オフィスビルや商業施設、住宅など幅広い不動産事業を手掛ける三井不動産は、2018年に同社グループの長期経営方針として「VISION 2025」を策定した。その3本柱の一つとして、「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」を同社のテーマに掲げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)に注力している。

また、近年は都市の抱えるさまざまな課題に対して、ICT技術を活用した街づくりが注目されており、同社は「柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)」における公民学連携のデータプラットフォームづくりに取り組んでいる。

そこで同社は、ICTによるデジタル化やDXの促進を目的として、ITイノベーション部を再編しDX本部を新設した。顧客志向の課題解決に向けた事業変革を推進するDX二部を統括する塩谷義氏に、同社が柏の葉スマートシティを中心に取り組むDX事業と、今後の展望について話を聞いた。

  • 三井不動産 DX本部 DX二部長 塩谷義氏

プロフィール


・1994年三井不動産入社。住宅事業、レッツなどを経験
・2016年情報システム部(当時)に異動
 全社の事業変革領域を推進・支援
・2021年より現職

--初めに、担当されている事業内容について教えてください

塩谷氏:当社は街づくりで社会に貢献する総合デベロッパーです。私たちが手掛ける事業はオフィスビルや商業施設、住宅など非常に多岐にわたります。

DX本部は一部と二部に分かれており、一部は場所にとらわれずにアクティブに働くことのできるシステムの導入、既存の業務フローおよびシステム改革によって働き方改革に取り組んでいます。私が所属する二部は、デジタル技術を活用して街や施設の利便性を向上させたり、リアルとデジタルの双方での顧客接点を創出したりと、事業変革領域を担っています。

二部は近年、柏の葉スマートシティでのサービス開発に力を入れています。柏の葉はもともと、環境共生、健康長寿、新産業創造の3つの柱を打ち出していました。これを実現するためにデータプラットフォームを開発し、ヘルスケア領域のサービス提供者に参画していただいています。

スマートシティ化の話題の一つとして、都市OSという考え方があります。私たちはどちらかというと都市OSで何ができるかよりも、住民にとってより良いサービスを提供するための基盤は何かを先に考えることがが大切だと思っています。

柏の葉では、個人の同意に基づき、住民のデータを参画するヘルスケアサービス事業者間で連携できるような、セキュアなプラットフォームを日本ユニシスさんと共同開発しました。そうした住民データをサービス開発に活用したいパートナー企業を増やすことで、新サービスの開発を推進するとともに、住民サービスがさらに向上する好循環ができることを目指しています。

--他には、どのような取り組みを進めてきたのでしょうか

塩谷氏:例えば、ショッピングモールとデジタル技術を掛け合わせてサービスを開発しました。当社はリアルな商業施設として、「三井ショッピングパーク ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」などを運営しています。加えて、公式通販サイト「&mall」もあります。この2つはそれぞれ独立しているのではなく、相互に集客の窓口として機能するものです。

リアルな店舗でもECサイトからでも、最適な購入体験を提供できるような仕組みになればいいなと思っています。ただのECサイトとして提供するのではなく、当社ならではのオムニチャネルなECサービスとは何かについて、永続的に開発していく予定です。

また、当社には事業提案制度として「MAG!C(マジック)」が整備されています。MAG!Cはアイデアを公募して、PoC(Proof of Concept)を重ねながら事業化を目指す取り組みです。この制度から生まれた取り組みの一つが「移動型商業店舗」です。これは、キッチンカーのような移動販売車で、飲食に加えて、服や靴の物販やリラクゼーションや靴磨きなどのサービスを提供する事業ですね。

住民としては多彩なお店が自分の街に来てくれる喜びがあります。一方で、出店者としてはリアルな店舗に出店するよりも低いハードルで利用者との接点が作ることができるメリットがあります。これから、販売用のトラックも含めてシェアできるプラットフォームを構築して、どのような場所にどのようなニーズがあるのかを探っていくことを計画しています。

  • 移動型商業店舗のイメージ 資料:三井不動産

MaaS(Mobility as a Service)の例をもう一つ紹介します。フィンランドで開発されたWhim(ウィム)というサブスクリプション型のモビリティサービスがあります。当社が不動産起点のMaaSを開発・展開するにあたり、フィンランドとアジャイル開発を進めています。昨年まで柏の葉や日本橋で実証実験をしていたのですが、今後はさらに規模を拡大して取り組む予定です。