは、トーラスの10分の1程度の小さな構造だけを抽出して観測していることと同等であり、CO吸収線を分光できれば、トーラスを直接高解像度で撮像せずとも、トーラス内のガスの動きを調べられることを意味するという。
さらに、CO吸収線スペクトルには3つの異なる速度成分があり、その内2つはブラックホールへ降着するガスと、逆にブラックホールの活動によって噴き出されるガスを捉えていることが明らかにされた。実際、研究チームの過去の観測でも同じような吸収線スペクトルが観測されており、今回の理論予測と整合しているとする。
また、流体モデルによると、降着するガスは一定の割合で噴き出されるガスに転換され、トーラスのような厚みのある構造を生じさせると考えられている。そのため、CO吸収線はこのようなガス転換の現場を見ており、トーラスの厚みの形成メカニズムを制限する有力な手段になると期待できるともしている。
なお、今回の手法は、直接撮像が不可能である遠方の天体にも適用することが可能であることから、これによりトーラス内の運動を体系的に制限でき、研究チームの究極の課題である「トーラスの厚みの形成メカニズム」を解明できることが期待されるとしている。