アップルが、3月18日に新しいiPhone SEを発売します。iPhone 13シリーズと同じ最新のA15 Bionicチップを載せたエントリークラスのiPhoneが「5G入門機」としてイケてるスマホなのか、実機を試した筆者のホンネを報告したいと思います。

  • コンパクトでスリム、軽快な操作感とTouch ID内蔵ホームボタンを継承した第3世代のiPhone SE

【Q】A15 Bionicチップの効果は実感できますか?

iPhone SEは、iPhoneファミリーのエントリーモデルとして人気です。Touch ID指紋認証センサーを内蔵するホームボタンを初代のiPhoneから今もなお受け継ぐデザイン、ユーザーフレンドリーなインターフェースも本機が愛される理由のひとつと言えます。

そしてなんといっても、内蔵ストレージ64GBのモデルが57,800円で買える価格の手ごろさも、「はじめてのスマホ」「はじめてのiPhone」を求める方々のニーズにジャストミートします。

これまでアップルは、iPhone SEには最新上位機種のiPhoneよりも少し前の世代のチップを搭載して、性能の差から生まれるユーザー体験にあえてギャップを設けてきました。ところが、第3世代のiPhone SEにはiPhone 13/13 Proシリーズと同じA15 Bionicチップを惜しげもなく載せています。

アップルの狙いとして、iOSの無料アップデートに今後も長くiPhone SEがキャッチアップできるように余力を担保するため、現段階で最新のチップを載せたこともあるのだと思います。A15 Bionicは2017年に発売されたiPhone 8が搭載するA11 Bionicチップと比べて、CPUは約1.8倍、GPUは約2.2倍、そしてAI処理を担うNeural Engineは約26倍の高い性能を備えています。アプリの起動、コンテンツの再生、Apple Arcadeのゲームなどは、サクサクとした動作が実感できます。

  • Neural Engineの処理性能はiPhone 8と比べて約26倍に高速化しています

パワフルなNeural Engineが搭載されたことで、書籍や看板の文字をカメラで読み取って瞬間的にデジタルテキストに変換、Web検索や翻訳ができる「ライブテキスト」の使い心地もすごくスムーズです。本機能は、日本語の自動文字認識にはまだ対応していませんが、英語→日本語への翻訳は可能なので、意外に使える場面がたくさんあります。

  • 英語テキストの自動文字認識に対応する「ライブテキスト」。検索や翻訳に活用できる即戦力です

A15 BionicチップがiPhone SEにもたらす恩恵は、動作速度の向上だけではありません。端末の動作時にかかる電力の負荷を効率化できるチップなので、5G対応のスマホなのに、4G LTE対応の第2世代機よりも連続駆動時間が長くなっています。

筆者が第3世代機のiPhone SEを試用してからまだ数日であることを前置きしつつ、現時点での感触をお伝えします。夜中に満充電にしておいたiPhone SEは、朝から夜まで通話やWeb検索、コンテンツのストリーミング視聴などふつうに使ってもバッテリーはだいたい夜の22時ごろに残量20~30%前後を迎える感覚です。

【Q】5Gは速くて便利ですか?

日本国内にも5G通信ネットワークは着々と広がっています。筆者が暮らす都内郊外の町にも、5Gでつながるエリアがこのところ勢いよく広がっています。

「5Gじゃなきゃダメなコンテンツ」は今はまだ少ないように思いますが、それでもiPhoneによる動画・音楽の再生、ビデオ通話も安定することは確かです。新しいiPhone SEで通信スピードの計測を行ってみました。特に、下り側の通信スピードは4Gエリアの場合と比べて、5Gエリアはざっくりと2倍ぐらいのスピードが出ていました。

  • 5G対応iPhoneとして、エリア内では高速・安定したネットワーク通信が利用できました

携帯通信まわりの使い勝手についてひとこと加えておくと、iPhone SEはデュアルeSIM機能に対応していないところがiPhone 13シリーズとの違いになります。デュアルSIMによる2回線同時待ち受けは可能ですが、片側はnano-SIMカードを使う必要があります。今後、コロナ禍が落ち着いてきて、再び海外に足を運ぶ機会が出てきた場合は、デュアルeSIM対応のiPhone 13シリーズが真価を発揮する場面がありそうです。

【Q】「スマートフォンの中で最も頑丈なガラス」は本当に頑丈ですか?

