今春、国際宇宙ステーション(ISS)に向けて飛び立つ予定の星出彰彦(ほしで あきひこ)宇宙飛行士が、2021年3月2日にオンライン会見した。

コロナ禍における訓練や準備、搭乗するスペースXの新型宇宙船「クルー・ドラゴン」の印象、今秋募集が始まる新しい日本の宇宙飛行士への期待などについて語った。

星出宇宙飛行士は4月22日以降に、クルー・ドラゴンの運用2号機「Crew-2」に乗って飛び立つ予定となっている。

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    クルー・ドラゴン宇宙船で訓練する星出彰彦宇宙飛行士 (C) SpaceX/NASA

星出宇宙飛行士の3回目の宇宙飛行

星出彰彦宇宙飛行士は、1968年に東京都で生まれ、現在52歳。宇宙開発事業団(NASDA、現・宇宙航空研究開発機構(JAXA))で、ロケット開発や宇宙飛行士の訓練、実験装置の支援などに従事したのち、1999年2月にISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として選抜。訓練を経て、2001年1月にNASDA宇宙飛行士として認定された。

2008年6月には米国のスペースシャトルで、2012年7月にロシアのソユーズ宇宙船で宇宙に旅立ち、ISSに長期滞在し、維持管理や実験などに従事した。今回が約9年ぶり、3回目の宇宙飛行となる。

今回のミッションでは、スペースXの新型宇宙船「クルー・ドラゴン」の運用2号機(Crew-2)に搭乗。船長のシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストのトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)とともにISSへ赴く。Crew-2では星出宇宙飛行士はミッション・スペシャリストを務め、打ち上げから帰還までの間、機体の管理や、タイムラインやテレメトリー、消耗品のモニタリングを担当し、船長やパイロットを補佐する。

また、ISSでは第64次/第65次長期滞在クルーとして、フライト・エンジニアを務めるとともに、第65次ではISS船長(コマンダー)も務める。JAXA宇宙飛行士がISS船長を務めるのは、若田光一宇宙飛行士に続いて2人目となる。

ミッション期間は約半年が予定されている。

なお、現在ISSには野口聡一宇宙飛行士が滞在しており、打ち上げのタイミングなどによっては、ISSに2人のJAXA宇宙飛行士が滞在する可能性もある。

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    Crew-2に搭乗する宇宙飛行士。左から、パイロットのメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストのトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)、ミッション・スペシャリストの星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)、船長のシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA) (C) NASA

訓練の近況やクルー・ドラゴンの印象

星出宇宙飛行士はまず、訓練の近況について報告。コロナ禍で苦労しつつも、Crew-2の訓練は佳境に入っており、現在はヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターでISS関連の訓練、そしてスペースXのクルー・ドラゴンに関する訓練を続けているとし、「いよいよ打ち上げが近づいてきたな、という実感があります」と語った。

自身にとって約9年ぶりの宇宙飛行、そしてISS滞在となることについては、「この9年でISSはかなり変わりました。たとえばコンピューターの性能は格段に向上しましたし、通信回線も増強され、速度が向上しています。タブレット端末を使った作業も増えています。民間企業のモジュールや小型衛星放出用のエアロックなども追加されました。完成から年数は経っていますが、中身はどんどん向上しています。こうした中で働けることを楽しみにしています」と述べた。

また、一緒に宇宙へ飛び立つ3人の宇宙飛行士については「私も含め、全員すでに過去に1~2回の宇宙飛行の経験がある、経験豊富な宇宙飛行士たちです。訓練を通じて、お互いの人となりを知り、チームワークをつちかってきており、非常に楽しい、いいチームになっています」と印象を語った。

星出宇宙飛行士は、1回目の宇宙飛行ではスペース・シャトル、2回目はソユーズ、そして今回はクルー・ドラゴンと、3種類の異なる宇宙船に乗ることになる。

すでに訓練や、野口宇宙飛行士の打ち上げを通じてクルー・ドラゴンに触れている星出宇宙飛行士。その印象については、「民間の宇宙船が中核になりつつあることをひしひしと感じています。近い将来、民間が低軌道に本格的に進出する、その過渡期にいまはあると思います」と語った。

また、クルー・ドラゴンそのものの印象については「まるでスマートフォンのような宇宙船だと感じています」とし、「シャトルやソユーズはスイッチやバルブがいっぱいあって、手動で動かす、まさに“機械”という感じでしたが、クルー・ドラゴンは内装が非常にすっきりとしたシンプルなデザインで、スイッチ類がほとんどなく、ほとんどすべてタッチスクリーンでなんでもできる設計になっています。新しい時代に入ったと感じますね」と語った。

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    クルー・ドラゴンのシミュレーターで訓練するCrew-2の宇宙飛行士。一番右が星出彰彦宇宙飛行士 (C) SpaceX/NASA

宇宙船内で着る宇宙服(船内与圧服)については「デザインがスタイリッシュで格好良いですが、『与圧服は宇宙船の一部である』という基本は押さえ、宇宙飛行士を安全に守るという必要な機能はしっかりしています。シャトルやソユーズの服と基本性能は同じだと感じています」という印象を語った。

なお、星出宇宙飛行士らが乗るクルー・ドラゴンのカプセルは、昨年行われた有人試験飛行ミッション「Demo-2」で使った「エンデバー(endeavour)」を再使用する。また、打ち上げに使う「ファルコン9」ロケットの第1段機体も、野口宇宙飛行士らが乗った「Crew-1」を打ち上げたときのものを再使用する。

ロケット、宇宙船ともに再使用の機体に乗ることについては、「“中古”というイメージがあるかもしれませんし、私も以前はエンジニアとして気にかかるところはありました。ですが、スペースXやNASAによる作業を間近で見たり、また私自身もその作業に参加したりし、細かいところまで調べたり改修したりして、安全であることをしっかり確認しています」と述べた。

そして「再使用ということは、裏を返せば『飛行実証された機体である』ということでもあります。地上で組み立てて試験をしただけではなく、すでに人間を乗せて宇宙へ行って帰ってきた機体なのです。安全面ではまったく懸念は抱いていません」と続け、自信を見せた。

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    緊急着水したクルー・ドラゴンから脱出するという想定の訓練を行う星出彰彦宇宙飛行士ら (C) NASA/Kim Shiflett