ニコンファンのみならず、多くの写真ファンから熱い注目を集めているニコンのフルサイズミラーレス「Z 9」。いち早くZ 9を試した落合カメラマンも期待以上の仕上がりだと実感したようです。Zマウントの望遠ズームレンズに加え、Fマウントの超望遠レンズを用意し、動体に対するAF性能のすごさを試してもらいました。今回は、測距点の位置を示した「NX studio」のキャプチャ画像をすべての作例に添えていますので、Z 9の優れた被写体認識性能も合わせてチェックしてみてください。

  • ニコンが2021年12月下旬に販売を開始した「Z 9」。カメラ量販店での実売価格は70万円前後だが、強い品薄で入手困難な状況となっている。装着しているレンズは大三元の望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」(実売価格は32万円前後)で、こちらも2021年8月の販売開始以来入荷待ちの状況が続く

ニコンに対する信頼と期待の高さがほとばしるZ 9

なななな、なんと! 本稿執筆時点(2021年12月下旬)、ニコン「Z 9」の次回出荷が「2022年10月以降」になるんじゃないかという話が…。要するに、発売日に手に入れられなかった人がZ 9を買えるのは、ヘタすりゃ約1年後ってこと? マジすかー。

世界的な半導体不足(かなり端折った言い方ですが)のあおりを受け、生産調整やディスコンに追い込まれるカメラが散見できるなか、難産の末やっとこデビューを果たしたZ 9にとっては、二つ目の障壁とでもいうべき、この無慈悲な現実! 一部のクルマも似たような状況に追い込まれているらしいこの頃ではあるけれど、今の世の中1年後に自分が、いや、この日本が、いーや世界がどうなっているのかなんてまったくわからんのに、その“待ち”は正直キビしいっスよねぇ。え? 幾ばくかの内金を入れちまえば、残金は残りの一年間でナンとか工面すりゃいいんだからラッキー! って? お、おう。すでに買ったも同然となれば貯金にも精が出るってもんで、たしかにそーゆー考え方も…。いやいやいや、ダメでしょ。買いたいモノはお金を貯めてから買いなさいっ(笑)。

発売日に手に入れた人って、多くの場合Z 9に触らず、それが本当はどんなものであるのかわからないまま買っているんだよね? それだけ「Z 9の仕上がり」は信用されているということなんだろうな。つまり、Z 6(II)やZ 7(II)とはベツモノであるという“読み”が最初からあったワケだ。これぞ、ニコンに対する信頼と期待の表れである。 

まぁ、なかには別の目的で早期の入手を果たしている人もいるだろうけど。だって、これだけ長期間、入手困難となれば転売価格は…ねぇ。でも、その手の先読みができる人は絶対に写真家よりもお金持ち。人生の先読みができてりゃ、フリーカメラマンを35年近くもやっておりませんし(自虐)。

野鳥撮影で明確な進化を感じたAFまわりの性能

で、実際にZ 9を使ってみたら、これはもうね、期待通りというか期待以上というか。とにかく、テンバイヤーを蔑む気持ちなど瞬時に消し飛ぶほどの痛快で爽快な使い心地でありました。やったね、ニコン! コイツを早期に手に入れた人、大正解。今までの「Z」とはカ・ン・ペ・キにベ・ツ・モ・ノだ。

一番違うのはAF。動体への対応力が完璧なものになっている。カメラのAFに対する個人的な評価軸は、5年以上前から測距点自動選択時の動体捕捉&追従能力に置いてきているのだけど、その観点においてZ 9は先行してきたソニーとキヤノンにちゃんと追いつくことができた。これは「Z」としては初の偉業である。従来の「Z」を基準とするならば、まさしく月とスッポン雲泥の差。素晴らしい進化がそこにはある。

