ボーズのサウンドバーで初のDolby Atmos対応機種となる、「Smart Soundbar 900」が2月から発売されている。メディア向けの体験会が開催され、短時間だが実機の音を聴いてきたので、そのレポートをお届けしよう。

  • Smart Soundbar 900(ブラック)

同製品は2021年9月から米国など海外市場で先行発売され、国内での販売は2022年2月からスタート。直販価格は11万9,900円と高価格なサウンドバーではあるが、先に結論から言ってしまうと、音の良さや機能の豊富さなど、値段に見合った性能を十分に備えており、面倒な調整なしで手軽に良いサラウンド環境が欲しい人にはオススメできる仕上がりになっていると感じた。

  • Smart Soundbar 900の本体前面

角を落とした丸みのあるデザインで、つややかな強化ガラスの天板を採用するなど、高級感ある質感も目を惹く。幅は104.5cmで、50V型テレビの横幅とほぼピッタリだ。カラーは2色展開で、ブラックに加えて、サウンドバー製品では珍しいホワイトも用意する。詳細な仕様は発表時のニュース記事を参照して欲しい。

  • Smart Soundbar 900(ホワイト)

ボーズ初のAtmos対応サウンドバーで、“ボヘラプ”を聴く

Smart Soundbar 900の大きな特徴は、Blu-rayソフトや映像配信サービスなどで採用されている立体音響技術「Dolby Atmos」に、ボーズのサウンドバーとして初めて対応したことだ。

一般的なAtmos対応のサウンドバーでは、天井反射用のアップファイアリングスピーカーを本体上面に内蔵し、いわゆる“オーバーヘッド”サウンドを実現することが多い。Smart Soundbar 900も左右端の上面に同様のスピーカーを備えている点は同じだが、複数のスピーカーユニットと、ボーズ独自の音響技術を組み込んで「他のサウンドバーでは再現し得ない立体的なリアリズムを生み出す」のが特徴だという。

詳細な仕組みは後述するとして、まずは映画『ボヘミアン・ラプソディ』のライブエイドでのパフォーマンスシーンをサウンドバー単体で視聴して、Smart Soundbar 900の実力をチェック。今回の試聴室には55V型のテレビがあり、サウンドバー本体はその前方下に置いていた。

  • 本体正面のアップファイアリングスピーカーを左右端に備える

サウンドバー単体で音を聴いてみると、劇中のステージ上のサウンドと歌声がテレビ画面の中央あたり、つまりテレビと正対している自分の顔のあたりの高さから耳へとまっすぐクリアに届く。それでいて、テレビの画面サイズを超えた上下左右の空間まで、音の広がりが確かに感じられた。広大なスタジアムを埋め尽くす何万人もの観客のざわめきには奥行き感があり、音量を上げているためか低域もしっかり出ていて、サブウーファーを使っているような迫力があった。

まるで複数のスピーカーを配置したホームシアターシステムで聴いた感想のようだが、この音を一本のサウンドバーだけで実現しているというのだから驚きだ。これがもし立体音響に対応していないサウンドバーだったら、テレビの下からがんばって音を出している感は否めなくなる。また、ブーミーな低音が響き、「味付けが濃いなぁ」と感じていたかもしれない。

ボーズでは、コンテンツの制作者が意図したとおりの立体的なサウンド再生を目指しているとのこと。Smart Soundbar 900では、Dolby Atmosと独自の音響技術を融合させたことで、全体的なバランスのよいサラウンドサウンドが楽しめる印象だった。高価格で音が良いのはある意味“当たり前”だが、その実力をまざまざと見せつけてくれたかたちだ。

広がりのあるサウンドを実現する“音のビーム”

Smart Soundbar 900の技術的な側面を、もう少し具体的に見ていこう。まずは、あらゆる方向に向けて音をビーム状に放射し、広がりのある音を再現する「PhaseGuide(フェーズガイド)」から。

  • PhaseGuideスピーカーアレイの実物

PhaseGuideは、従来からボーズの据え置きオーディオ製品で採用されてきた技術。PhaseGuideスピーカーアレイと呼ばれる密閉されたチューブのようなパーツには、メッシュ状に穴が空いた金属素材のスリットを備えている。

このパーツの端に備えた小さなツイーターからの高域の音を、チューブからスリットへと放出することで、指向性の高いビーム状の音として放出。音を飛ばしたい方向には同じ位相の音を重ねて増幅し、飛ばしたくない方向にはノイズキャンセリングと同様に逆位相の信号を重ねて音を打ち消すことで、音をビーム状に飛ばす仕組みで、壁などに音を反射させることでサラウンド感を実現する。

  • PhaseGuideスピーカーアレイからツイーターを外したところ

一般的なサウンドバーでは、多数のスピーカーユニットを内蔵することで音に強い指向性を持たせることもあるが、そのぶん本体が大型になってしまう。また、天井からの音とメインスピーカーの音が競合(干渉)して上向きの音の再現が難しくなるという課題もある。

ボーズでは本体をなるべく小型化しつつ、強力な“音のビーム”で指向性を制御する手法としてPhaseGuideを採用しており、小さなユニットから「数百個分のスピーカーユニットの音を出せる」のも強みだという。

Smart Soundbar 900では、上記のPhaseGuideスピーカーアレイ×2に加えて、楕円形のフルレンジスピーカー×4、センターツイーター×1、天井反射用のアップファイアリングダイポールスピーカー×2の計9基のスピーカーユニットを内蔵。

これにより、実際にはスピーカーが置かれていない場所からもピンポイントに、明瞭かつ立体的なサウンドの広がりを実現する。たとえば映画でヘリコプターが通過するときの飛行音が頭上から響いたり、俳優が視聴者のすぐ横を通り過ぎるかのような臨場感を生み出すこともできるという。

