格闘ゲーマーのレジェンドであり、『ストリートファイターV CE』のプロであるウメハラ選手が、初心者向けのオンライン大会「Beast Cup -Gekokujo2-」を9月12日に開催します。

形式は7対7のチーム戦。グループでエントリーする場合の出場資格は、ゲーム内ランク「ULTRA SILVER(LP3999)」まで、個人でチーム斡旋してもらう場合はランク「PLATINUM(LP9999)」までと、基本的には初めてプレイする人から多少オンライン対戦に慣れている人が対象です。

2021年2月には第1回大会をすでに実施しており、今回は2回目の開催。タイトルに「Gekokujo」とあるように、大会では特別ルールとして、チームが4敗した状態からでも逆転が狙える「下剋上」ルールを採用しています。

今回、第2回を開催するにあたり、「Beast Cup」の開催目的をはじめ、ミルダムでの配信や今後の活動などについて、話を聞きました。

  • ウメハラ

    プロゲーマーのウメハラ選手

初心者向け大会を継続させ、いずれは「1万人大会」を

――早速ですが、「Beast Cup -Gekokujo-」開催の経緯をお聞かせください。

ウメハラ選手(以下、ウメハラ):数十年間、格闘ゲームに関わってきて、一番盛り上がっていたのが、おそらく1992~1993年の『ストリートファイターII』の時期。当時は8,500人の参加者を集めた大会なんかもありましたね。eスポーツ全盛の今でも、あのころを超えるイベントは難しいだろうと思っていました。

でも、それじゃおもしろくないじゃないですか。社会現象とまで言われたムーブメントを再び起こすのは難しいかもしれないですけど、せめて参加人数は当時を超えるものをやりたい。そう考えて、「1万人大会」の開催を思いついたんです。

ただ、実現するには、今すでに大会に参加しているプレイヤーだけでは当然足りません。初心者にも大会に参加してもらわないとならないですし、1度の参加で終わらず、継続的に参加してもらう必要があるでしょう。そのために、「Beast Cup」を開催することに決めました。

――初心者が大会に参加しやすくなるような工夫はありますか。

ウメハラ:「Beast Cup -Gekokujo-」では、参加資格としてLP制限を設けました。『ストリートファイターV』には、下からルーキー、ブロンズ(スーパー、ウルトラ)、シルバー(スーパー、ウルトラ)、ゴールド(スーパー、ウルトラ)、プラチナ(スーパー、ウルトラ)、ダイヤモンド(スーパー、ウルトラ)、マスター……と、強さの指針となるランクがあります。オンライン対戦で決められる段位みたいなものですね。今回は、下から3番目までのランク、シルバーまでの選手だけが出場できるようにしました。

チーム戦にしたのも、工夫の1つです。個人戦の場合、1回負けたら大会も終わりますが、団体戦だと自分の出番が終わっても仲間が戦っているので、長く楽しめますよね。場合によっては、チームメイトのおかげで勝ち抜くこともできますし、個人戦よりも楽しめる幅があると思います。

1人の強いプレイヤーによって結果が決まってはいけないので、形式は勝ち抜き戦ではなく、星取戦。7人の星取戦になると、早い段階で勝敗が決まってしまうことがありますが、それだと、長く楽しめないので、チームが4敗した状態からでも逆転が狙える「下剋上ルール」を導入しました。

また、個人プレイヤーも募集しています。個人参加の場合、プラチナ帯まで参加可能で、チームを斡旋します。

  • ウメハラ

    「Beast Cup -Gekokujo-」に採用されている「下剋上」は、4敗した状態から逆転を狙える独自のルール

――そもそも新規ユーザーに興味を持ってもらうために必要なことはなんだと思いますか。

ウメハラ:個人が新規ユーザーの獲得についてできることは限られています。ゲームそのもののおもしろさに頼るところが大きいですよね。今回のように、いくら初心者向けの大会を開いて盛り上げたとしても、参加する人たちは『ストリートファイターV』を最低でもプレイしている人たちです。

私ができることの1つは、ほかのタイトルのイベントで『ストリートファイターV』をアピールすること。「獣道」というイベントでは『ストリートファイターV』に限らず、ほかの格闘ゲームのタイトルだったり、シューティングゲームだったり、さまざまなゲームを扱っています。そこに参加したり、観たりしたことで『ストリートファイターV』に興味を持ってくれた人がかなりいるんです。

