アップルのAirPodsが市場を切り開いた完全ワイヤレスイヤホン。わずらわしいケーブルとは無縁の軽快な装着感から、イヤホンの主流になっています。AirPodsに続けと、さまざまなメーカーから新製品が続々と登場していますが、個性に欠ける製品が増えてきたのも事実。

そのようななか、透明感を前面に押し出したデザインを売りにした完全ワイヤレスイヤホン「Nothing ear(1)」が無名のベンチャー企業から登場。性能や装備のバランスがよいうえに価格も手ごろで、見た目に一目惚れして手を出しても満足できる意欲作だと感じました。

  • イヤホン本体や充電ケースを透明デザインに仕上げた異色の完全ワイヤレスイヤホン「Nothing ear(1)」。見た目だけにとどまらず、使用感もおおむね満足できる佳作だった。日本での価格は12,650円で、発売日は8月27日

【イヤホン本体】透明デザインは個性的で質感も高い

Nothing ear(1)は、英国のベンチャー企業であるNothing Techが初めて投入する完全ワイヤレスイヤホン。イヤホン本体や専用の充電ケースは透明の素材を用いるなど、透明感を強く押し出したデザインを採用しているのが最大の特徴です。デザインや音響面は、スウェーデンの電子楽器メーカーであるTeenage Engineeringが開発に協力したとしています。日本での価格は12,650円で、8月27日から販売を開始します。

  • 英国のベンチャー企業が開発したNothing ear(1)。イヤホン本体、ケースともにデザインは個性的で目新しい

実機を手にしてまず惚れたのが、イヤホンやケースのデザインや質感の高さ。イヤホンの軸の部分は、美しく配置された黒基調の基板や部品が見える仕上がりで、性別や年齢を問わず「カッコいい」と感じさせます。かつて、アップルの「iMac」のヒットでさまざまな製品に波及した透明デザインですが、Nothing ear(1)はプラスチック部品の透明度が高いこともあり、とても美しいと感じます。

  • 個性的なデザインのイヤホン。耳の外に出る軸の部分はブラックで、AirPodsとは対照的に装着している時に目立ちにくい。カラーはこの1色のみで、カラーバリエーションは存在しない

  • 軸の部分にドットマトリクス風のロゴが刻まれているのがおしゃれ。イヤホンは防水仕様となっている

  • 軸の内側には充電用の接点や磁石を内蔵する。電子部品がチラリとのぞくのがワクワクさせる

イヤホンは、バーの部分をタップしたりスワイプしてのジェスチャー操作に対応するほか、イヤホンの脱着で一時停止や再生を自動制御する仕組みも備えています。このあたりの操作性はAirPodsシリーズと共通性があります。

  • アップルのAirPods Pro(右)と比較。充電ケースはNothing ear(1)がひとまわり以上大きい

  • イヤホン自体はNothing ear(1)のほうが少しコンパクトに仕上がっている

【充電ケース】磁石をうまく使い、見た目だけでなく使い勝手にも優れる

付属の充電ケースは、カバーだけでなく底面も透明な仕上げで、どこから見ても美しいのがポイント。ケースは随所に磁石が用いられており、左右それぞれのイヤホンを収納部に近づけるだけでシュッと小気味よく収まったり、ケースのカバーがいい音を立ててパタンと閉じるなど、アップル製品に通じる上質な体験をもたらしてくれます。

  • 透明カバーを採用する充電ケース。カバーには半球状の大きなくぼみが設けられ、中のイヤホンが動かないように工夫している

  • 底面も透明感のある仕上げになっている。ネジ類はまったく見えない。ケースはキズが付くこともあるので、カギなどの硬いものと一緒にポケットに入れないようにしたい

  • カバーは大きく開き、イヤホン自体も取り出しやすい。カバーには磁石が埋め込まれており、閉じた際はある程度の力で開かないように固定してくれる

全体がホワイトとブラックのモノトーンにまとめられたなかで、唯一色が用いられているのが、右イヤホンと格納部に配された赤丸です。これは、オーディオ機器の配線に使われていたRCAピンジャック&ケーブルの「右音声は赤、左音声は白」という決まりを継承している様子。オーディオ機器らしいアクセントに好印象を受けました。