ただし、被写体認識(検出)に関しては、被写体の種類を見分ける数(9種)は最多を誇るも、認識動作の振る舞いそのものはソニーと同等、キヤノンよりはチョイ下の手応え。より小さな被写体を認識する(見分ける)能力に長けるのはEOS R5やR6、EOS R3であり、背景や前景にピントを持って行かれたときの復帰が容易なのもキヤノン勢であるとの印象だ。Z 9は、とりわけ背景に張り付いたピントを引き剥がすのに難儀することが多かった。捉えたい被写体が画面内で小さく、なおかつ背景のコントラストが高い場合、測距点自動選択(被写体検出含む)ではあっけなく背景にピントを取られ、その状態から脱するのがエラく大変なのだ。

もっとも、これは今回の作例に多く使っている「鳥」を初期設定のまま撮っている時の話。人間が主体の競技もの(画面内に被写体の占める割合が多い、主要な被写体が際立つ「色」を纏っているなど)である場合は、もっと違った「至近優先」主体の挙動を見せることになるだろうし、開発段階での機能追い込みも、おそらくおもにそういったシチュエーションで行ってきたのではないだろうか。「乗り物」を認識させた場合も、致命的な挙動を見せることはなかった。自分のフィールドに合わせ自分なりにAF関連のセッティングを煮詰めていけば、このあたりの印象を変えることは十分に可能であると思う。

なお、被写体認識の設定は「オート」にお任せよりも「人間」「動物」「乗り物」を任意に切り替えて使った方が、動作のスピードと認識の確実性は上であるとの手応えだ。まぁ、これは当然の成り行きだろう。もちろん、オート設定で決定的に困ることもないのだが、撮る被写体が絞られている場合は、任意に固定した方が安心感はナンボか上だ。

ちなみに、認識対象を「動物」に固定した設定で一番、敏感に反応(検出)した人工物が何だったのかと言えば、今回の試用においてはヘリコプターがダントツの一位だった。AFを司るAI君には、ヘリコが鳥に見えていたのかも? なかなか興味深い挙動ではある。

一方、ニコンのミラーレス機としては初の搭載となる3D-トラッキングAFは、旧来のフラッグシップ一眼レフ並みの動作を見せてくれるなど完成度は十分に高いことを実感。ターゲットの捕捉に「被写体認識」を併用できることを考えると、一眼レフ以上の有用性を発揮する機能に上り詰めたと言っても良さそうだ。ただ、被写体やシチュエーションによっては、賢さをグンと増しているオートエリアAFに丸投げの方が結果的に打率向上につながるやも知れぬとの思いも。自分自身の使い方において3D-トラッキングAFの使いこなしがベターなのか、あるいはオートエリアAFを手なずけた方が得策であるのかは、十分な吟味が必要だろう。

  • オートエリアAFでも、ご覧の通りの“最新の動作”を見せてくれるようになっているZ 9。撮影した瞬間の測距点分布を見ると、被写体のカタチをちゃんと認識してのAF動作になっていることが分かるが、これ、ひとつひとつの測距点サイズが大きかった従来のZボディでは得ることのできなかった(しかし先行する他社のモデルではずいぶん前から可能だった)細やかな動作だ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO280、1/2000秒、F5.6、+0.7補正)

  • これは、意図してカタチ作った「革新的な構図」ではなく、撮影者であるワタシの反射神経が被写体の動きに追従できなかったことによる単なるフレーミングミス。でも、Z 9はちゃーんと被写体を認識しながらピントを合わせ続けてくれていた。スゴすぎるぜZ 9。ありがとうZ 9!(笑)(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO800、1/2000秒、F5.6、+0.7補正)

  • 測距点枠のサイズから推測するに、Z 9のAFはしっかり「瞳」を認識。位置のズレは、測距とレリーズのタイムラグによるものと考えられ、撮影の瞬間に被写体とカメラがそれだけ激しい動きをしていたということを示している。しかし、ピント位置検出の精度に影響は皆無だ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO400、1/2000秒、F5.6、+0.7補正)

  • このぐらいの距離感(被写体の大きさ)が顔認識の限界か。もちろん、対象の種類や顔の向きによってもバラツキが出るので一概には言い切れないところではあるものの、被写体認識に関しては、ソニーとは互角、キヤノンやパナソニックがチョイ上との印象だ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO320、1/1000秒、F5.6)

