リーズナブルなオーディオブランド「1MORE」から、完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル「EVO」が発売となった。ワイヤレスでのハイレゾ再生も可能なハイエンドモデルの実力はどうだろうか。

  • 1MORE EVO

新進気鋭のオーディオ専業メーカー

1MOREはOEM製造で世界的シェアを誇るFOXCONNの元スタッフが、シャオミの出資を受けて設立した、中国のオーディオ専業ブランドだ。日本でもAmazon.co.jpや楽天で販売を行っており、「1More ConfoBuds Pro」など、1万円前後のアクティブノイズキャンセル搭載完全ワイヤレスイヤホンが話題になった。

そんな1MOREから、同社の完全ワイヤレスイヤフォンシリーズのフラッグシップモデルとして「1MORE EVO」が発売された。価格は19,990円で、2022年6月10日までは発売記念として、3,000円引きの16,990円で提供する。

1MORE EVOの特徴は、コーデックとしてSBC、AACに加えて「LDAC」に対応しており、ワイヤレスながらハイレゾ再生が可能で、日本オーディオ協会が認定する「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴを取得している点だ。

  • 1More Evoの箱に燦然と輝く「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴ。LDACをサポートしているだけでなく、いくつかの条件を満たしたイヤホンだけが取得できる

LDACに対応した完全ワイヤレス自体はいくつかあるのだが、ハイレゾオーディオワイヤレスロゴを取得するためには、さらに条件がある。具体的には、受信できるコーデックが、日本オーディオ協会が認定するハイレゾ対応コーデック「LDAC」と「LHDC」(台湾Savitechが開発した 低遅延・高精細コーデック)のいずれかをサポートしており、ハードウェアとして「96kHz/24bit以上の処理能力」と「40kHz以上を再生可能なアンプとドライバー」を備えており、さらに完全ワイヤレスイヤホンでは「左右間位相差を±50μs以内に抑えられた製品」である必要がある。これだけのハイスペックを満たした製品はまだ市場でも少ない状況だが、果たして認定ロゴにふさわしい実力はあるのか。さっそくチェックしていこう。

マルチポイント接続もサポート、バッテリーケースはQi対応

まずはイヤホン本体から見ていこう。イヤホン本体は全体に丸みを帯びたドロップ(しずく)型のハウジング部にカナル型のイヤーピースが付いている。単体で見ると大きめに見えるが、サイズは幅22.03×奥行き20.69×高さ25.11mmと、それほど大きくない。また重さも片側で5.7gと軽量で、装着中はほとんど気になることはなかった。本体およびケースのカラーはブラックとホワイトが用意されているが、今回のレビューではホワイトを試用した。

本体側面はタッチコントロールの操作面になっており、ダブル/トリプルタッチや長押しによって再生・一時停止やノイズキャンセルモードのオン・オフなどが行える。ボイスコントロールにも対応しているが、現時点では中国語のみの対応ということで、残念ながら日本語では利用できないようになっている(後述する設定アプリ内に設定項目がない)。

  • 本体側面のタッチセンサー面は光沢感のあるセラミック製で、ゴールドの縁取りが高級感を醸し出している

本体前面に1つ、背面に1つ、さらに内部に骨伝導マイクがあり、左右合わせて6つのマイクとDNN(Deep Neural Network)によるノイズキャンセル機能で、通話時に送信側の音声をクリアにしてくれる。今回自動車の交通量が多く、騒音が大きめな道路の脇で通話してみたが、騒音が気になることなく1More Evo側の音声を聞き取ることができた。

  • 本体前面の細長い線状の穴が前面のマイク。装着時にはこのマイクが正面を向くように少し回転させて調整するといい

  • 右下の小さな穴が環境音用のマイク。その左の大きめの穴は装着していることを確認するためのセンサーで、金属の2つの端子は充電用端子。ここではイヤーチップを外している

音のキャラクター付けを担うドライバーユニットは同社が独自開発したバランスドアーマチュア(BA)型と、直径10mmのダイナミック(DD)型をそれぞれ1基ずつ採用したハイブリッドドライバーを採用。再生周波数帯域はハイレゾロゴで保証される40,000Hzまで拡張されているという。BAは中高音域に強く、DDは低音域に強いドライバーで、それぞれが担当する帯域を分けることで全体にバランスのいいサウンドが得られるという理屈だ。

