iPad Pro 11インチを最近購入した筆者。M1チップの威力に圧倒されているとき、ふと思いました。M1を搭載したiPad ProとMacBook Airではどちらが速いのか? 同じM1を冠しているから処理速度は一緒? MacやWindows PCを使い続けるのか、それとも新たにiPadをパソコン代わりにするのかで悩んでいる人のために、ちょっとした検証を行ってみました。

M1搭載でもっとも速いタブレットに

Appleが初めて自社製のシステムオンチップ(SoC)である「Appleシリコン」として、Macのために設計した「M1」を発表したのは2020年11月のこと。そしてそれを搭載したMacBook Airや13インチMacBook Pro、Mac miniが同月にリリースされるや否や、その驚異的なパフォーマンスと電力効率の高さに誰もが驚かされました。

「MacBook Airが搭載するM1は、過去1年間に販売されたWindowsノートパソコンの98パーセントが搭載しているチップよりも高速」とAppleが謳ったように、M1は紛れもなくMacを一段とさらなる高みへと押し上げたと言えるでしょう。

そして、そのM1は2021年4月にiPad Pro 11インチ(第3世代)とiPad Pro 12.9インチ(第5世代)にも搭載され、今度はiPadをどんなタブレットよりも高速なデバイスへと飛躍させました。iPad Proに搭載されているM1は、前世代のiPad Proに搭載されていた「A12Z Bionic」よりもCPUパフォーマンスが最大50%高速。一般的にタブレットの性能はPCに劣ると思っている人もいるかもしれませんが、ことiPadに限ってはもはやMac同様の「心臓」を手にしており、従来のパソコン代わりに活用できる十二分の性能を持っているのです。

  • 現行のiPad ProにはMacBookと同じM1チップが搭載されています。CPUとGPUはそれぞれ8コア、次世代の16コアのApple Neural Engineや進的な画像信号プロセッサ(ISP)なども搭載されています

M1の仕様はほぼ同じ

では、M1を搭載したiPad Pro(第3世代)と、M1を搭載したMacBook Airではどちらがパフォーマンスが高いのか。これからメインに利用するマシンとして、iPadを買うか、MacBookシリーズを買うかで悩んでいる人は気になるところでしょう。

まず、Appleはその仕様を公開していませんが、「GeekBench 5」というベンチマークアプリを使って搭載されているM1の詳細を確認してみると、iPad Proのほうはプロセッサの動作周波数が「3.19GHz」、メモリが「7.34GB」。一方で、M1 MacBook Airはプロセッサの周波数が「3.20GHz」、メモリが「8GB」と表示されます。また、キャッシュは、iPad ProもMacBook Ariも128KB(L1 Instruction Cashe)、64KB(L1 Data Cashe)、4MB(L2 Cashe)と同じ値が表示されたので、それぞれの仕様は同じと考えていいでしょう。

そして実際にベンチマークテストを実施してみると、iPadのCPUのベンチマークスコアがシングルコアの場合は1683、マルチコアの場合は6973。一方のMacBook Airはシングルコアの場合は1721、マルチコアの場合は7392と、若干のMacBook Airのほうが高いものの、数値的にはほぼ同レベルの結果となりました。少なくとも、iPad Proはタブレットだからといって、MacBook Airとは別のM1が搭載されているわけではないようです。

  • GeekBenchで表示されたiPad ProとMacBook Air(メモリ8GBモデル)のチップの詳細。プロセッサ周波数やメモリ量に変わりはありません

  • GeekBench 5によるCPUテストの結果。MacBook Airのほうが若干数字が高いですが、ほぼ同レベル。ちなみに、A12Z Bionicを搭載したiPad Pro 11インチ 第2世代の値はシングルコアが1100前後、マルチコアが4600前後です

2つのM1をいざ実測

次に、実際にアプリを使って作業を行った際のスピードも簡単に比較してみました。まず、1分のMOV形式の4K映像(30fps)をiMovieで1080pのmp4に品質優先で書き出してみたところ、iPad Proが約1分48秒、MacBook Airが1分50秒という結果。また、約20MBのKeynoteファイルを1080pの画質でムービーに書き出したところ、iPad Proが11秒4、MacBook Airが11秒6と、これもほぼ同じ結果となりました。

そのほかにも写真の現像時間などでも比べてみましたが、両者に大きな違いが出ることななく、実際の作業においてもM1を搭載したiPad ProとMacBook Airが同様のパフォーマンスを発揮することが確認できました。

  • iMovieを使った動画の書き出し、またはKeynoteを使ったプレゼンの書き出しでも両者の処理性能に大きな違いはありませんでした

もちろん、今回行ったテストはメモリをそこまで消費しないライトな作業です。Macと違ってiPadでは仮想メモリが使用できなかったり、アプリが利用できるメモリ量の上限が最大5GBに制限されていることなどが一部開発者から報告されていたりするので、より大きなメモリを消費する作業ではMacのほうが優れた結果が出る可能性もあります。

しかし、少なくともたいていの人が日常的に行う作業においては、もはや処理性能の違いが両者の理由にならないことは明らかです。これからメインマシンとして、従来のパソコンを買うか、それともiPadにするかで迷っている人はぜひ処理性能以外の点に重きをおいて比較検討してもらえればと思います。