「東京ゲームショウ2021 オンライン」の会期中である10月2日、3日に、ところざわサクラタウンにて「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ(日サeスポーツマッチ)」が開催されました。日サeスポーツマッチは、日本とサウジアラビアの経済活動の強化、文化や観光、教育などのサービスの共同事業などを目的とする「日・サウジ・ビジョン 2030」の一環です。今回は大会の2日目となる3日に取材してきました。

  • 10月2日と3日に開催された日サeスポーツマッチ

日サeスポーツマッチは元々、2018年に開催予定でしたが、コロナ禍などにより延期され、2021年の開催に至りました。ホーム&アウェイ方式で行われ、まず日本でのジャパンラウンドにサウジアラビアの選手を招聘。2022年開催予定のサウジラウンドでは、日本選手がサウジアラビアに遠征する予定です(一部競技はオンライン開催となる可能性あり)。

使用するタイトルは、『グランツーリスモSPORT』『THE KING OF FIGHTERS XIV』『鉄拳7』『eFootball 2022』『ストリートファイターV CE』の5タイトル。国産タイトルもしくは、日本発祥のタイトルがメインですが、いずれもサウジアラビア国内で人気とのことです。ちなみに『THE KING OF FIGHTERS』シリーズは、日本のメーカーが開発したタイトルですが、韓国、中国を経て、現在はサウジアラビアのメーカーが権利を所有しています。

日サeスポーツマッチの結果は、5タイトルとも日本がサウジアラビアを圧倒し、全勝の完封で終了しました。元々、日本のeスポーツ選手が世界で活躍しているタイトルが中心だったことやサウジアラビアのeスポーツが成長段階にあることから、ある程度予測された結果でしょう。ただし、対抗戦ではあるものの、国家間の交流が最大の目的であるので、開催したこと自体に価値があると言えます。

  • 会場は、「埼玉県eスポーツ連合」の本拠地に決定したサクラタウンです

  • 『eFootball 2022』での対戦

  • 最終戦となった『ストリートファイターV CE』

試合内容からは、結果ほどの大きな差は感じませんでした。『eFootball 2022』では、1、2戦目はPK戦までもつれ込み、3戦目はサウジアラビアのkmansour選手が勝利しています。『ストリートファイターV CE』も日本の全勝でしたが、バルログ使いのBreaker選手は日本選手をあと一歩のところまで追い込み、オンラインのオーディエンスを沸かせていました。十分、サウジアラビアの実力を示せたのではないでしょうか。

  • 日本代表のユニフォームをまとう再春館システムのネモ選手

  • レアキャラであるバルログを使い、日本チームに善戦したBreaker選手

奇しくも大会が行われたのは緊急事態宣言の解除直後。無観客ながらオフラインで対戦できたことも国際交流の意味としては大きかったのではないでしょうか。『鉄拳7』の選手は、入国が1日遅れたことにより宿泊先のホテルからのオンライン対戦となりましたが、これもオリンピック並の完全隔離ができていたからこそとも言えます。

  • 表彰式にはサウジアラビアeスポーツ連盟(SEF)の会長であり、アラブeスポーツ連盟の会長も兼任するファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下の姿も

  • 大野元裕埼玉県知事や

  • 藤本正人所沢市長も駆けつけました

  • 埼玉県からサウジアラビアチームに贈られた越谷甲冑。ほかにも埼玉県産品詰め合わせ、所沢市から煎茶と茶器などが贈られました

eスポーツが国際親善の役割を担うことで、ジャンルとして認められるように

今回の大会について、大会開催の経緯などを日本eスポーツ連合(JeSU)の岡村会長に話を聞きました。

――早速ですが、日サeスポーツマッチ開催の経緯を教えてください。

岡村秀樹会長(以下、岡村):安倍政権時代に、日本とサウジアラビアで「日・サウジ・ビジョン 2030」を締結しました。これまでサウジアラビアとは資源エネルギー周りで友好関係を築けていましたが、さらに文化、教育面でも交流を活性化していこうと、さらなるパートナーシップを目指すものです。そこにはアニメーションを日サで共同制作したり、さまざまな展開がありました。eスポーツもその一環です。

3年前にファイサル殿下が来日し調印したのですが、コロナ禍があり、eスポーツマッチの開催は先延ばしになりました。ただ、ぜひとも実現すべきと考えており、このタイミングでの開催されたわけです。東京ゲームショウの会期に合わせた結果、偶然にも緊急事態宣言が解除されることになり、注目度としてもタイミング的にも良かったのではないでしょうか。

  • JeSUの岡村秀樹会長

――岡村会長からみた、サウジアラビアの選手やeスポーツの印象はいかがでしょうか。

岡村:私も現地での状況を詳しく知っているわけではないですが、サウジアラビアeスポーツ連盟のCEOであるターキ・アルファザン氏は、まだまだマーケットは小さいが、多くの人が関心を持っており、市場は伸びていくと話していました。コミュニティとマーケットはできつつあるようです。日本人は中東を一括りに考えてしまいがちですが、当然、国単位で違いがあり、サウジアラビアでは日本のアニメやゲームが好まれていて、ファンも多い印象ですね。

