京都工芸繊維大学は9月10日、同大 情報工学・人間科学系の村上久 助教がイグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prize)の「KINETICS PRIZE(動力学賞)」を受賞したことを発表した。
受賞した研究内容は、2021年3月に「Science Advances」に掲載された「Mutual anticipation can contribute to self-organization in human crowds」と題された論文で、各歩行者が他の歩行者と互いに動きを予期し合うことによって、集団全体の自律的な組織化を促進していることを明らかにしたものとなる。
実際に行った実験内容としては、それぞれ27人からなる2つの集団が対面して歩いたときに生じるレーン形成について調査。2つのうち片方の集団にいる3人の歩行者は、予期の認知能力に介入するため視覚的注意を逸らす追加課題として、歩行中にスマートフォンを用いて計算問題を解くという、いわゆるスマホ歩きを実施。注意を逸らす課題があった場合、なかった場合に比べて有意に集団全体の歩行速度が低下し、予期の阻害が集団全体の流れを滞らせることを示したほか、注意を逸らす課題があった場合は、なかった場合に比べて有意にレーン形成の開始時間が遅延することを確認し、予期の阻害が群集の自己組織化過程に影響を与えることを示したというものとなっている。
研究チームでは、この成果を発表した際に、群集における相互予期の重要性は、人の集団的意思決定、動物の群れ行動、群ロボットなど他の様々な自己組織化システムに新たな視座を与えるといった学術的貢献のみならず、将来的には、混雑や事故を未然に防ぐための群集マネジメントへの貢献が期待されるとしている。
なお、今回の受賞を受け、村上助教は、「イグ・ノーベル賞は笑えて、同時に考えさせられる研究に贈られます。つまり単に笑えるだけではなく、何かすぐにはよくわからない、違和感のあるものが含まれたものに対する賞だと思います。私たちの研究もそのように受け取ってもらえたのなら光栄です。というのも、笑えて、かつ違和感のあるもの、というのは日本語では一言で言うことができます。それはつまり『おかしい』であり、あえて関西弁でいえば『けったいなもの』です。けったいなものほど、実は思いがけない、異質な、新しい発見/発明に繋がっているのだと考えています。そのような想像力を掻き立てる賞だからこそ今回の受賞が嬉しかったのだと思います」と語っている。