  • イヤホンの格納部。充電端子の脇には磁石が配置され、イヤホンを近づけるだけで吸い込まれるように固定される。右イヤホンの格納部にのみ赤い丸が配され、デザイン上のアクセントになっている

【充電&バッテリー】ワイヤレス充電に対応、駆動時間も満足

ケースの内蔵バッテリーは、USB Type-C経由の充電のほか、Qi規格のワイヤレス充電にも対応しており、手持ちの充電器に置くだけで手軽に充電できます。ちなみに、アップルの「MagSafeバッテリーパック」やAnkerの「PowerCore Magnetic 5000」などのMagSafe対応モバイルバッテリーでも充電できました。USB Type-C経由の充電では、ケースを10分充電するだけで最大8時間再生できる急速充電に対応しています。

  • アップルの「MagSafeバッテリーパック」(左)や、Ankerの「PowerCore Magnetic 5000」(右)などのMagSafe対応モバイルバッテリーでも置くだけで充電できた

バッテリー駆動時間はイヤホン単体で最大5.7時間としていますが、アクティブノイズキャンセリング機能をオンにするともっと短くなるとみられます。とはいえ、外出時やテレワークで使っても、バッテリー持続時間に不満を感じることはありませんでした。

【音質、サウンド】最小容量にしても音量が大きめなのは気になる

サウンドは抜けのよさを感じさせ、音楽や動画配信、ゲームなどさまざまなジャンルで不満なく楽しめます。ただ、ワイヤレス接続による遅延は大きめなので、リズムゲームを楽しむのは難しいと感じました。

  • ドライバーは11.6mmの大きなタイプを搭載している。イヤーチップはAirPods Proと互換性はない

気になったのが、ボリュームを最小に調整しても音量が絞れなかったこと。iPhoneにペアリングして試したところ、AirPods Proは聞こえるか聞こえないかぐらいまで絞れるのに対し、Nothing ear(1)は最小にしても相当しっかりとしたサウンドが耳に届きました。この点は改良してほしいと感じます。

また、音楽を楽しんでいると突然接続が途切れたり、アプリ上ではちゃんと接続されていると表示されるのに音はiPhone本体から流れる…といったトラブルも何度か遭遇しました。動作の安定性はAirPodsシリーズには及ばない印象で、今後のファームウエアのアップデートなどで改良されることを望みます。

ノイズキャンセリング機能は、専用アプリで効果を「Maximum」と「Light」の2段階に切り替えられます。Maximumに設定しても、AirPods Proと比べると効果はやや弱めに抑えられており、電車内などの騒がしい場所では物足りなさを感じました。とはいえ、空調などの耳障りなノイズは確実に減らせるので、頼もしい存在であることは間違いありません。AirPods Proと同様に、外部音取り込みの機能も備えています。

  • バッテリー容量は専用アプリの画面で確認できる(左)。イヤホンを耳から脱着した際に音楽を自動制御する機能も利用できる(右)

  • ノイズキャンセリングは2段階で切り替えられ、外音取り込みモードにも切り替えられる(左)。音質を調整するイコライザーは4段階のみで、細かな調整はできない(右)

優れたデザインで過不足のない装備、12,000円台の価格は安い

多少気になる部分はあったものの、アクティブノイズキャンセリング機能、外音取り込み機能、ワイヤレス充電、耐水構造など、完全ワイヤレスイヤホンに求められる機能や装備をまんべんなく網羅しつつ、12,000円台の手ごろな価格に抑えた点は注目できます。性能面で突出している部分はありませんが、イヤホン本体やケースをほかにはない美しい透明デザインにまとめた付加価値を考えれば安いと感じます。

新興ベンチャーの第1弾製品としては異例の完成度といえるNothing ear(1)、人とは違う上質なイヤホンを使ってみたい…と感じる人にヒットしそうです。特にアップルファンはアップル製品に通じるデザインや体験に満足できるでしょう。

  • パッケージも斬新なNothing ear(1)。インパクトのある第1弾製品を出したNothing Techが今後どのような製品を発表するのかも注目したい