――日サウジ戦で期待をしていることを教えてください。

岡村:やはり、サウジアラビアの代表団とファイサル殿下が来日したのは大きいですね。サウジアラビアでのニュース性は高く、発信される情報量も多いので、日サ交流の一助となることを期待しています。

また、eスポーツやゲームのみならず、いろいろな分野でも交流が深まるきっかけになればいいですね。日本に対するシンパシーを感じてもらえたり、サウジアラビアに対する理解度がより高まったりするでしょう。

これを機に、一気に情勢が変わるとは思いませんが、一歩一歩進められると考えています。日本の行政にもかなり理解をしていただいているので、日・サ・ビジョン2030に対しても影響は少なからずあると思います。

eスポーツが国際親善における役割を担い、きちんと運営できれば、社会的信用、信頼にもつながるでしょう。その結果、日本の行政においてもeスポーツがジャンルとして確立、認められていくと思います。

――2022年のサウジアラビアラウンドは、どういったイベントにしていきたいのでしょうか。

岡村:基本的には、サウジアラビアによる運営となりますが、日本側も選手を送り込んでおしまいではないですね。情報発信など共同作戦でやっていくことは多いと思います。

今回の開催について、さまざまな国際団体から「この時期に行えるのは素晴らしい」との声をいただきました。開催、運営におけるノウハウを尋ねられることが多いです。

欧州やアジアなど同一地域で行う国際マッチではなく、サウジアラビアと日本という、かなり距離が離れた国同士の交流戦を開催できたのが、国際団体の注目しているポイントですね。こういった日本が持つアドバンテージを活かしていきたいと思っています。

日サeスポーツマッチに期待するのは人のつながり

また、大会にはサウジアラビアからファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下も来日。僭越ながら取材する機会を得たので、その様子もお伝えします。

――サウジアラビアのeスポーツ事情をお聞かせください。

ファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下(以下、ファイサル殿下):今、サウジアラビアは非常にラッキーな立ち位置にいます。国民の70%が30代以下で、その多くがゲームを嗜んでいます。サウジアラビア自体が変革の時期にあり、国民の90%以上がネット環境にあるほど、ネット環境も整いつつあります。また、ゲームコミュニティの存在が大きく、社交的で情熱的な人たちが集っていますね。

  • ファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下

――ファイサル殿下から見た日本の選手やeスポーツの印象はいかがでしょうか。

ファイサル殿下:すごくエキサイティングですね。日本はゲームの歴史が長いですし、eスポーツも大きく展開しています。なので、日本代表選手と対戦するのは楽しみでした。

サウジアラビアの選手が日本の選手と戦うことは、今後の成長にも必要なことだと思います。これからもJeSUと手を取り合って、お互いがレベルアップしていきたいですね。eスポーツ業界の兄弟として肩を並べていきたいと考えています。

――ファイサル殿下にとって、eスポーツはどんな位置づけにありますか。例えば、国家間の交流の手段であったり、国益を担う事業であったり、国民への娯楽の提供であったり、さまざまなことが考えられます。

ファイサル殿下:今、おっしゃったことはすべて当てはまります。それに加え、eスポーツの魅力は、さまざまなものがそろっているところです。産業として考えたら多くのキャリアパスが考えられますし、オープンで若い産業なので高い成長が見込めるでしょう。

人と人をつなぐ意味でも大きな役割があります。ほかのスポーツと違うのは、まずプレイヤー同士がネット上のアバターで知り合うこと。つまり、見た目や性別、国の背景など、すべて排除したうえで、ゲーム上のスキルやコミュニケーションだけで交流できます。そこが大きな魅力ですね。

――日サeスポーツマッチでは、採用されるタイトルの中で興味のあるタイトルはありますでしょうか。

ファイサル殿下:私は、サウジアラビアeスポーツ連盟の会長ですが、個人としてもゲーマーで、ずっとゲームをプレイしてきました。なので、すべてのタイトルをプレイしたことがありますよ。その中で特に注目しているのは『ストリートファイターV CE』ですね。

――差し支えなければ使用キャラクターを聞いてもよろしいですか。

ファイサル殿下:どのキャラクターもクリアをするとバックストーリーが見られるので、魅力的です。あえてその中から選ぶのでしたら春麗ですね。

――おお、ありがとうございます。今回の日サeスポーツマッチは、どんなことを期待していますでしょうか。

ファイサル殿下:私自身は日本を第二の故郷だと思っています。国、食べ物、人、すべてが好きです。人と人をつなげていきたいとずっと思っていますので、日サeスポーツマッチは、それができると思っています。

大会では、サウジアラビアの選手を見てほしいですね。そして、サウジアラビアの選手には、世界で活躍するためにはどれくらいの実力が必要なのかも感じとってほしいです。

今回の件は、政府同士の協力もあった両国間の取り組み。今後はビジネスのやり取りも増えていくでしょう。個人的な付き合いも増えていってほしいです。eスポーツのコミュニティ同士の関係性が深まれば、より成長できるのではないでしょうか。