インターステラテクノロジズ(IST)は6月1日、記者会見を開催し、観測ロケット「MOMO7号機」(名称:ねじのロケット)の開発状況について説明した。同機は2020年7月に打ち上げる予定だったが、エンジンに問題が発生し、延期していた。対策として全面改良を行い、信頼性が向上した新型機「MOMO v1」として今夏に打ち上げを実施するという。
v0→v1で何が変わった?
MOMOは3号機で、初めて宇宙への到達に成功。しかしその後は、4号機はコマンド系、5号機はノズルに問題が発生し、打ち上げに失敗。7号機は点火器の問題で延期と、この2年間、成功から遠ざかっている。今回の改良は、これまでに見つかったさまざまな課題を根本的に解決すべく実施したもの。MOMOの全面改良はこれが初となる。
従来の「v0」から新しい「v1」へのアップデートでは、「低価格で量産可能」というコンセプトは維持しつつ、信頼性や運用性などの面において、さまざまな改良を実施した。その内容は、大きく以下の4点。
- エンジンシステム
- 機体の艤装
- アビオニクス
- 地上支援設備
まず最も大きな変更は、ロケットの基幹部と言えるエンジンである。5号機ではノズルの破損が失敗の原因となったが、この一部を、より損傷しにくい材料であるSFRP(シリカ繊維強化プラスチック)に変更した。さらに、従来は外部に露出していたのに対し、新型はアルミ製の外筒でカバーし、ノズルを保護する。
7号機で延期の原因となった点火器は、形状設計や燃料材質などを見直し、さらに燃料を1.7倍に増やしたことで、能力を強化。従来は2個とも正常に動作する必要があったが、新型では片方だけで良くなり、信頼性が大幅に向上した。また検出機能も改良しており、誤検知を低減している。
なお今回の改良により、エンジンの推力は1.2トンから1.4トンへと向上しているが、これに合わせ、インジェクタ(噴射器)も設計を変更した。これにより、圧力損失を低減し、さらに軽量化も実現できたという。
新型エンジンは、これまでに29回の燃焼試験を実施。さまざまな条件で正常に動作することを確認したという。4月13日に行った認定試験では、実フライトの1.2倍の長さとなる143秒間の燃焼に成功。これは、同社が開発してきたエンジンの燃焼時間としては、最長記録の更新となった。
なおv1のペイロード重量は30kgで、これはv0から変わらない。エンジンの推力は強化されているが、今回の改良で機体のドライ重量は330kg→370kg、打ち上げ時重量は1,150kg→1,220kgと増えており、これを相殺した形となる。
機体の艤装は、MOMOの量産化・高頻度化を見据えた設計変更を行った。バルブと配管をユニット化したことで、組み立て作業が効率化。さらに今後、各ユニットの製造を協力企業に外注すれば、社内工数を約20%削減できる見込みだという。また運用時に機体外配管の取り外しを不要にするなど、作業時間の短縮も実現した。
アビオニクスは、開発中の超小型衛星用ロケット「ZERO」の技術実証も兼ねて、飛行経路制御の精度向上や耐環境性の向上を図った。v1では新たにSoC(System on a chip)を採用。これを多用することで、ボードの種類を半数以下に削減した。さらに3Dプリンタ製の専用軽量ケースやMILコネクタなども採用した。
地上支援設備は、MOMO初号機の頃から改修で対応してきたが、これを刷新。耐候性やメンテナンス性が向上し、打ち上げ前の整備作業にかかる工数を50%以上削減できる見込みだ。前の3つの点と違い、ロケット側の改良ではないものの、今後、打ち上げを高頻度化していくには、地上側の効率化も重要である。
次は6月下旬のCFTに注目!
MOMO7号機は今後、6月下旬に実機を使った燃焼試験(CFT:Captive Firing Test)を実施する計画。これで問題が無ければ、さらにフルドレスリハーサルで運用を確認し、今夏の打ち上げを目指す。同社は続く6号機の打ち上げも今夏を予定しているが、新型コロナウイルス対策として、両機とも無観客での実施となる。
当初、同社はv0の運用を継続しつつ、並行してv1を開発していく計画だった。打ち上げを1年間も止めてしまえば、その間の売り上げが無くなり、「経営的には結構厳しい判断だった」と、ファウンダーの堀江貴文氏は打ち明けるが、「我慢してでも、打ち上げの確実性を上げてからやった方が良いという意見が現場から強かった」そうだ。