イヤーチップは抗菌シリコン製で5サイズが付属しており、ほとんどの人がジャストフィットするサイズを選べるだろう。

  • イヤーチップはXS、S、M、L、XLと5サイズが用意されており、標準ではMが装着されている。XSとS、MとLはそれぞれ見分けがつきにくいが、並べてみると高さが違う

続いてケースも見てみよう。充電器を兼ねたケースはマットな質感のカプセル型で、ツルツルとすべることもなく、なかなか高級感がある。底面が平らになっていて、立てて置くことを前提にしているのがよくわかる。ケースのサイズは幅66.60×奥行き28.61×高さ38.65mm、重さは46.9gで、イヤホンを両方とも収納した状態では58.3gとなる。サイズ感は可もなく不可もなくといった塩梅で、ちょうどいい感じだ。

  • 本体ケースはマットな手触りもよく、こちらもイヤホン本体に負けない高級感を醸し出している

  • 本体ケースのカバーを開けると中央にペアリングモードに入るためのボタンがあるほか、穴の奥に充電用端子が見える

接続は最新のBluetooth 5.2に対応しており、ペアリング済みの機器との自動接続に対応している。残念ながら5.2からサポートされた新しい音楽用コーデック「LC3」には対応していないほか、低遅延のゲームモードなどは搭載していない。

なお、実験的機能として、スマートフォンとスマートウォッチなど、同時に2台の機器と接続できる「マルチポイント接続」もサポートしている。今回iPhoneとAndroid端末で試してみたが、iPhoneで音楽を流した後、同時にAndroidでも音楽を流すと、iPhoneの曲を一時停止した際、自動的にAndroidにソースが切り替わる。またiPhone側の再生を再開してからAndroid側を停止すると、iPhoneに自動的に切り替わる、というものだった。実用上では、PCとスマートフォンに接続しておき、普段はPCでビデオ会議を行いつつ、スマートフォン側の電話にイヤホンをしたまま出る、といったような使い方ができる。執筆時点では正式機能ではないので、利用可能な端末の制限などがあるかもしれないが、なかなか便利そうだ。

  • 「1More Music」アプリの1Moreロゴメニューに「実験的機能」があるので、ここからアクセスする

ケースのバッテリーは容量約450mAhで、USBによる充電時間は約2時間。イヤホン(バッテリー容量約48mAh)を約1時間で満充電にできる。本体ケースにイヤホンを収納すると、イヤホンとケース側双方に仕込まれた磁石により、磁力でカッチリと端子に接触するため、確実に充電が行える。ただ、筆者の指が太いせいかもしれないが、ケースからイヤホンを取り出しにくかったのはちょっと気になった。ケース前面に充電状況を表すLED、背面にはUSB Type-Cポートを備えており、ここから充電が行える。また無接触充電「Qi」によるワイヤレス給電も可能だ。

  • 付属のUSBケーブルはType A to Type-Cのショートタイプ。充電には別途USB充電アダプターが必要になる。もちろんモバイルバッテリーでも充電可能だ

  • ケーブルで充電中の電力を測定したところ、5V・0.45A=2.25Wだった。USB Type-Cコネクターではあるが、内部はUSB 2.0と考えて良さそうだ

  • Qiの充電用コイルは底面に埋め込まれているようで、横向きにしても充電できない。スタンド型になっている充電器ではなく、平面タイプの充電器を使おう

再生時間は、イヤホン単独ではANCオンの状態で、公称で最大約5.5時間となっており、ケースのバッテリーとイヤホンのバッテリーを併用すれば、合計で最大約28時間の再生が可能。また 15分間の充電で最大約4時間のオーディオ再生が可能なクイック充電にも対応している。実際にANCオンの状態で約5時間程度再生できたので、公称値はほぼ正確といっていいだろう。

アクティブノイズキャンセリングには同社独自の「QuietMax」を採用しており、公称で最大42dBのノイズカット能力があるとのこと。ちなみにソフトフォームタイプの耳栓の静音能力がおよそ30dB程度、AirPods Proで約35dBカットできると言われているので、42dBというのはかなりの能力だ。

