琉球大学、東北大学、長浜バイオ大学、和歌山工業高等専門学校(和歌山高専)、神戸大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、国際農林水産業研究センター(国際農研)の7者は8月2日、世界中からメダカ科魚類を収集し、ミトコンドリア全ゲノムと5つの核遺伝子の塩基配列の解析からメダカ科魚類のルーツに迫った結果、西インドの西ガーツ地方に固有の「セトナイメダカ」が、メダカ科魚類の系統進化の中で最も古くに分岐した種であり、そのほかの東南アジアや東アジアの種は、すべてセトナイメダカと姉妹関係にあることがわかったと発表した。

また、セトナイメダカは約7400万年前の中生代後期に誕生し、インド亜大陸が大陸移動でインド洋を北上する中、恐竜と共に生き、そして約6500万年前の巨大隕石による通算5回目となる生物大絶滅も生き延び、その後インド、東南アジア、そして日本まで広く繁栄したことがわかったことも合わせて発表された。

同成果は、琉球大 熱帯生物圏研究センターの山平寿智教授、東北大大学院 生命科学研究科の安齋賢助教、長浜バイオ大 バイオサイエンス学部の竹花佑介准教授、和歌山高専のスティアマルガ・デフィン准教授、神戸大大学院 人間発達環境学研究科の高見泰興教授、OIST 海洋生態進化発生生物学ユニットの前田健研究員、国際農研 水産領域の森岡伸介主任研究員を中心とした国内の13の研究機関に加え、インド、ベトナム、ラオス、ミャンマー、タイ、インドネシアの6か国7研究機関も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、生物学全般を扱う学術誌「Biology Letters」にオンライン掲載された。

現在はキタノメダカとミナミメダカの2種に区別されている日本のメダカ。どちらも環境省に絶滅危惧種の中で「絶滅危惧II類」の指定を受けている。この日本の2種類のメダカを含めたメダカ科魚類はこれまで37種類が確認されており、東南アジアを中心に、西はインドから東は日本まで広く分布していることが知られている。しかし、メダカ科魚類の共通先祖が、いつどこで誕生したのかについては、これまでわかっていなかったという。

  • メダカ

    メダカ科魚類の地理的分布図 (出所:共同プレスリリースPDF)

そこで研究チームは、世界各地のメダカ科魚類を収集し、ミトコンドリアの全ゲノムと5つの核遺伝子の解析を行い、メダカ科魚類のルーツに迫ることに挑んだという。その結果、インドの西海岸沿いにある、標高1000~2700mの山々が全長1600kmに渡って連なる西ガーツ山脈と、その西側の平野部を含む西ガーツ地方に固有の「セトナイメダカ」(Oryzias setnai)が、メダカ科魚類の系統進化の中で最も古くに分岐した種であり、そのほかのキタノメダカやミナミメダカを含む東南アジアや東アジアの種は、すべてセトナイメダカと「姉妹関係」(共通祖先から系統樹上で二分岐した関係にあること)にあることが判明した。

  • メダカ

    ミトコンドリアの全ゲノムの塩基配列(1万1233塩基対)および5つの核遺伝子(RAG1、Myh6、SH3PX3、Zic1、TMO-4C4)の塩基対(4204塩基対)が用いられ、推定されたメダカ科魚類の系統樹。セトナイメダカ(Oryzias setnai)は、メダカ科魚類の系統進化の中で最も古くに分岐したことが明らかとなった (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに、化石の情報をもとにメダカ科魚類の分岐年代に関する推定も行われた結果、セトナイメダカとそのほかのメダカの共通祖先との分岐は、まだ恐竜が存在していた約7400万年前(6600~8800万年前)の中生代後期にまで遡ることが判明したという。

  • メダカ

    化石などが較正点(CP1~CP4)として用いられたメダカ科魚類の分岐年代推定および現存種の分布域に基づく祖先分布域の最尤推定(円グラフ)。セトナイメダカ(Oryzias setnai)は、中生代後期の7400万年前に、インド亜大陸(エリアA+エリアB)で分岐したと推定された(分岐番号2) (出所:共同プレスリリースPDF)

この時代は、インド亜大陸が超大陸のゴンドワナ大陸から1億3000万年~1億6000万年前頃に分離し、インド洋を北上している時代に一致するという。

  • メダカ

    ゴンドワナ大陸を離れ、北上してユーラシア大陸にぶつかって現在に至るまでのインド亜大陸の移動の様子(Yoshida & Hamano 2015 Scientific Reports 5:8407から改変されたもの)。Myaは百万年を表す (出所:共同プレスリリースPDF)

これは、この時代にメダカの共通祖先がインド亜大陸にいた、つまりメダカ科魚類はインド亜大陸に起源することを意味しており、3300万年~5500万年前頃にインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突・合体した後に、メダカ科魚類はアジアに分布を拡大していったと考えられるという。

与えられたデータから、それらが得られる確率分布の母数を推定する統計学の「最尤法」(さいゆうほう)を用いた祖先分布域の推定でも、メダカ科魚類はインド亜大陸が起源で、そののちにアジアに分布を広げていったというシナリオが支持されたとする。

メダカ科魚類はダツ目に属しており、ダツ目にはメダカ科のほかに、サヨリ科、トビウオ科、コモチサヨリ科、そしてダツ科が含まれるが、これらの多くは海水魚である(サンマも含まれる)。そのため、メダカとそのほかのダツ目との分岐も、インド亜大陸上で起こったと推定されたとしており、研究チームでは、今後、メダカとそのほかダツ目が、それぞれ淡水域と海という異なる環境に生息域を求めるようになったのはなぜか、その解明に向けての道筋が示されたのではないかと考えられるとしている。