ズバ抜けて高い撮影性能が評価され、カメラグランプリ2022にも輝いたニコンのフルサイズミラーレス「Z 9」。この春に公開した最新ファームウェアでは、シャッターを押す最大1秒前にさかのぼって決定的瞬間の写真を記録できるプリキャプチャ機能を新たに追加したことが写真ファンの間で大いに話題になっています。もともと高性能で定評のあるZ 9にプリキャプチャ機能が加わるとどんなことになるのか、落合カメラマンに多くの実写写真を交えて検証してもらいました。
あのZ 9に「さかのぼり撮影機能」が加わってしまった
ゴールデンウイークを目の前にした2022年4月20日、ニコン「Z 9」が大幅なファームアップを敢行した。その進化の幅は、「1.11」からいきなり「2.00」に飛んだファームウエアバージョンからもうかがい知れようというものだけど、いやぁ、チカラ入ってますなぁ、ニコンさん。さすがは、「あんすっとぱぶる」を標榜するZ 9であります。「もう俺たちのことは止められねぇZっ!!」と表明すると同時に、ここで立ち止まるワケにはいかないとの自覚もあるのでしょう。頼もしい限りです。
とはいえ、手元にZ 9があってコソのファームアップではある。予約を入れたところで無慈悲な“待ち”を宣告されたままになっている皆様には、「ファームアップどころじゃねーぜ、おい!」ってな、お辛い日々を過ごされていることと思うのだけど、その点、未だ手を出すことができないでいる私などは、けっこうお気楽なモノ。でも、ここで「Ver.2.00」を味わってしまったのが運命の分かれ道になりそうだ。「一度使うと絶対に惚れちまう」と言い切っていたZ 9が、さらに妖艶なカメラになっていることを実感するに至り、完全に骨抜きのフニャフニャになってしまったからである。こ、これは、今すぐにでも手に、入れ、入れ、たい、かも…。うわぁぁっ~(物欲制御不能状態)。
腕利きカメラマンを泣かせるほどの破壊力
Z 9用の新ファームウエアは、まず動画関連の大幅な機能アップが前面でアピールされているようなのだけど、個人的には、ソコに刺さってくる要素はなかった。Z 9を動画撮影機であるとは捉えていないからだ。私にとってZ 9は、あくまでも写真を撮るためのカメラ。古き良きフラッグシップ一眼レフのテイストを感じさせる、心地よき重厚感にあふれる希有なミラーレス機との認識だ。なので、動画関係の進化にはまったく興味がない。すみません・・・。
というワケで、今回一番ハマったのは「プリキャプチャ」の実装。これは、実際のレリーズタイミングから過去にさかのぼって「写真を撮ることができる」魔法のような機能で、つまり「今だっ!」と思った瞬間にシャッターボタンを押していたのでは撮れなかった(撮影が間に合わなかった)ものが余裕で撮れるようになっている。大切なのは「余裕で」の部分。実際に味わってみてブッ飛んだ。撮りたくても撮れなかった(あるいは偶然に頼るしかなかった)瞬間の撮影が造作なく実行できてしまう(撮れてしまう)のだから。こりゃ、心折れる職人気質カメラマン続出かもしれませんぞ。
Z 9の場合、さかのぼれる時間(プリ記録時間)は「なし」「0.3秒」「0.5秒」「1秒」から選ぶことができる。ここを「なし」にしておくと、普通のハイスピードフレームキャプチャ撮影(Z 9にもともと備わっているAF・AE追従で30コマ/秒、もしくは120コマ/秒の連写ができる機能)での撮影になる。つまり、Z 9が新たに実装したプリキャプチャは、ハイスピードフレームキャプチャ撮影の拡張機能であるということ。というワケで、プリキャプチャ撮影時に生じる制限、および係る諸条件は、ハイスピードフレームキャプチャ撮影に準ずることになるので注意が必要だ。
そして、もうひとつ設定しなければならないのは「レリーズ後記録時間」。こちらは、シャッターボタンを全押ししたあとに記録し続ける時間で「1秒」「2秒」「3秒」「最大」が選択肢として用意。「最大」では、最長約4秒間の記録が行われるとのことなのだけど、この数字もハイスピードフレームキャプチャ撮影の最長記録時間とイコールだ。
同種の機能で先行した機種にはないメリットや工夫も
この手のさかのぼり撮影機能は、身内以外ではオリンパス「OM-D E-M1シリーズ」や「E-M5 Mark III」、OMデジタルソリューションズ「OM-1」などにはすでに搭載実績がある(機能名称は「プロキャプチャー」)。それらとの比較でZ 9の同様機能が“新しい”のは、まずは「フルサイズミラーレス機としては初」の搭載であるところ。ここは、超高感度時の画質的優位性に繋がる要素であると個人的には捉えている。
