2020年の秋から冬にかけて新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し、2021年は1月早々から緊急事態宣言が発令されました。その後、4月と7月にも緊急事態宣言が発令。2021年はおよそ半分が緊急事態宣言下だったという異常事態でした。

しかし、eスポーツ界隈においては、比較的コロナの対応ができていたように感じます。2020年は、オフラインからオンラインへの切り替え、有観客から無観客への切り替え、海外遠征の実施・中止の選択に迫られ、どれもこれもが中途半端になってしまいました。それに比べて、2021年は基本オンラインでの開催を念頭に置いていたため、2020年より安定した印象を受けました。

そんな2021年のeスポーツの動きについて、いくつか事例をピックアップしてご紹介します。

スポーツの代替として存在感を示したeスポーツ

2021年1月、社会人eスポーツリーグ「AFTER 6 LEAGUE」でお馴染みの凸版印刷は、2年おきに実施している運動会を取りやめ、代わりに社内eスポーツ大会をオンラインで開催しました。オンラインの場合、全国の営業所から参加できるうえ、社員の家族が配信動画で大会の様子を観られることから、例年以上の盛り上がりを見せます。企業のeスポーツイベントとしてエポックメイキングになったと言えるでしょう。

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    全国の営業所が参加した凸版印刷の社内eスポーツイベント「TOPPAN eSPORTS FESTIVAL 2021」

eスポーツがオンラインで対応するなか、大きな打撃を被ったのがフィジカルスポーツです。選手を現地に集めることも、観客を入れることもままならず、大会の中止が相次ぎました。

そんななか、中止期間のファンイベントとして、ゲームを使ったイベントを開催するスポーツが出てきます。テニスはプロテニスプレイヤーとインフルエンサーがペアを組み、『マリオテニスエース』で大会を開催。NBAは『NBA 2K』を使用し、eスポーツ大会を開催します。ウィザーズの代表として八村塁選手も参加していました。

2021年に国内で新たにスタートしたeスポーツ大会

国際的なeスポーツ大会への参加見合わせや、大会の中止などが相次いだ一方、国内のeスポーツ大会が新たに発足し、盛り上がりを見せた1年でもありました。

その1つが、NTTドコモ主催のeスポーツイベント「X-MOMENT」です。年間を通じて100試合を行う『PUBG Mobile』のリーグ「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE(PMJL)」がスタートしました。

非ゲーム業界のNTTドコモがeスポーツリーグを主催するというだけでなく、選手の最低保証年俸が350万円、賞金総額3億円と、フィジカルスポーツのプロシーンにも引けを取らない内容で話題を集めます。さらに、「X-MOMENT」では、『RainbowSixSiege』『League of Legends:WILD RIFT』『ストリートファイターV CE』のリーグも開催。その中の『ストリートファイターV』のリーグである「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2021」は、2020年にカプコンが実施していたイベントです。「X-MOMENT」ブランドとして開催することで、規模や大会運営などを刷新し、例年以上に注目を集めることに成功しました。

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    「X-MOMENT」の開催発表会の様子

新しいeスポーツタイトルとしては、セガから待望の3D対戦格闘ゲーム『バーチャファイター』シリーズの最新作『Virtua Fighter esports』がリリースされました。同作は『Virtua Fighter5 Final Showdown』のリニューアルタイトルですが、対戦格闘ゲームの金字塔として復活を希望する人たちが多く、今後の行く末に期待を寄せています。プレシーズンながら公式トーナメント「VIRTUA FIGHTER esports CHALLENGE CUP SEASON_0」が10月に開催されました。

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    プレシーズンながら公式トーナメントが開催された『Virtua Fighter esports』

新たにスタートしたeスポーツ大会がある一方で、終わってしまったイベントもあります。たとえば、NPBとコナミデジタルエンタテインメントが共催していた「eBASEBALLプロリーグ」は、2020年まで『パワフルプロ野球』を使用していましたが、2021年からは『プロ野球スピリッツA』を使用。「eBASEBALL」の冠は残りましたが、タイトルが変わったため、それまで活躍していたプロ選手はすべて解散となり、新たに『プロスピA』の各球団代表選手を選びなおしています。

また、『クラッシュ・ロワイヤル』を使用したクラロワリーグは、2020年まで国や地域ごとにリーグを設定し、プロチームによるリーグ戦を行ってきましたが、2021年からはプロアマの制約のないオープントーナメントに切り替わりました。それにより多くのプロチームが『クラロワ』部門の解散をしています。

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    『パワフルプロ野球』に代わって『プロ野球スピリッツA』で大会が運営されることとなった「eBASEBALL」

日本eスポーツシーンのレベルを世界に示した1年でもあった

国際大会への参加見合わせや大会自体の中止など、世界大会への出場が少なくなったことは先述しましたが、数少ない世界大会において、日本人選手、日本のeスポーツチームが大きく活躍した年でもありました。

