そして開発された手法の実用性を実証するため、ネオジムパラジウムゲルマニウム化合物「Nd3Pd20Ge6」を用いて、原子の磁気の強さが求められることとなった。まず、その磁気散乱強度の温度変化が、研究用原子炉「JRR-3」の中性子を用いて測定され、(1)転移温度TN=1.8K以下で中性子の強度が増大し、これは希土類元素であるネオジム原子に磁気が発生していることに由来する、(2)さらに約0.3K以下で急激に中性子の強度が増大する。これはネオジム原子の原子核に磁気が発生したことが理由である、(3)原子の磁気による散乱強度と、原子と核の両方の寄与を含む散乱強度の比を求めると、原子と核の磁気の強さを比較することができる、(4)核の磁気の強さは正確にわかっているため、その値を使えば原子の磁気の強さを容易に求めることができるといった流れに従って、原子の磁気の強さが求められたところ、この物質のネオジム原子の磁気の強さを決めることができたとする。

  • 開発された新しい方法の測定対象

    (左)磁性原子の磁気の強さを決める従来の方法の測定対象。(右)今回開発された新しい方法の測定対象 (出所:JAEA Webサイト)

従来手法では、数百に及ぶ散乱ピークの強度測定を実施し、その補正を行い、さらに結晶の構造モデルによる計算と比較を繰り返すなどの手間をかけてはじめて結晶構造と磁気構造が決定されていたが、今回の手法では、1つの磁気散乱ピークを測定するだけで十分であり、データ解析によって得られる磁気構造や結晶構造の情報も必要ないことが示されたとする。

  • 核磁気と原子の磁気の比較から原子の磁気の強さ

    核磁気と原子の磁気の比較から原子の磁気の強さ(磁気モーメントの大きさ)を決める方法 (出所:JAEA Webサイト)

なお、研究チームでは、今回実証された手法は原子核に依存するため、原理的にはさまざまな磁性元素について適用可能で、磁気を帯びた磁性体中の磁性元素を特定することができるとするほか、同手法を応用すれば、磁性元素が複数存在する物質の磁気を元素ごとに特定し、磁気の大きさをそれぞれ決めることが可能となり、これにより通常は解析が困難な、複雑な磁気構造や結晶構造の解明に役立てることができるようになるとしている。

また、磁気の強さは磁性体の重要な性質であり、その発現機構の理解が重要なことから、このような研究を通じて、強力な磁石を発生する磁性体の開発などに役立てることにつなげたいともしている。