LSPX-S2から省かれた「無線LAN」、「ハイレゾ対応」
反対に、LSPX-S2(以下、S2)から省略された機能もあります。LSPX-S3(以下、S3)はWi-Fi接続に非対応になったため、Spotify Connectや、モバイル端末に保存している音源のWi-Fiキャスト再生が使えなくなりました。3.5mmアナログオーディオ入力端子も省かれています。Android端末やウォークマンと一緒に音楽再生を楽しむときに便利だったNFCペアリングが使えなくなったのも残念です。
また、S3ではオーディオ機器からLDACコーデックで出力されるBluetoothの音楽信号を受けることはできますが、搭載するスピーカーユニットがハイレゾ対応ではありません。従ってS3に搭載するソニー独自の圧縮音源のアップコンバート技術も、従来の「DSEE HX」から「DSEE」に変更されています。「ハイレゾ対応のグラスサウンドスピーカー」にこだわりたい方は、今のうちにS2を入手することをおすすめします。
量感が増した低音、全体がスムーズにつながるサウンドに
それでは最新のLSPX-S3のサウンドをチェックしてみます。LDAC接続にはこだわりたかったので、ペアリングするスマホにはGoogle「Pixel 5」を選んでいます。
なお、今回お借りした実機はソニーの「Music Center」アプリによる操作にまだ対応していない試用機だったため、アプリから操作する「ベースブースター」や「DSEE」などのリスニング機能、32段階で細かく設定できるようになったLEDイルミネーションの明るさ調整などは試せていません。
まずS3を単体で聴いてみます。松本隆の作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』」から、幾多りらが歌う「SWEET MEMORIES」では、クリアなボーカルにいきなり引き込まれます。ボーカルの声がとても近く感じられ、ウッドベースやピアノの音に柔らかく包まれるような心地よい音の密度感も味わえます。1台のスピーカーだけで、およそ10畳前後の部屋いっぱいに充実した音を響かせる力量をLSPX-S3は備えています。
キューバのピアニスト、ルーベン・ゴンザレスのアルバム『Introducing』から「Melodia del Rio」をかけてみても、やはり甘いピアノのメロディがとても澄み切っています。まるでピアニストが目の前で演奏しているようなリアリティ。限界を感じさせない高域の伸びやかさに加えて、最新機種のS3は深く沈み込むピアノやコントラバスの低音域まで音のつながりがとてもよく、演奏が一体感に富んでいます。パーカッションのリズムもカラッと乾いていて軽やかな印象。トランペットの音の質感がとてもシルキーです。
ヨーヨー・マとクリス・シーリ、エドガー・メイヤーによる弦楽三重奏『Bach Trios』から「トリオ・ソナタ第6番 BWV.530」では、チェロとマンドリン、コントラバスの音色の特徴がとても自然に描き分けられます。S2に比べて弦楽器の余韻がさっぱりとしている印象も受けました。
Perfumeの「レーザービーム」を聴くと、新しいS3は従来のS2と比べて重低音の量感がだいぶ増したことがよくわかります。立体的でパンチ力もあります。おそらくベースブースターを使うとよりインパクトの強い低音が楽しめるでしょう。ボーカルは重低音にかき消されることなく、センターの位置にくっきりと定位します。シンセサイザーの重厚なハーモニーと、エレキギターの歯切れの良いカッティングも印象的でした。
一世代前と聴き比べ。2台でステレオペア再生も
続いて第2世代機のLSPX-S2を用意し、同じ曲をS3と聴き比べてみます。S2はさすがハイレゾ対応のスピーカーでした。幾多りらのボーカルや、ルーベン・ゴンザレスが弾くピアノの音像がより活き活きと浮かび上がり、音の輪郭線も繊細なニュアンスを描き分けます。低音域の量感、中高音域からのつながりの良さはS3のほうが新たな表現力を身に付けたように思いますが、S2の低音もタイトで芯がしなやか。Perfumeの楽曲ではリズムを鋭く正確に打ち込みます。
比べて聴くと、S2のサウンドにはまさしくグラスサウンドスピーカーらしい個性を強く感じます。対するS3はより一般的なワイヤレススピーカーの印象に近づき、BGM感覚で長い時間気軽に聴けそうです。ピュアなHiFiテイストのS2のサウンドと、どちらを好むかは人それぞれだと思いますが、キャラクターは大きく違います。購入を検討している方には、より自分の好みに合う音を試聴・吟味することを強くおすすめします。
S3を2台用意してステレオペア再生も試しました。Music Centerアプリを使うか、または本体だけでもステレオペアリング設定は可能です。2台のスピーカー底面のBluetoothボタンを順にガイドランプが白色に点滅するまで長押しして、少し待つとガイド音が鳴って自動でペアリングが完了します。左右のチャンネル設定は音声ガイダンスが知らせてくれます。
ステレオ再生で楽しむS3はまた一段と音場の安定感がアップして、スケールの大きなサウンドを楽しませてくれます。中高音域の立体感が高まり、重低音を軽々と鳴らし切る余裕が感じられるようになります。Perfumeの「レーザービーム」では打ち込みのビートが心地よく跳ねて、スピード感あふれる演奏が楽しめました。
iPad ProにペアリングしてNetflixの動画を視聴してみると、小音量でもアクション映画の効果音を力強く鮮明に描きます。夜間のデスクトップシアター鑑賞にも最適なワイヤレススピーカーといえます。
音質・価格が身近に。グラスサウンドスピーカーの普及に火を付けるか
LSPX-S3は中低音域の力強さと、全体のバランスの良さを特徴とする、歴代シリーズとはまたひと味違うサウンドが楽しめるグラスサウンドスピーカーです。ハイレゾ対応のユニットなどが省略され、より普通のワイヤレススピーカーに近い印象になったようにも感じます。ただ、一方では価格がますます手ごろになったことで、今後はソニーのグラスサウンドスピーカーにより多く音楽ファンの関心が寄せられると思います。このシリーズを広く普及させる起爆剤になるのでしょうか。
筆者はグラスサウンドスピーカーのラインナップには、今後もぜひハイレゾ対応のモデルを残してほしいと思います。あるいはソニー独自の360 Reality Audioによる立体音楽体験が楽しめるハイエンドモデルや、キッチンやアウトドアキャンプでも楽しめる防水・防滴対応モデルなどのバリエーションを多数展開しても面白いと思います。
グラスサウンドスピーカーが今後、ソニーのユニークなオーディオの技術とプロダクトデザインの力を象徴するスタンダードとして大きく成長するのか、LSPX-S3の発売後の動向にも要注目です。