東京大学 生産技術研究所(東大生研)は4月14日、触媒を用いて砂同士を直接接着することで、建設材料を製造する技術を開発したと発表した。

同成果は、東大生産研の酒井雄也准教授らの研究チームによるもの。詳細は、東大生産研の研究速報誌「生産研究」で2021年5月1日に公開される予定だ。

現代の建設材料における代表的存在のコンクリートは、一般的にセメント、砂、砂利に水を加えて製造される。セメントの製造では多くの二酸化炭素(CO2)が発生し、その量は全世界のCO2排出量の8%を占めるという。

また上述したコンクリートの原料不足が世界的に進んでいることも懸念されている。たとえばセメントの主原料は石灰石だが、近い将来に世界最大のセメント生産国になると見られているインドでは、すでに石灰石の品質低下が問題となっている。

さらに、砂や砂利も世界的に不足しており、多くの国で輸出が禁止される一方で、違法な掘削が後を絶たない事態となっている。砂漠が国土の98%を占めるサウジアラビアにおいては、砂不足により砂の輸出が一時的に禁止されているほどだ(砂が豊富に見えるサウジアラビアにおける砂の輸出禁止は、砂漠の砂は球状で小さく、コンクリートなどの建設材料としての利用が困難なことも理由)。

また、近年では月や火星などの探査が活発化している。日本も参加するアルテミス計画では、2020年代後半に月面基地「アルテミス・ベースキャンプ」の建設が予定されているなど、人類の定住に向けた地球外での建設も現実味を帯びている。

基地の材料としては現地調達可能であることが望ましいが、たとえば月面の砂(レゴリス)を用いた建設材料の製造では、1000℃を超える熱により焼成や溶融を行う必要があり、そのためのエネルギーの確保や温度管理は容易ではないという課題がある。

以上のような背景から、原料が偏在せずに存在し、地球上のどこでも(できれば月面や火星でも)入手が可能であり、枯渇の心配がない原料を用いて、低エネルギー消費で製造可能な建設材料が求められている。

酒井准教授らは今回の件において、砂とアルコール、触媒を密閉容器に入れて加熱・冷却し、砂の化学結合を切断、再生することで、硬化体を製造する技術を開発することに成功した。

珪砂、砂岩、ガラス、砂漠の砂、月の模擬砂(酒井准教授が今回の実験でニチレキから提供を受けたもの)など、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする材料であれば、今回開発された技術で硬化体を製造することが可能だという。また、製造後に生じるアルコール、触媒からなる廃液は繰り返し利用が可能な点も環境面で優れているとする。

  • 東京大学 生産技術研究所

    珪砂(左、直径約0.1mm)から製造された硬化体(右) (出所:東大生研Webサイト)

  • 東京大学 生産技術研究所

    ガラスビーズ(左、直径約0.1mm)から製造した硬化体(右) (出所:東大生研Webサイト)

  • 東京大学 生産技術研究所

    ナミブ砂漠の砂(左)から製造した硬化体(右) (出所:東大生研Webサイト)

  • 東京大学 生産技術研究所

    ニチレキ製の月の模擬砂(左)から製造した硬化体(右) (出所:東大生研Webサイト)

地球の地殻は、SiO2を主成分とする砂や砂利に覆われている。つまり、今回の技術を活用することで、これまで活用できなかった砂や砂利を無駄なく、建設材料として利用できる可能性があるという。また、月や火星の表面もSiO2を主成分とする鉱物で構成されているため、月面や火星上での基地建設にも応用が期待されるとする。

またコンクリートは、セメント硬化体の存在により溶脱や乾湿による体積変化が顕著だが、今回の技術は砂や砂利同士を直接接着する、いわば“人工岩を作る”技術であるため、コンクリートと比較して高い耐久性を有することが期待できるという。

地下数百~数千メートルにおいて放射性核廃棄物の保管に用いられるコンクリートには、数万年、数十万年の耐久性が要求されるが、今回の技術を用いればケイ素を主体とする岩石に近い耐久性を達成できると期待できるとする。

さらに、溶融法では1000℃以上の温度を必要とするのに比較して、今回の技術で必要な温度は最大でも240℃に留まるため、エネルギー消費やそれに伴うCO2の削減が期待できるとしている。