  • ウメハラ

    取材はオンラインで行いました

――18歳以下のみ参加できる「Beast Cup U18」も開催していました。今後、女性限定、中級者限定、シニア限定など、ほかの制限を設けた「Beast Cup」の限定大会を開催する予定はありますか。

ウメハラ:大会を企画するときにシニア限定や女性限定は候補に挙がってきます。18歳以下大会については、若い層を取り込んでいく観点から、どれだけの若年層が参加してくれるのかという検証と、支援の目的で、あえて年齢指定にしました。そもそも、年齢や性別はゲームをするうえで関係ないことなので、そういう枠組みは考えていません。新規ユーザーを取り込んでいくために、当分は初心者向けの「Gekokujo」を中心に開催していくと思います。

――「Beast Cup -Gekokujo2-」の目標があれば教えてください。

ウメハラ:先ほども言いましたが、新規ユーザーを増やすのは簡単なことではありません。前回の「Beast Cup」は、ちょうどPS Plusで『ストリートファイターV』がフリープレイタイトルになった直後だったこともあり、多くの新規ユーザーが入ってきました。そこで増えた新規ユーザーが継続して遊べるように「Beast Cup -Gekokujo-」を開催したわけです。

「Beast Cup -Gekokujo2-」を開催したのは、さらに継続してプレイしてもらうため。本来、同じイベントを繰り返しやるのは好きではないんです。ただ、この「Beast Cup -Gekokujo-」に関しては、私個人の好き嫌いではなく、初心者を定着させるために粛々と継続していくつもりです。

――「Beast Cup -Gekokujo2-」見どころはどこでしょうか。

ウメハラ:前回の大会では、アビゲイルやエドモンド本田が強くて、大暴れしていました。今回は調整が入って、それらのキャラが弱体化したので、活躍するキャラクターが変わるのかもしれません。直前でオロやアキラといった新キャラも追加されましたし、そこら辺も出てきてもおもしろいでしょう。

初心者大会は、トッププレイヤーのように、何がなんでも勝たなくてはならないわけではないので、好きなキャラクターを使って、楽しんでもらいたいですね。

第1回では、本当に初心者と呼べる人にも出ていただけました。配信を観てくれた同レベルの初心者のプレイヤーには「このレベルでも大会に出ても良いんだ」って思えてもらえたんじゃないかな。そういう点では良い成果を得られたので、第2回でもその成果が出せるといいですね。

  • ウメハラ

    第1回「Beast Cup」の様子

――「Beast Cup -Gekokujo-」は『ストリートファイターV』の初心者向け大会ですが、門戸を拡げるには視聴層の拡大も必要かと思います。格闘ゲームの視聴者を増やすことは考えているのでしょうか。

ウメハラ:興味を持っていない人に興味を持ってもらうのは相当な工夫が必要だと思います。一時的にプレイ人口を増やせても、すぐにいなくなってしまうでしょう。少しずつ、着実に増やしていかないとダメですね。

今回のインタビューのように『ストリートファイターV』に関係のない人たちの目につくような場、メディアに出ることで、きっかけになることはあるでしょう。過去のイベントを違う方向から知ってもらい、そこでウメハラを知り、配信を観てくれるようになった人もいます。

格闘ゲームって、昔から基本的な構造は変わってないんですよね。言ってみれば老舗のようなもの。今のゲームは自由度が高くて、ジャンル区分ができないほど新しいものになってきています。そういうのは爆発的に人気が出る可能性はありますが、格闘ゲームはそういう性質のものではありません。なので、一朝一夕にはいかないんです。地道に続けていくしかない。

大勢の配信やほかのゲーム配信で新たな視聴者が増えた

――ミルダムで配信をするようになって約1年半が経過しますが、以前の配信と変わった点はありますか。

ウメハラ:Discordを使って大勢の仲間と配信するようになりました。大勢で配信すると観てくれる人が喜んでくれますね。

あと、ミルダムは新しいプラットフォームで、どんな配信をやっているかまだわからないところもあるんでしょう。配信者を指名して観にくる以外に、扱われているタイトルで訪れてくれる人がいるんです。

