NTTドコモが研究開発の成果を発表するイベント「docomo Open House'22」。今年はオンラインがメインの開催だが、一部の内容はリアル会場でも出展されており、その模様を取材することができた。そんなリアル展示の中から、今回は「人間拡張基盤」の実現を目指した展示を紹介しよう。
「人間拡張基盤」は、ネットワーク越しに「人間」を拡張しようという試み。人体の情報をセンサーで取得してプラットフォームとなる基盤で収集/分析などを行い、それをアクチュエーションに出力することが想定されている。
例えば脳波をセンシングして、その結果をアクチュエーションのロボットを操作する。腕に装着した筋電センサーで手や腕の動きをセンシングし、遠隔の人物に装着した筋電アクチュエーターが反応して手や腕が動く。そういったことを実現しようというのが人間拡張基盤だ。
同社6G-IOWN推進部の中村武宏部長は、「テレパシーやテレキネシス」と表現していたが、脳に思い描いただけで遠隔のものが動かせるというのは、確かにそうしたSFの世界が近づく技術だ。
NTTグループでは、すでに筋電を計測できる「hitoe」を商品化しているが、こうした筋電センサーを使うことで、人の筋肉の動きをセンシングすることができる。それをさらに拡張して、同様に筋電センサーを付けた別人にそのデータを転送すると、その刺激に筋肉が反応して同じ動きを「勝手に」してしまう、というわけだ。
これによって、自分が手を握ると、遠隔の相手も手を握る……というように動作がコピーされる。6Gの超低遅延ネットワークならほぼ同時に動きがコピーされるので、リアルタイムに他人を操作できることになる。
同様に、遠隔のロボットを動かすこともできる。これは人間を動かすよりは自然で、危険な現場でロボットを遠隔から動かして作業をするといった用途が検討されている。
また、NTTデータ経営研究所が、VIE STYLEと共同研究していたイヤホン型脳波計を使った、脳波によるロボット操作も展示されていた。VIE STYLEはネックイヤホンタイプのセンサー「VIE ZONE」を製品化し、この4月から北米で販売を開始する予定だが、ロボット操作のデモではこれを応用。VIE ZONEでは首筋の電極とインイヤータイプのイヤホン型センサーを耳に差し込むことで、聴覚野周辺の情報を取得しようというのだ。
今回のデモでは、新たに視覚野(後頭部付近)に張り付けるセンサーを使い、視覚を使って遠隔のロボットを操作するというデモンストレーションを行っていた。
具体的には、画面の4カ所に4つの動作をアイコン化して表示。それぞれを異なるタイミング(周波数)で点滅させる。ランダムで画面に指示が表示されるので、指示されたアイコンをみつめてそのアイコンに集中すると、視野を通じた脳波が発生し、それが指令としてロボットに転送され、その動きをロボットが実行する、という流れ。
今回は4つの動作しか指示できないが、アイコンの数を増やせば動作は増やせる。「脳波で動かす」と言われて想像するよりも自由度は低いが、「脳波で動かしている」ことは確かで、今後が楽しみな技術ではある。
6Gの世界では、超低遅延によるリアルタイム性の実現を目指している。MECやスライシングなど、無線技術だけで実現できるものではないが、いずれにしても、数百km離れた場所であっても数msの遅延でデータがやり取りできるようになると中村氏は指摘。数msの遅延であれば「人間の神経相当」(中村氏)で、まさに人間並みの反応ができる。
悪意のある使い方をすれば、勝手に他人を動かしたり、遠隔からのロボット犯罪といった問題も起こりえるだろう。「そうした倫理的な問題も考えていかなければならない」と中村氏も認めている。とはいえ、あくまで今回の発表は「スタート地点」といった状態であり、今後、技術の発展とともに新たな課題も生まれてきそうだ。
リアルとバーチャルの融合という意味でも、実際の動きをリアルタイムに模倣するアバターを実現することもできるだろうし、「プロの動きをダウンロードして、自分の手でピアノを完璧に弾きこなす」といったこともできるかもしれない。
ドコモの研究によって、様々なSFの世界が現実に近づいていくかもしれない。