  • Smart Soundbar 900の内部構造

Dolby Atmosコンテンツはあまり見ないという人にも、Smart Soundbar 900は「TrueSpace」という有用な機能を備えている。

TrueSpaceでは、一般的なTV放送や音楽などのステレオ音源、5.1ch収録のサラウンド作品など、Atmos以外のコンテンツの音声も独自技術で上方向の音の情報を振り分ける信号処理を行い、上方への音の広がりを補完する。実際に聴いてみると、テレビ番組のBGMや、ステレオ収録された音楽などもTrueSpaceによって音場が広く、聞きやすい音に自動調整されている印象だった。

また、コンテンツをどんな音量で鳴らしても歪みを生じさせない「QuietPortテクノロジー」や、音量に合わせて自動的に音のバランスを最適化するアクティブイコライザーも備えている。

ちなみに、Smart Soundbar 900のセットアップや各種操作は、スマートフォン/タブレット向けの「Bose Music」アプリから行う。最初の設置時や、部屋のレイアウトやサウンドバーの置き場所を変えたあとは、室内に合わせた音響調整を行う必要があるが、このときに活用するのが自動音場補正システム「ADAPTiQ」。AVアンプなどの本格的なホームシアターを触ったことがある人にはおなじみの機能だと思うが、「ピュンピュン」と無機質な音が高さを変えながら何度も鳴り、その音の跳ね返り方で室内環境を測定していくアレのことだ。

ADAPTiQによる自動補正は、付属のカチューシャ状のヘッドセット型マイクをサウンドバー本体の専用端子に有線でつなぎ、頭に装着してテレビ(サウンドバー)の前に座って行うかたちとなる。今回のデモではその測定音だけを聴いてみたが、サウンドバーや壁からの反射で聞こえてくるビープ音が上下左右から立体的に聞こえ、PhaseGuideによる音のビームの指向性の強さを改めて実感した。

手間なく良い音をサウンドバー1台で。多彩な機能、拡張性も

Smart Soundbar 900にはAVシステムとしての拡張性も備えており、別売のサブウーファー「Bass Module 700」(直販94,600円)と、リアスピーカー「Surround Speakers」(同45,100円)を組み合わせて、本格的なサラウンドシステムを構築することもできる。

これらを組み合わせたシステムで、サラウンド音声を収録したアクション映画を試聴したところ、疾走する複数台のバイクの音が前後左右に移動する感じが分かりやすく、爆破シーンなどの迫力もアップ。作品の世界観に深く没入できそうな印象を受けた。

  • サブウーファー「Bass Module 700」(左上)とリアスピーカー「Surround Speakers」(右上)

他にも、ボーズのサウンドバーとワイヤレスヘッドホン/スピーカーを連携させる「SimpleSync」のデモを体験した。サウンドバーに入力された音声を「QuietComfort 45」(QC45)や「Noise Cancelling Headphones 700」(NC700)といったワイヤレスヘッドホンなどで聞けるようにするもので、深夜など周囲に気をつかいながらコンテンツを楽しみたいときに重宝しそうな機能だ。

ワイヤレス伝送だと映像と音のズレや遅延が気になる向きもあると思うが、サウンドバーとNC700から同時に音を出しながら聴き比べたところ、そういった遅延はほとんど感じられなかった。ちなみに、SimpleSync機能の設定はBose Musicアプリから行える。

  • SimpleSyncを活用し、サウンドバーに入力した音声をワイヤレスヘッドホンNC700(右)でほぼ遅延なく聴けた。同機能はBose Musicアプリから設定する

10万円を超えるサウンドバーというだけあって、Smart Soundbar 900には他にも多彩な機能を装備。無線LAN機能を備え、Spotify ConnectやAirPlay 2、Google Chromecast built-in(音声のみ)をサポートするほか、音声アシスタントのAmazon Alexa/Googleアシスタントによる音声操作も行える。Bluetoothにも対応し、手持ちのスマホなどからの音楽のワイヤレス再生も可能だ。音量調整などの基本的な操作はBose Musicアプリのほか、付属のリモコンからも行える。

  • 付属のリモコン

デザインにもこだわりがあり、本体はメタルグリルで覆い、角を落としてインテリアにもなじみやすい形状を採用。天面は耐衝撃性のある強化ガラスで高級感を演出している。物理ボタンはなく、なめらかな仕上がりだ。個人的には、サウンドバーの天面にテレビの映像が反射して映り込むのが気になるが、ここは好みは分かれるところかもしれない。

  • こだわりのデザインを採用。天面には耐衝撃性のある強化ガラスを採用している

ホームシアターといえば、AVアンプと複数台のスピーカーをそろえてケーブルでつなぎ、配置を変えて細かく追い込みながら自分の好みに合った環境を作るイメージがある人は少なくないだろう。だが最近は、手軽にいい音で映画などのコンテンツを楽しめるサウンドバーが増えており、さらにワイヤレスでサラウンドシステムを構築できる製品も増えつつある。

Smart Soundbar 900は高価格帯のサウンドバーではあるが、Dolby Atmosにしっかり対応するだけでなく、サラウンドシステムに求められる迫力のサウンドを単体で実現し、ほぼフルオートの音質調整機能も装備。多彩な機能や、将来的な拡張性も備えるなど、価格に見合うメリットは十分にあると感じる。

おいそれと買える価格ではないが、こだわりのある人の心に刺さりそうな製品といえるだろう。50V型を超える大型テレビに買い替えたり、新居に住み始めたりするタイミングでサウンドバーの購入も考えるのであれば、有力な選択肢のひとつになりうると感じた。