たとえば、Supercellがリリースする3大タイトルのうち、『ブロスタ』はプロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」が、『クラッシュ・ロワイヤル』はMugi選手が、世界大会で優勝を果たしています。『クラッシュ・オブ・クラン』の「クラクラ世界選手権ファイナル2021」では、プロゲーミングチーム「QueeN Walkers」が準優勝を獲得しました。

『League of Legends』の世界大会「Worlds 2021」では、日本代表のプロゲーミングチーム「DetonatioN FocusMe」が、プレイインテージを1位通過し、ベスト16に進出しました。これは、日本チームとして初の快挙です。北米の名門チーム「Cloud9」をタイブレークのすえに打ち破ってグループステージへ進出したことも、ファンの記憶に強く刻まれました。

そのほか、ラスベガスで開催された「Red Bull Kumite」では、『鉄拳7』で弦選手が、『ギルティギア ストライヴ』で御傍選手が優勝。『ストリートファイターV CE』の「カプコンカップ」や、『PUBG Mobile』の「PUBG Mobile Global Championship 2021」は、年明けに結果が出ますが、こちらも日本人選手や日本チームの活躍が期待できる大会です。

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    「クラロワリーグ 世界一決定戦2021」で世界チャンピオンとなったMugi選手。大会会場があるヘルシンキのビルにその勇姿が大きく映し出されました

国際的なeスポーツイベントにも期待

コロナ禍で延期されていた「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」も、2021年に開催されました。同イベントは、日本とサウジアラビアの経済活動の強化や文化、観光、教育などのサービスの共同事業を目的とする「日・サウジ・ビジョン2030」の一環で行われています。ホーム&アウェイ方式で対戦し、2022年には日本代表メンバーがサウジアラビアに出向いて対戦する予定です。

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    サウジアラビア代表選手を招いて行われた「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」

IOC主催のバーチャルオリンピックも開催されました。eスポーツがオリンピックの競技種目になるところまではいきませんでしたが、IOCが主催であり、オリンピックの名が冠したeスポーツイベントを開催できたのは、大きな一歩と言えます。2022年に中国・杭州で開かれるアジア大会では、eスポーツがメダル競技となるので、より多くの層にeスポーツをリーチできそうです。

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    IOC主催のeスポーツイベント「バーチャルオリンピック」

eスポーツ施設に新たな動き

eスポーツ施設にも新たな展開が見られました。JR東日本は、オンラインショップへ移行しつつあるびゅうプラザを閉鎖し、エキナカの好立地の再利用を始めています。そのほとんどがベックスやニューデイズなど既存店舗の拡大ですが、松戸駅ではeスポーツ施設「ジェクサー・eスポーツ ステーション」の運営に乗り出しました。会社や学校の帰りに立ち寄れるアクセスのよさと、JR東日本の誇るオンライン環境がeスポーツ施設として大きな利点です。

東京メトロも自社所有の遊休地の有効活用として「eスポーツジム」を開設。時間貸しのゲーム施設としての運営だけでなく、プロ選手やプロチームのコーチやアナリストによるレッスンも受けられるようになっています。

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    赤羽岩淵駅の出入り口のすぐ近くにオープンした「eスポーツジム」

また、ネットカフェダイスは、池袋と仙台に「e-SPORTS CAFE AIM」をオープンしました。今後はネカフェやカラオケボックスなどが、こういった展開をしていきそうな印象です。

これら施設が運営しやすくなった背景には、日本eスポーツ連合(JeSU)が2020年のTGSで発表した風俗営業法によるゲームセンターの定義を見直した点が挙げられるでしょう。専用ゲーム機でないPCやタブレットなどでゲームをする場合は、ゲームセンター扱いにしないことが決まり、ゲームセンターの営業届けや営業時間の制限などから開放され、運営しやすくなりました。

今後はeスポーツに関する刑法・賭博罪や著作権などの整備も行われるとみられており、よりeスポーツ大会を開催しやすい土壌が整っていく見込みです。

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    仙台と池袋で同時オープンした「e-SPORTS CAFE AIM」

eスポーツは、オンラインでイベントを実施しやすく、コロナ禍でもほかのエンターテインメントよりうまく対応できていました。とはいえ、コロナは不測の事態だったので、2020年はeスポーツ市場の成長の足かせになったはずです。

2021年は最初からコロナ禍ありきの対応をしていたため、2020年よりも厳しい状況にあったにもかかわらず、順調に成長できた年だと言えます。2022年はよりwithコロナとしての対策が登場し、オフラインでの開催、状況によっては有観客での開催ができるようになるなど、大きな飛躍に期待できるのではないでしょうか。