名古屋大学(名大)は7月2日、「グラフェン/ダイヤモンド積層界面」が、重要な光情報のみを選択的に記憶し、不要な情報を忘却する脳型(脳のように働く)光記憶素子となることを新たに見出したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の植田研二准教授らの研究チームによるもの。詳細は、オランダのナノ物質を含む炭素材料を題材にした学術誌「Carbon」にオンライン掲載された。
人間の脳では記憶すべき情報の取捨選択が状況に応じて瞬時に行われており、強い印象を持った情報(刺激の大きな情報)は長期記憶に移される一方、刺激の少ない情報については短期記憶として、短時間記憶されたあとに忘れられる。
この長期・短期記憶の存在が脳における情報選別の根幹となるが、今回行われた研究では、グラフェンとダイヤモンドを積層複合化した「グラフェン/ダイヤモンド(G/D)素子」を作製。その積層界面が重要な光情報のみを選択的に記憶し、不要な情報を忘却する脳のように動作する(脳型)光記憶素子となることを新たに見出したという。
このG/D素子は、光刺激を検出し電気抵抗値に変換すると共に、光刺激の強弱に応じて抵抗値の記憶保持時間が切り替わるのが特徴で、神経細胞と神経細胞のつなぎ目であるシナプスに類似した記憶特性を有しており、1つの素子のみで人間の眼と脳の機能を併せ持つことが今回の研究から判明したという。
脳のシナプスでは電気的な刺激で結合強度の変化が起こるが、G/D素子では光刺激で結合強度変化が起こるため、画像などの光情報が素子で直接検出され、その後、情報の重要度(光刺激の頻度)に応じて自律的に記憶・忘却される。また、このデバイスでは素子すべてに同時に光が照射され、光検出・記憶動作が全素子で同時並列的に行われることから、高速動作が期待できるという。
実際、G/D素子6個を画素として用い、2×3型で配列した構造で、文字パターンIおよびLを画像として検出する実験を実施。文字パターン“I”の場合はI字のパルス光が多数照射され、強い光刺激を与える形、つまり重要な情報に対応とされた。一方、“L”の場合はL字のパルス光が少数照射され、弱い光刺激を与える形、不要な情報に対応とされたという。
結果として、Lパターンは記憶後すぐに忘却(短期記憶)されたのに対して、Iパターンは長時間記憶(長期記憶)されることが判明。この結果は、G/D配列構造がイメージセンサとして機能しており、さらに光刺激の頻度に応じて光情報が選択的に記憶・忘却されることを意味しているという。
なお、G/D素子は記憶機能に加えて光検出機能を持つことから人間の「眼+脳」が一体化されているとみなすことが可能だという。そのため研究チームでは、今回の成果を発展させていくことで、センサ側で光情報を取捨選択して瞬時に記憶する新型イメージセンサなどの作製が可能となるとしている。