7月27日・28日の2日間、メタバース関連の有力企業が集う招待制イベント「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」が都内で開催されました。Meta社を中心にメタバースの共創を目指す約30の企業・団体・官公庁が参加し、ビジネスと技術の両面からさまざまな講演やデモンストレーションが行われました。
エキシビジョン会場にブースを連ねる十数社の中には、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイルといった通信事業者の名前もありました。5Gの本格展開、あるいは“スマートフォンの次”の時代に向けて携帯キャリア各社はどんなアイデアを練っているのか、その一端を覗いてみましょう。
NTTドコモ:バーチャルイベントやARイベントの支援サービスを商用化
ドコモブースの展示内容は「XR World」「XR City」「Matrix Stream」「NTT XR Space APP」の4つ。いずれもすでに実用化が進んでいるサービス/プラットフォームです。
XR Worldはバーチャル空間内でのコミュニケーションを楽しめるサービスとして、3月末にスタートしました。ブラウザベースで提供されており、高価なヘッドマウントディスプレイなどを用意しなくても、アプリ不要かつ基本無料で手持ちのスマートフォンやPCから気軽に参加できます。
この手の新しいサービスには、まずは最新技術やメタバースビジネスに関心の高い層が集まっているのかなと思いきや、担当者によれば実は若年層のアクティブユーザーが急増しているそう。というのも、「リスアニ!LIVE 2022」やLDHなどとのタイアップ展開を行っており、各コンテンツのファンに認知された結果、メタバースの流行とは別に話の合う仲間と集まれる場として、狭く深い範囲で定着しているのです。
サービス自体は、バーチャル空間内を歩き回ったり、エモートやチャットで会話ができるという程度で目新しい機能はないものの、掲示板やSNSの延長線上にある不特定多数のユーザー同士がコミュニケーションを取れる場所には、時代が進んでも変わらない需要があるということでしょう。
7月から商用化されて本格展開が始まったXR Cityは、AR技術を使った「新感覚街あそびアプリ」。スマートフォンにアプリを入れ、特定のスポットに持って行くとさまざまなコンテンツを楽しめます。
内容は場所によって異なり、たとえば新宿中央公園では、リアル脱出ゲームで人気のSCRAPが制作したAR謎解きゲーム「へんてこアニマルと5つの扉」をプレイできます。
Matrix Streamは、バーチャルアイドルの音楽アイドルなどに使われるリアルタイムXRライブエンジン。すでに実用化されており、ヘッドマウントディスプレイでの鑑賞に限らず、スマートフォンやPCで視聴する際にも恩恵を受けられます。
現実世界の音楽ライブなどでも、あらかじめ決められたカメラワークに縛られず、多数のカメラで撮影された映像を自由に切り替えながら自分の見たいところだけを追えるマルチアングル映像や自由視点映像を見られるケースが少しずつ増えてきています。
カメラ数を増やすことに制約の少ないバーチャル空間の強みを活かし、会場で流されていたMatrix Streamのデモ映像は実に14種類もの視点を選べる仕様となっていました。
最後に、NTT XR Space APP。こちらは仮想空間でのイベント開催やショールーム展開を支援するBtoBのソリューションなので、エンドユーザーがこの名前を見聞きする機会は少ないでしょう。
このソリューションを活用した事例として、「ドコモ30th anniversary festival」をMeta Quest 2で体験しました。実物を3Dスキャンして作られた精密な歴代携帯電話の展示、モーションキャプチャーでその場にいるようにリアルに動く井伊基之社長のあいさつなど、顧客の要望次第で手の込んだコンテンツも載せられるプラットフォームであることが伝わってきました。ちなみに、このドコモ30周年記念バーチャルイベントは「DOOR」というアプリをインストールすれば誰でも見学できます。
ソフトバンク:仮想空間にソフトバンクショップ、迫力満点のVR投球体験も
ソフトバンクブースの展示内容は「ソフトバンクショップ in ZEPETO」と「バーチャルPayPayドーム」。流行を取り入れながら、新しいアプローチで自社のサービスや施設をアピールしています。