また、フル画素45MPで撮れる場合は、画素数的にも有利との認識も可能だろう。こちらは、トリミング耐性に関わるとの受け止めで優位性を実感しやすいかもしれない。ただし、Z 9のプリキャプチャでフル画素撮影ができるのは、30コマ/秒設定時のみ。120コマ/秒時は、画像サイズがサイズS=約11.4MPに限定されることになる。これは、ハイスピードフレームキャプチャ撮影にもとから存在する制限で、記録がJPEG・NORMALのみになるのも同様の“縛り”だ。なお、参考までに、撮影データに関しては、OM-D E-M1 Mark II/Mark IIIとOM-1のプロキャプチャーはJPEG、RAW両記録が可能。キヤノンEOS R7のRAWバーストモードはRAW記録のみとなる。
そしてもうひとつ、Z 9のプリキャプチャには、関連設定が「時間」で示されているところが分かりやすくて優しい。オリ/OMのプロキャプチャーは、「さかのぼって撮影できるコマ数は最大70コマ」(OM-1)といった感じの「コマ数くくり」がベースの解説&設定なので、「さかのぼれる時間」は事前に設定するプリ連写コマ数と秒間コマ速の組み合わせ次第。そのぶん細かな設定ができるわけなのだけど、実際の動作をリアルに認識するには、設定時に軽~く暗算する必要があるってことで、少々ヤヤコシイのだ。
ちなみに、身内を振り返ると、あの「Nikon 1」の「V3」に、Z 9のプリキャプチャほぼそのままの機能がすでに搭載されていた事実に突き当たることになるのだけど、Z 9のプリキャプチャって、ひょっとしたらあのときの雪辱を果たすべく満を持して復活した機能だったりして。もしそうなのだとするならば・・・その執念深さ、全力で応援しまっせー(笑)。
プリキャプチャと相性がよすぎる100-400mmにゾッコン
光学ファインダーに匹敵するといっても過言ではない飛び抜けて良好な“見え”を有するEVFと、打てば響くかのような各種動作レスポンスに支えられてのプリキャプチャ撮影は愉快、痛快そのものだった。“肉眼では認識不能な狙った瞬間”という一種、難解な一瞬が、毎回ほぼ間違いなく撮れるというのはマジでヤバい。これまでの写真人生がひっくり返るほどの快感なのである。バッテリー残量がみるみるうちに減っていくことがないのもイイ。なんていうか、無遠慮に使い倒せる「普通さ加減」がジツにヨイのだなぁ。
なお、今回は「NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S」も借用したのだけど、2,950g(ヨンニッパとしては十分に軽い)+1,340g(Z 9ボディ)=4kgチョイのコンビを手にレリーズチャンスを手持ちで待つのはけっこうな大仕事であると、早々に白旗をフリフリすることになっております(ナサケナイ・・・)。ニヒャクマンエンの超高級超望遠レンズを目の前にしながら、ヘタレな私はアッサリNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sに逃げてしまったのだ。
いや、でも、コチラの望遠ズームが想像以上のデキであることを実感できたのは思わぬ収穫だった。望遠側の引き寄せ効果に余裕を見せるテレ端画角と、その400mm時の最短撮影距離0.98mが発揮する寄り効果(近接撮影能力)の「ダブル寄り」において、Z 9およびプリキャプチャ機能との想像を超える好バランスをハッキリ確認することができたからだ。フットワークを活かしてのプリキャプチャ撮影では、ヨンニッパよりも数倍イイ写真が撮れたと思っている。
おかげで、私の中では「Z 9には100-400mm」「プリキャプチャにも100-400mm」、そして「Z 9とNIKKOR Z 24-120mm f/4 SとNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sがあれば、とりあえずは無敵!」という“新たな常識”が生成されることになってしまった。合計100万円チョイでこのゴールデントリオが組めるとなれば、けっこうお買い得・・・かな?? 金銭感覚が完全にイッちゃってる気もしますが。
さらに、DXフォーマットのZに「瞬間」「高速」「時間泥棒」的なコンセプトに特化したボディが存在してもよいのではないかとの思いも頭をもたげてきている。つまり、Z 9の高速性とプリキャプチャ的な機能を真っ直ぐに引き継ぐ、“速さ”に特化した「DXフォーマットのZ」待望論の勃発である。言うだけは簡単で本当に申し訳ないのだけど、「Nikon 1」のオトシマエをつけるにゃ、おあつらえ向きのハナシだと思いますがねぇ~。今やらなきゃ、いつやるんですかい、ニコンさん? 期待してますよ。ゲッヘッヘ・・・。