ノイズキャンセルは飛行機や電車内などの騒音が大きな環境向けで、最大能力を発揮できる「ディープ」、カフェやショッピングセンターなど中音域向けの「マイルド」、強風など屋外のノイズに向いた「風切り音防止」、環境音に合わせて自動的にレベルを変化させる「スマート」の4モードが選択できる。

  • 付属ソフトでノイズキャンセルやパススルーのモードを指定可能。設定しておけばイヤホン単体のタッチ操作でも切り替えはできる

ノイズキャンセルの効果はかなり強力で、BGMや人の話し声が絶えず聞こえる昼時のファミレスであれば「マイルド」でもほぼ無音、電車の中でも「ディープ」にすれば、走行音は気にならないレベルであり、音楽を楽しむのには十分だった。同社の既存モデルではホワイトノイズが気になるという声もあったようだが、本機では周囲が無音の場所で低い空調のようなノイズが若干聞こえるものの、さほど気にするほどではないと感じられた(そもそも周囲が無音ならノイズキャンセルはオフでいい)。

また、ノイズキャンセル効果を受けつつ、アナウンスや話し声が強調して聞こえる「パススルー」機能でも「環境パス」と「ボーカルエンハンス」の2モードを設定できる。「ボーカルエンハンス」では声が一度録音されたような感じで、ちょっと違和感を覚えたが、聞こえやすさとしては確実に「環境パス」よりも人の声が強調して聞こえるので、きちんと効果はあるようだ。

アプリによるカスタマイズも豊富

1MORE EVOは「1More Music」アプリによってノイズキャンセルやパススルーのモード設定、タッチセンサーのタップ操作、Bluetoothの接続設定などが行える。

  • Bluetoothの接続設定では、接続性重視(AAC)と音質重視(LDAC)の2種類が選択できる。音質重視にした場合、高ビットレートで接続するようになるが、ノイズや干渉の影響を受けたときに切断しやすくなるため、電波が飛び交っている飲食店や乗り物の中などにはあまり向かない

また、アプリ左上の1Moreロゴメニューにある「スマートバーンイン」は、新しいイヤホンのドライバーを馴染ませるために、何時間か音を再生させる、いわゆる「エージング」の機能だ。オーディオマニアの間ではよく行われている操作だが、特に知識がなくてもアプリ内で完結できるのは便利だ。

  • スマートバーンインでは自動で矩形波やホワイトノイズなどを流してドライバーを最適化させる。初回は12時間と表示されるが、連続で実行してはEVO側のバッテリーが持たない。何度かに切り分けて行えばいいらしい

目玉機能としては、Sonarworks社の「SoundID」を使ったカスタマイズが挙げられる。これはアプリ内でA・Bのパターンを聞いてどちらが好みかを選ぶテストを繰り返していくと、好みの音に合わせた補正用のセッティングプロファイルが作成され、適用されるというもの。今回は公平を記すためオフにして評価を行ったが、曲を楽しむ上ではオンにして使いたいと思わせるものがあった。

  • SoundIDではA/Bテストを数回繰り返すことで好みのサウンドに調整できる。筆者が実際に試してみたところ、低音がちょっと強めで好みに近いセッティングになった

デュアルドライバー&LDACの効果は大

スペック的な紹介はこの程度にしておいて、肝心の音質についてチェックしよう。1More EvoはSBCとAAC、LDACのコーデックが利用できるが、標準ではSBCになっており、AACやLDACを選びたい場合はシステムの「設定」→「接続済みのデバイス」で1More Evoを選び、「デバイスの詳細」で「HDオーディオ」をオンにする必要がある。ここで「1More Music」アプリの「Bluetooth接続設定」から「接続安定性優先」を選んだ時はAACに、「音質優先」を選んだ場合はLDACが選べるようになる。ちなみに本機はiPhoneでも利用できるが、iPhoneではAACのみなので、LDACの選択はできない。

  • Androidの場合は端末によってサポートするコーデックが異なる。LDACによるハイレゾ再生を楽しみたい場合は、必ずスマートフォン本体がLDACをサポートしていることを確認しよう