新しいiPhone SEは、iPhone 13シリーズが本体のバックガラスとして背面に採用する強化ガラスを、前面・背面の両方に使っています。第2世代のiPhone SEよりもタフネス性能が向上しました。防水・防塵性能は同じIP67等級です。

iPhone SEのガラスが本当に頑丈かどうか、あえて真新しい端末を地面に落としてみたり、キズを付けて耐久テストを試みる勇気は私にはありません。どうかご容赦ください。

ただ、筆者はiPhone X以来、6インチ前後のiPhone SEよりも重いiPhoneを使っているので、iPhone SEがやけに軽く感じられます。そのうえ、いま使っているサイドフレームの形にエッジを効かせたiPhone 13 Proと比べて、iPhone SEはスムーズにカーブしたデザインなので、うっかりと手を滑らせて落としそうになる感覚が何となくつきまといます。本機を長く使うことになったら、ケースなど本体を保護するアクセサリーを揃えてしまいそうです。

  • ガラスパネル、アルミニウムのサイドパネルが滑らかに仕上げられているので、筆者の場合はケースの装着がマストな感じがしています

【Q】カメラが良くなっているそうですね

はい。特に、A15 Bionicチップに統合されている最新のISP(画像処理プロセッサ)の実力が優れていることから、Deep FusionやスマートHDR 4などの画像合成処理により、ディティールの再現、鮮やかな色合いと立体感あふれるコントラストを再現するコンピュテーショナルフォトグラフィのテクノロジーが新しいiPhone SEにも存分に活きています。

iPhone 13シリーズに搭載されている「ナイトモード」がiPhone SEにも欲しかったところですが、真っ暗な場所はともかく、少し暗めな場所ぐらいならばiPhone SEでもとてもきれいな写真や動画が撮れます。

  • iPhone 13 Proのナイトモードを使って、夜19時頃に街中の花壇を撮影。少し暗い場所で立体感のある写真が撮れます

  • iPhone SEで撮影。ナイトモードがなくても、真っ暗な場所でなければ明るく色鮮やかな写真が撮れます

iPhone 13シリーズには、高精細なHDRビデオが撮れる機能があります。これから新生活が始まるシーズンです。入学式など家族の晴れ姿をきれいなビデオで残したい方は、iPhone SEよりもiPhone 13シリーズに背伸びした方が良いかもしれません。

【Q】5G入門機としてiPhone 13 miniとどちらが良いと思いますか

iPhone SEは5G対応のiPhoneとして、機能と性能、ポータビリティの高いサイズ感などとてもハイレベルにバランスが取れているスマホだと思います。サイズが近いiPhone 13 miniに比べると、同じストレージサイズの128GBのモデルどうしで、Apple Storeの販売価格を比べると23,000円の開きがあります。「5G入門機として」という条件を付けるのであれば、やはりiPhone SEのコスパの良さはとても魅力的です。

しかしながら、iPhoneでエンターテインメント系のコンテンツを頻繁に楽しむようになると、オールスクリーンデザインのSuper Retina XDRディスプレイ、ドルビーアトモスによる空間オーディオ再生に対応する内蔵スピーカーなど、iPhone 13 miniのハードウェアに由来する機能がうらやましくなってくると思います。ゲームも、より広く大きな画面の方が没入できます。

  • 写真はiPhone 13ですが、iPhone 13 miniにも同じ没入感の高いオールスクリーンデザインのSuper Retina XDRディスプレイが採用されています

内蔵バッテリーによるビデオや音楽系コンテンツの再生時間もまたiPhone SEよりも、iPhone 13 miniの方がさらに長くなることも、あらかじめ考慮に入れておくべきです。

【Q】どこか物足りなく感じたところも教えてください

繰り返しになりますが、iPhone SEは5G対応の入門スマホとして非常にバランスがよく、おすすめできるiPhoneだと筆者は思います。あえて“寂しさ”を感じる点を挙げれば、iPhone 13(iPhone 12)向けのMagSafe対応アクセサリーがどんどん増えても、iPhone SEにとってはさほど関係のない話題になってしまうことでしょうか。iPhone SEはQi互換のワイヤレス充電に対応しているので、アップル純正のMagSafe充電器によるチャージはできるのですが、マグネットが吸着しないので注意が必要です。

  • 写真はアップル純正のMagSafe充電器。これからますます充実するMagSafeアクセサリーを楽しむならiPhone 13シリーズがおすすめです

とはいえ、iPhone SEに対応するアクセサリーもアップル純正のものからサードパーティ製品までとても充実しています。発売後にぜひ一度Apple Storeなどに足を運んで、さまざまな角度からiPhone SEを吟味してみることをおすすめします