京都産業大学は7月2日、2019年11月~12月に、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTで、観測史上2番目となる恒星間天体で、なおかつ初の恒星間彗星である「ボリソフ彗星」(2I/Borisov)を観測し、太陽系外からやってきた天体から吹き出す物質の特徴を明らかにしたと発表した。

同成果は、京都産業大学 神山天文台の新中善晴職員、同・河北秀世天文台長(京都産業大学 理学部教授兼任)らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州の天文学および天体物理学を扱う学術誌「Astronomy and Astrophysics Letters」にオンライン掲載された。

ボリソフ彗星は2019年8月30日に、アマチュア天文家のGennady Borisov氏によって発見された、観測史上2番目の恒星間天体かつ観測史上初の恒星間彗星だ。太陽への最接近は同年12月7日で、黄道面に対して垂直に近いような角度からやって来て太陽をかすめて飛び去っていった。緩い角度の双曲線軌道を取っており、二度と太陽に接近することはなく、再び恒星間空間へと向かっている。

観測史上初となる恒星間天体「オウムアムア」の発見が2017年で、それからわずか2年ほどでボリソフ彗星は発見された。このことから、これまで考えられてきたよりもずっと多くの太陽系外小天体が飛来している可能性が示唆されるようになった。小天体の発見は難しいため、これまで単に見落とされていただけの可能性が出てきたのだ。

オウムアムアは、彗星のよう物質を放出している証拠は間接的にしか得られなかったが(加速していたことから何らかの物質を放出していたと考えられている)、ボリソフ彗星は物質の放出が確認され、彗星として認定された。物質が放出されるということは、内部物質の詳細な分析が可能になるということだ。

ボリソフ彗星は決して明るい天体ではなかったため、天文学者たちは世界中の大型望遠鏡を動員して観測を行った。研究チームが用いたのは、南米チリのヨーロッパ南天文台が有する世界最大クラスの口径8.2m望遠鏡VLTだ。

ただし、世界最大クラスの口径を持つ望遠鏡をもってしても簡単な観測ではなかったという。十分な光を集めるために長時間の観測が必要だったため、2019年11月から12月にかけて何度も観測を行って初めて十分なデータを得ることに成功したという。

観測装置には、天体光を数万色にも分けて分析できる分光器「UVES」が用いられた。その結果、2019年12月末の時点でのボリソフ彗星は、1秒間に約7kgの水をガスとして放出していることが判明。太陽系の彗星を観測する場合は通常、1秒間に数トンもの水が気体として放出されるような、十分に明るくなってからであることを踏まえると、ボリソフ彗星はあまり活動的ではなく暗くて観測が困難だったこととする。

観測の結果、同彗星に含まれるニッケルと鉄の成分比が太陽系の彗星とよく似ていることが判明。ボリソフ彗星がやってきた星・惑星系の中心には、太陽と似た成分の星が輝いている(すでに存在してない可能性もある)可能性が高いという。

また今回の観測では、同彗星に含まれるアンモニア分子の原子核スピン異性対比の測定にも成功したほか、さまざまなガス成分の検出にも成功し、酸素原子禁制線の観測からは氷中に揮発性の高い一酸化炭素が多く存在している可能性も示唆されたという。こうした特徴は太陽系の彗星と大きくは異なっておらず、総合的に判断して、太陽系彗星と同様な環境で形成された氷天体であると結論付けられたとしている。

なお、新中氏は、「今回、太陽系の外から来た彗星の内部の物質の一部が、太陽系の彗星と似た特徴を持つことがわかりました。今後、ほかの恒星間彗星を観測し、太陽系以外の星がどのような環境で作られるのかを明らかにしたいと思います」とコメント。また、河北氏も「これまで太陽系の彗星ばかりを観測してきましたが、ほかの星・惑星系の彗星を初めて観測できたことは、非常にエキサイティングでした。新しい研究の扉が開いた気がします」とコメントしている。

  • 京都産業大学

    太陽系に飛来したボリソフ彗星の想像図。彗星核が太陽に近づくと温度が上がるため、氷が昇華してガスとともに塵が吹き出す。今回の観測が行われた2019年11月から12月にかけての時点では、1秒間にわずか7kgほどの噴出物しかなかった (C)NRAO/AUI/NSF,S/Dagnello (出所:京都産業大学 神山天文台Webサイト)