今回の実験では、接続するスマートフォン本体にはSBC/AAC/LDACに対応したモトローラの「moto g50 5G」(Android 11)を使用し、音楽ソースにはApple Musicのハイレゾロスレス音源を選択した。Apple Musicは通常、16ビット/44.1kHz、256kbpsのAACコーデックだが、ロスレスおよびハイレゾロスレスではALAC(Apple Lossless Audio Codec)を採用しており、ロスレスで24ビット/48kHz、ハイレゾロスレスでは最大24ビット/192kHzでエンコードされている(ただし大半は96kHz)。

Bluetoothの仕様上、ソースがなんであれ、転送時には必ずコーデックによるエンコードが発生するので、オリジナルより音質は劣化してしまうのだが、LDACならAACの約3倍以上のビットレートがあるため、AACより高い音質で転送できるはず、というわけだ。

さて実際にSBC、AAC、LDACを聴き比べてみた。SBCは全体にカーテンの向こうで演奏しているようで、音の詰まった感じがする。音が潰れてしまっていて細かなニュアンスが聞き取りにくい感じがあるのだが、これをAACにするだけで、細部の表現はだいぶ良くなった。SBCでは一つのまとまった音と聞こえていたものが、AACではそれぞれの音が個別の音として聞き分けられる感じ、と言えばわかりやすいだろうか。

さらにLDACにすると、AACよりも一段と解像感を増し、さらに生々しい空気感を纏ってくる。特に奥行き感はかなりリアルに感じられ、AACではだいぶ情報量が削ぎ落とされていることに気付かされる。コーラス部では各人の声の違いもはっきり聞き取れるようになり、AACでは聞き分けられなかった小さな声も聞き取れるようになった。そしてこれは多少の差はあるにせよ、ハイレゾではない、ロスレスやAACでも同様の傾向があったのには驚かされた。AACでは相当な情報が欠落していたことになるわけで、一度LDACを味わうと、ちょっとAACに戻る気になれそうにない。ハイレゾロスレス音源であれば、より高い情報量の詰まった、さらに感動的な音を楽しめる。もちろん、高性能なDACと有線接続ヘッドホンとの組み合わせには敵わないだろうが、ワイヤレスの快適さに加えてこれだけの高音質を両立できるのであれば、少なくとも筆者の耳に関しては、その差は全く気にならない。

一つ注意したい点としては、LDACを選ぶと、2.4GHz帯を利用する機器が多い場所、たとえばファミレスや電車の中などでは、接続がブツブツと細切れになる可能性がある。通信に使う帯域が大きいため、電波の競合の影響を受けやすいためだが、こうした場所では素直にAACを使ったほうがいいだろう。

惜しい点としては、一部の高級モデルが採用している、Dolby Atmosなどによる空間オーディオについては対応していない。Dolby Atmosは音楽だけでなく、動画視聴の際にも効果があるため、非対応なのは正直もったいない。

また、イヤホンによっては低遅延なゲーミングモードを搭載しているものもあるが、1More Evoには残念ながらこうしたモードが搭載されていない。実際にAACやLDACでリズムゲームを遊んでみたが、かなり健闘してはいるものの、やはり遅延はどちらのモードでもそれなりに出る(そもそもLDACは遅延が非常に大きい)。対象ユーザー層が違うと言ってしまえばそれまでだが、フラッグシップモデルだけに「全部載せ」を期待してしまうところだ。いずれもファームウェアアップデートで対応できるようなものではないかもしれないが、将来の対応に期待したい。

1More Evoはリーズナブルな価格でハイレゾ音質を楽しめる、コストパフォーマンスの高いイヤホンだ。LDACを利用する場合、対応するスマートフォンはAndroid専用で、かつ機種も選ぶことになるが、AACでもデュアルドライバーの恩恵は十分味わえる。音質はもとより、質感や装着感も高級モデルにふさわしい。ノイズキャンセルの能力も優秀だ。今回テストに使用したmoto g50 5Gのように、リーズナブルな端末でもLDACをサポートしているものが登場しており、これらと組み合わせることで、比較的安価にハイレゾ級の視聴環境を整えられる。日々の音楽視聴体験をリーズナブルにアップグレードしたいという人は要注目の1台である。