2021年1月にAMDは「Ryzen 5000」シリーズのモバイル版を発表した。開発コードネーム「Cezanne」と呼ばれていたモバイル版のRyzen 5000シリーズはデスクトップ版と同じく、IPC(クロックあたりの命令実行数)が大幅に向上したZen 3アーキテクチャを採用。Zen 2アーキテクチャはマルチスレッド性能に優れていたが、シングルスレッド性能ではIntelのCPUに分があった。Zen 3はその弱点をさまざまな改良で大幅に強化した形だ。その実力は高く、デスクトップ版のRyzen 5000シリーズは発売から約6カ月が経過した現在も、トップ人気を獲得している。

  • Cezanneの構成。前世代のRenoirのCPUコア部分をZen 3にアップデートしたようなかたちに見える

    Cezanneの構成。前世代のRenoirのCPUコア部分をZen 3にアップデートしたようなかたちに見える

  • こちらは参考にRyzen Mobile 4000シリーズ(Renoir)の構成

そのモバイル版のRyzen 5000シリーズで省電力モデルとなるのが「Ryzen Uシリーズ」。8コア16スレッドの最上位CPU「Ryzen 7 5800U」を搭載するASUSTeKのノートPC「ZenBook 13 OLED」(UM325S)を試用する機会を得たので、その実力を確かめて見たいと思う。比較対象としては「Ryzen Uシリーズ」の前世代CPU「Ryzen 7 4700U」を搭載した「ZenBook 14 UM425IA」を用意した。

  • ASUSの「ZenBook 13 OLED」(UM325S)。国内販売のアナウンスはまだない

Ryzen 7 5800Uは8C/16Tで最大4.4GHz動作、しかもTDP15Wの省電力

まずは、「Ryzen 7 5800U」のスペックを紹介しておこう。TDPは15W、8コア16スレッドで基本クロックは1.9GHz、ブーストクロックは最大4.4GHzと省電力モデルとしては十分高クロックで動作すると言える。

製造プロセスは前世代のZen 2アーキテクチャと同じく7nm。そのため、細かな改良によって性能を引き上げている。その中で最大の改良点と言えるのがキャッシュ構造だ。Zen 2のモバイル版では、1つのCCX(コアとキャッシュを統合したモジュール)に“最大4コアと4MBの3次キャッシュ”を搭載していた。8コアのCPUならば、2つのCCXで構成されるが、このCCXをまたぐ処理が発生するとパフォーマンスが低下することがあった。

その点、Zen 3ではCCXが“最大8コアと16MBの3次キャッシュ”で構成されることになり、8コアのCPUではCCXをまたぐ処理が発生しない上に、3次キャッシュの容量も増えているためパフォーマンスが向上している、というわけだ。

  • Zen 2→Zen 3で最大の改良点と言えるのがキャッシュ構造。CCXをまたがない16MBの3次キャッシュを備える

なお、CPU内蔵のグラフィックはVegaベースの「AMD Radeon Graphics」とZen 2世代から変更はない。8コア仕様でGPUクロックは2,000MHzだ。Zen 2世代のRyzen 7 4800Uの内蔵GPUが8コア、1,750MHz、Ryzen 7 4700Uの内蔵GPUが7コア、1,600MHzなので、若干の底上げはされている。

モデル名 コア数/スレッド数 ベースクロック ブーストクロック 3次キャッシュ TDP アーキテクチャ
Ryzen 7 5800U 8C/16T 1.9GHz 最大4.4GHz 16MB 15W Zen 3
Ryzen 7 5700U 8C/16T 1.8GHz 最大4.3GHz 8MB 15W Zen 2
Ryzen 5 5600U 6C/12T 2.3GHz 最大4.2GHz 16MB 15W Zen 3
Ryzen 5 5500U 6C/12T 2.1GHz 最大4.0GHz 8MB 15W Zen 2
Ryzen 3 5300U 4C/8T 2.6GHz 最大3.8GHz 4MB 15W Zen 2
Zen 3アーキテクチャを採用するのはRyzen 7 5800UとRyzen 5 5600Uの2モデルのみ

そのRyzen 7 5800Uをいち早く搭載したのがASUSTeKの13.3型モバイルノート「ZenBook 13 OLED」だ。ディスプレイのパネルにはOLED(有機EL)を採用し、デジタルシネマ向けの色域「DCI-P3」のカバー率100%という色の再現性を持つ。輝度は400cd/平方mと明るい。

  • ディスプレイには13.3型OLEDを採用

  • DCI-P3カバー率100%という色の表現力を持ち、視野角も広い

  • CPUは前述したとおり、Ryzen 7 5800Uを搭載

メモリはLPDDR4x-4266が16GBと高速大容量。ストレージはPCI Express 3.0接続のNVMe SSDが1TBと十分な容量が搭載されている。

  • CrystalDiskMark 8.0.1の結果。シーケンシャルリード3,593.14MB/秒、シーケンシャルライト3,009.67MB/秒とPCI Express 3.0 x4接続のNVMe SSDとしては非常に高速

インタフェースは左側面にType-C形状のUSB 3.2 Gen 2(DisplayPort出力、USB PD対応)×2、HDMI出力、右側面にmicroSDスロット、Type-A形状のUSB 3.2 Gen 1×1を備えている。

サイズは幅304mm×奥行き203mm×高さ13.9mmと薄型で重量は1.14kgと軽量だ。電源接続にはType-Cポートを利用し、65W出力のACアダプタを付属する。

  • 左側面は左からHDMI出力、Type-C形状のUSB 3.2 Gen 2(DisplayPort出力、USB PD対応)×2

  • 右側面はmicroSDスロット、Type-A形状のUSB 3.2 Gen 1×1

  • ACアダプタはType-C接続で、出力は65W。コンセントに直接挿し込むタイプだ

  • キーボードは英語配列でバックライトを内蔵する