  • この場面では難なく瞳を認識。ピントの精度を確保しつつ自在な構図を活かせるのは本当にありがたい。10年前、これほどの「自由」を手に入れられることを誰が想像しただろう?(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO8000、1/4000秒、F5.6、-0.7補正)

  • 逆光をものともせず、ガッチリ瞳を認識。使用レンズは、マウントアダプター「FTZ II」を介して装着しているAF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRなのだが、小型軽量がウリのFマウント超望遠レンズは、Z 9での使用感もすこぶる良好だった(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO720、1/500秒、F5.6、+1.3補正)

  • 飛行機をキレイに認識している。距離的には、このぐらいが被写体(飛行機)認識にはギリな感じだった。事前に被写体の存在を認知させている状態での遠ざかりでコレなので、逆に向かってくる場合(遠方の被写体を最初に認識させようとした場合)は、もう少し近づいていないと被写体別の認識は難しいかも? もっとも、被写体の種類を見分ける必要性は、ほぼ皆無な状況ではある(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO200、1/1000秒、F5.6、+0.7補正)

  • 画面中央で主要な被写体にピントを合わせ、シャッターボタンの半押しを維持したままこのフレーミングに。3D-トラッキングをフォーカスロック代わりに使用した例だ。フォーカスモードはAF-C。Z 9のAF-Cは、不用意にフラフラすることがないので、安定した距離感の中ならAF-S代わりに使っても何ら問題を生じない。実力の差は、こういうところにも見え隠れするものなのだ(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO100、1/250秒、F6.3、-1.7補正)

  • 20コマ/秒の連写中にも、認識AFは最適な動作をしようと努力、努力の連続。コマごとにフォルム認識と顔認識がめまぐるしくチェンジしているところに、その一端が垣間見られる(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO4000、1/2000秒、F5.6、-0.7補正)

  • 認識対象が複数存在する場合は、被写体の種類が違っても基本は「至近優先」の動作になるというが、現実には「認識しやすい被写体が優先」されてのAF動作になることが絶対的に多い。この場合も、最も手前のターゲットは完全スルー。肉眼でも視認しにくいので仕方のないところではあると思いつつも、パナソニックの認識AFだったら見つけ出していたかも…なぁんて気がしないでもない状況ではある(NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S使用、ISO100、1/640秒、F2.8、-0.7補正)

  • これは、現時点の認識系AFが等しく抱えているといってもいい弱点が露呈している例。「撮りたい被写体を100%しっかり認識してAFが動作しているのに、撮りたい被写体にピントが合っていない」のだ。被写体を認識する人とピントを合わせる人が別々、すなわち両者の連携にまだ改善の余地があるということで、克服も時間の問題とは思うのだが、越えるべき壁はけっこう高そうな気も…(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO180、1/200秒、F8.0)

  • 水鳥を撮っているときに遭遇する機会の多かった事象。被写体認識がナゼか"虚像"の方に引っ張られることが多かった。実害はほぼ皆無も、ナゾを解明したくなる楽しげな挙動ではある。AIにナニかヘンなモノを喰わせているのかも(笑)(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO4000、1/2000秒、F5.6、-0.7補正)

次回は、高感度画質に対する意外な印象と度肝を抜くクオリティを有することになっているEVFなどについて触れる予定だ。しかし、まぁ、なんというか、Z 9を使ったこと、ちょっと後悔だなぁ。だって、これ、一度使うと、ホレるなってのが無理な相談になっちまいますからーっ! 

  • たまに「おやっ?」と感じる部分もあったものの、Z 9のAF性能や被写体認識性能の高さを体感した落合カメラマン。もちろん、ミラーレスの大きな弱点といわれてきたEVFの仕上がりや、電子シャッターで気になるローリングシャッターゆがみの程度など、まだまだ確認すべき点は山ほど。後編でさらに使い込んでもらいました!