私のゲーム配信は、当然『ストリートファイターV』が中心。ですがミルダムでは、それ以外にもいろいろなゲームを配信するようになりました。どのゲームにも固定ファンがいるんですね。少し古いタイトルをやると、そのタイトルのファン層が観にきてくれます。ミルダムになってから、新規視聴者が着実に増えていますよ。

とはいえ、基本的に配信している内容は変わりません。日々の練習を淡々とやっていますよ。コロナ禍で海外遠征がなくなったので、配信の量は増えました。

  • ウメハラ

    ミルダムでは雪山人狼ゲーム『Project Winter』など、大人数でプレイすることも

――コロナ禍で配信が増えたとのことですが、ほかに影響はありましたか。

ウメハラ:海外遠征がなくなったのは大きいですね。時間的な余裕もそうですが、体力的にも。特に、飛行機での移動は得意ではないので、それがなくなっただけでもありがたいです。

日本に選手が多く滞在しているからなのか、日本でeスポーツが浸透してきたのか、その両方なのかわからないですが、海外へ行かなくなった分、国内でイベントが増えたのもうれしいですね。

  • ウメハラ

    2018年に行われた格闘ゲームの祭典「EVO」のワンシーン。コロナ禍になる前は、世界中のさまざまなeスポーツイベントに出場していました (C) Chris Bahn _ Red Bull Content Pool

――日本での環境は変わったと思いますか。

ウメハラ:そうですね、以前はプロと言ってもまちまちでしたが、今は全般的に活躍の場が増えています。それにより待遇や環境も良くなりました。eスポーツ界隈に実力のある人や企業が増え、いい加減なところは淘汰されている印象です。不遇な環境にある選手がいたら、ほかの選手が環境の良いチームに誘うこともあり、健全化してきたと思います。

――海外大会のみならず、国内大会もオフラインで開催しにくい状況ですが、その影響はありますか。

ウメハラ:2020年のカプコンカップは予選を勝ち抜いて本戦出場権を得たのに、本戦が開催されず、出られなかったので残念でした。でも、どちらかと言うと、オンラインになって、地方勢も参加しやすくなった利点のほうが大きいですね。今はネット回線も快適ですし。

  • ウメハラ

    2017年にフランスで行われた「Red Bull Kumite」の様子 (C) Teddy Morellec_Red Bull Content Pool

――今後の活動についてはどういったことを計画していますでしょうか。

ウメハラ:「Beast Cup」については、基本的には現状のルールで、定期的に開催していきたいですね。

配信に関しては、これからも『ストリートファイターV』を中心に、気になるタイトルがあったら意欲的にプレイしていきます。現時点では発表していませんが、2021年中にいくつかやりたい企画もあるので、期待していてください。

プロ活動については、引き続き『ストリートファイターV』ですね。シーズン的には今回が最後ですが、最低でもあと1年半は『ストリートファイターV』メインで活動すると思います。

次回作がリリースされたら、そちらに移行していくでしょう。現在『ストリートファイターV』を作っているチームは、バランス感覚が良く、ゲームのことを理解していると感じているので、彼らならきっと新作もおもしろいものを作ってくれるのではないかと期待しています。

あとは年齢的に身体のことを考えていこうと思っています。40歳になったので、若いころと違って、これからはいかに健康をたもっていくかですね。

  • ウメハラ

    2016年の東京ゲームショウ (C) Yusuke Kashiwazaki_Red Bull Content Pool

――プレイヤーを引退したあと、後進育成について考えることはありますか?

ウメハラ:現時点で引退や引退後の身の振り方は考えていません。できるのであれば、ずっと格闘ゲームをプレイし続けていきたいんですよね。

「引退したらコーチでも」とよく言われますが、それもどうかはわからないですね。好きなのはあくまでプレイヤーとして格闘ゲームをやっていること。プレイヤーでなくなっても格ゲー界に残るのはどうかな……。興味がわくのかもわからないです。

ただ、人に教えるのは得意なようです。時間をかけて教えてきた選手の多くは伸びており、結果も出ています。コーチもできるとは思います(笑)。ですが、できるからやるかと言ったら、今のところそうではないかなと。あくまで現役でい続けたい。

――ありがとうございました。