バーチャル空間上に出店されたソフトバンクショップでは、実際に会話しながら相談できるショップクルーが待機。壁面に並ぶポスターはWebサイトへのリンクを兼ねており、申込手続きそのものはオンラインショップに誘導する形です。
つまり対面契約の仮想化を目的とした取り組みではなく、新時代のソーシャルプラットフォームとして成長中のこの場所自体に、ユーザーとの新たな接点になり得る集客力などのポテンシャルを見出しているわけです。
ソフトバンクショップの“メタバース店”はZEPETO以外にMetapa上にも出店されています。ZEPETOの強みは、メタバースというテック界隈のトレンドから離れたところでも、アバター着せ替えアプリとして流行しており、オンラインでおしゃれを楽しむ若者に人気があることです。特にZ世代の女性ユーザーが多いと言われています。
ソフトバンクショップ in ZEPETOでは、お父さん犬が描かれた限定アイテムを購入でき、ここでしか買えないアバターアイテムを求めてユーザーが集まります。リアル店舗に訪れる機会が少ない若年層との接点を増やすきっかけ作りとしては効果的でしょう。
バーチャルPayPayドームとはその名の通り、福岡ソフトバンクホークスの本拠地「PayPayドーム」をバーチャル空間上で再現したものです。現地での観戦経験がある人なら本物さながらの光景に思い出がよみがえり「また行きたい」と思うでしょうし、選手ロッカーなどまでバーチャル見学できる楽しみもあります。
もちろん、ユーザー同士のコミュニケーション機能も完備。チャットだけでなく、「ジェット風船を飛ばす」「ラッパを吹く」といったアクションも用意されているため、現地観戦のような一体感を味わえそうです。
そして、このバーチャルPayPayドームの目玉機能は「バーチャル投球体験」。実際の試合の投球データと連動し、バッター/キャッチャー目線でプロの投球を体験できます。
「ここまで来たらやっぱり打ちたい」という声に応えて鋭意開発中だそうですが、通常はまず見られない選手目線でプロの球の威力を見られるというだけでも体験の価値はあります。コンテンツそのものは無料で、スマートフォンを差し込むタイプの簡易VRヘッドセットさえ用意すればバッター目線の光景が目前に広がります。
楽天モバイル:メタバースを支えるエッジコンピューティングに勝機
楽天モバイルのブースでは、ヴィッセル神戸と連携した5Gによる新しいスタジアム観戦体験の実証実験について映像で報告されていたほか、アパレルのバーチャル店舗の実演が行われていました。
東北楽天ゴールデンイーグルスや楽天ヴィッセル神戸といった複数のプロスポーツチームを抱える楽天にとって、通信サービスだけでなくその先に待つコンテンツの魅力が問われる5G時代の通信事業者のビジネスモデルの変化は好都合でしょう。バーチャルとリアルの融合による体験価値の向上が重要なメタバースもまた、ECサイトの豊富なノウハウと通信事業者という立場の強みがうまくかみ合えば、特にバーチャルコマースの分野では有利と思われます。
今回の出展では他事業者のブースで見られたような実用段階の事例が披露されたわけではなく、具体的なサービスの将来性は今後の展開に注目といったところ。一方、技術寄りの内容では、MNO参入当初からうたわれている「完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク」とメタバースの親和性の高さもアピールされていました。
楽天モバイルの完全仮想化とは、平たく言えば、高価な専用ハードウェアが多数必要になる一般的なモバイルネットワークに対し、汎用ハードウェアをベースにソフトウェアで実現できる部分は極力専用ハードを排した設計とすることで、コストダウンと柔軟な運用を可能にしようという考え方です。楽天モバイルは日本国内で通信事業を営む一方、海外の通信事業者に対してこのシステムそのものを売り込むことがもう一つの事業の柱と位置付けています。
この完全仮想化クラウドネイティブネットワークの性質上、5Gのメリットのひとつとして期待されるエッジコンピューティング(サーバーで行われる処理の一部をネットワークの末端、ユーザーに近い場所に移して遅延を減らす技術)を行いやすく、低遅延の処理が求められるメタバースにも役立つという考えから、実際にどのような処理をエッジに置けば効果的なのか、大学などの協力も得ながら検証を進めています。