ソニーグループの研究開発部門が手がける最先端テクノロジーが一堂に会する「Sony Technology Day 2021」が12月7日に開催されました。筆者はオンラインによるプレゼンテーションに続き、メディア向けの体験展示にも参加。4K有機ELマイクロディスプレイを搭載したヘッドマウントディスプレイ(HMD)試作機の画質体験、製品化に向けた今後の取り組みの詳細などをレポートします。
Sony Technology Dayとは?
Sony Technology Dayは、ソニーが2019年から開催しているイベント。投資家・アナリストおよびメディア関係者に、ソニーのR&Dセンター(研究開発部門)が今まさに手がけている、熱い最先端のテクノロジーを披露する“祭典”(イベント)です。
2019年には参加者がすべての新しい技術を見て、一部は実際に触れることもできましたが、2020年と2021年はパンデミックの影響により、大半のプレゼンテーションがオンラインで実施されました。
今回は、ソニー独自の自発光ディスプレイ、Crystal LEDとシネマカメラによる画像合成の最新撮影技術「In-Camera VFX(インカメラVFX)」や、ソニーグループ傘下のホークアイ イノベーションズ(Hawk-Eye Innovations)と共同で開発したスポーツ向け映像解析などの目玉技術にスポットが当てられました。詳細はプレゼンテーションのレポートをご覧ください。
次世代HMD向け、高精細な4K有機ELディスプレイを体験
メディア向けの体験展示では、ソニーの2つの新技術が並びました。まずは4K解像度の有機EL(OLED)マイクロディスプレイを活用したHMDから紹介します。
10円玉とほぼ同じサイズのOLEDマイクロディスプレイは、頭部に装着して映像の視聴などを楽しむHMDに搭載することを想定して開発されたデバイスです。
ソニーセミコンダクタソリューションズでは、OLEDを使ったマイクロディスプレイデバイスを既に製品化しており、これまでミラーレスカメラ用のEVF(電子ビューファインダー)などに採用された実績があります。4K対応の高画質化は今回が初めて。デバイスの特徴を紹介するソニーの公式動画がYouTubeで公開されています。
息を吞む精細感。まだまだ画質の向上が期待できそう
体験会で展示されたデモ用のHMDはまだデザインが荒削りなもので、頭部に固定せず、手でハンドルを握りながらレンズを目元にあてがって映像を見るものでした。それでも、片目に4K、両目で8Kの高画質を再現する新しいディスプレイデバイスの実力は十分に伝わってきます。
試作機は両眼視の非透過型。2つのマイクロディスプレイの映像をレンズに投射して視聴する方式です。まず4K/3D立体視による動画を視聴しました。このマイクロディスプレイは白色発光OLEDとカラーフィルターから成るトップエミッション構造により、高い発光効率と長寿命、最適化されたカラーフィルターによる高純度な色再現を追求しています。
次世代HMD用OLEDマイクロディスプレイのデモ
真っ暗な夜の闇の中にゆらめく炎の力強いきらめき、あざやかな色彩、深く沈み込む暗部の黒再現は圧倒的。実写による女性の映像は肌の透明感が自然に描かれ、ひざに抱きかかえる愛犬の毛並みは輪郭がにじむことなく、毛が1本ずつ浮かび上がるような生々しい立体感に引き込まれました。
ソニーのデジタルカメラ「α9」を描いた、コンピューターグラフィックスによる4K高解像度の360度VR動画も視聴しました。こちらの映像もまた情報量がとても豊富で、まるで本物みたいなカメラの映像に思わず手を伸ばしそうに。
デバイスの完成から間もない段階でのデモンストレーションだったので、画作りをさらに追い込めば映像のざわつき感を抑えてユニフォーミティも向上し、よりいっそう映像空間に深く入り込めそうな手応えがありました。
業務用から展開。エンタメ用途は?
デモ用に作られたHMDは重さが約500gでしたが、バックライトのない自発光方式の有機ELデバイスなので、小型化・軽量化はさらに追い込めるだろうと、ソニーの担当者は説明していました。
ソニーは片目で4Kの高画質な映像を再現できるHMDを必要とする分野に活用してもらいたいとしています。たとえばインダストリアルデザイン、医療トレーニング、ライブエンターテインメントなどの現場にフィットする可能性があるとのことですが、筆者としてはエンターテインメント向けのコンシューマーデバイスに採用される可能性にも期待したいところ。
今回はHMDを高性能なPCに接続してデモンストレーションを実施していました。スタンドアロン型HMDで同じ使い勝手を実現するためには、高性能なSoCなども必要です。新しいソニーのOLEDマイクロディスプレイが今後どのような製品や用途に採用されるのか、引き続き注目したいと思います。
ソニーの新ロボット“シェリー”は、ものをつかむスペシャリスト
人の手や指の繊細な動作を模倣して、さまざまな物体をつかめる「マニピュレーター(ロボットアーム)」の最先端技術も体験会で紹介されました。
会場にはマニピュレーターを搭載した人型ロボット「Xeri(シェリー)」が登場。クリームがたっぷりと詰まったエクレアやバラの花、タマゴの殻など、人間も繊細に扱わなければならないものを、マニピュレーターが上手につかみ、ていねいに扱う様子を披露してくれました。
アームの先端には複数の触感センサーが搭載され、物体をつかんだときの圧力分布の変化をリアルタイムに検知します。独自のアルゴリズムで「物体が滑り落ちそうになる前兆」を解析して、落とさないギリギリの力で持ち続けるという仕組みです。
最新マニピュレータを備えた人型ロボット「シェリー」のデモ
アームの先端には距離センサーも配置。アームの上下(左右)の均等な距離から力をかけて挟み込むことで「つかむ位置」を調整。エクレアやタマゴの殻を握りつぶすことなく器用に扱います。
従来のロボットアームも、上下方向にすべる前兆を検知しながら、物体をつかむことはできました。ソニーのマニピュレーターは「回転方向」の力を検知して、落下を未然に防ぐアルゴリズムと統合できたことが、他社にない強みとしています。
マニピュレータの柔軟な動きをアピール
ソニーによる最先端のマニピュレーターがメディア向けのイベントで披露される機会は今回が初めて。人型ロボットに組み込んだ背景には、介護福祉活動の現場で近々、実証実験を行う予定があるためだそうです。いかにもメカっぽいアームよりも、愛嬌のある人間の形をしていた方が、介護の現場に違和感なくなじむそうです。
実証実験では、介護施設に入居する方々にお茶菓子を取って渡したり、身の回りの簡単な雑務を手伝うことなどが検討されているそうです。ソニーの担当者は「あらかじめデータを登録しなくても、さまざまな“未知のもの”を扱えることがシェリーの強み。将来はスーパーの商品陳列などにも役立つ可能性もある」と話しています。
ソニーにはロボットに関わるメカニクスやAIなどの技術があり、ペットロボットのaiboやドローンのAirpeak、自動運転のコンセプトカーであるVISION-Sのように、それぞれ用途の異なる最先端のデバイスにまとめ上げてきた実績があります。生まれたばかりのマニピュレーターの技術もまた、ロボット以外の用途に活用されていきそうです。