米国時間の1月12日に、CESの基調講演という形でRyzen 5000Gシリーズの発表があったが、このRyzen 5000Gシリーズについてもう少し細かな情報が公開されたので、お届けしたいと思う。なお今回はモバイル向け製品のみの発表なので正式にはRyzen 5000 Mobileという名称であるが、後追いでDesktop向け製品も投入予定とはっきり明言された(時期は未公開)ので、まとめてRyzen 5000Gシリーズとさせていただく。
さて、まずは改めてラインナップであるが、TDPが35W~45W+のHシリーズ、それとTDP 15WのUシリーズの2つのシリーズで合計14製品がラインナップされている(Photo01)。性能などは後で紹介するとして、まずは内部構造から。
CezanneとRenoirの違いをまとめる
Cezanneの構成そのもの(Photo02)は、端的に言えばRenoirのCPUコアをZen 3に切り替えただけ、としても良い。CCXの構成は、さすがに32MB L3はダイサイズの観点からか見送りになったが、それでもUnified 16MBのL3に最大8つのコアが組み合わされた格好になっている(Photo03)。ただこうした大容量のダイと、加えてZen 3コアそのもののエリアサイズ増大もあり、ダイサイズはやや大きい180平方mmになっている。
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Photo02: Renoirの構成はこちら。このレベルで言えば、CPUコア周り以外は一切変更が無い。
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Photo04: Renoirは156平方mmだったから、15%ほど大きくなった格好。
ただ、Cezanneは単にRenoirのCPUコアを入れ替えただけでなく、色々な新機能が追加されている。まずはMemory PHYで、新たに省電力モードが追加された(Photo05)。またGPUの動作周波数は従来1.75GHz(Ryzen 9 4900H)が最高速だったが、これを2.1GHzまで引き上げている。単に既存の設計のまま動作周波数を引き上げた訳ではなく、実際にはIncreased GPUEfficiencyとかGraphics DEM(Dynamic Energy Management)などの新機能が並んでいる様に、内部の物理設計を多少電力に最適化した気配がある。実際Zen 2→Zen 3で、実は消費電力は増えているのにコアの温度が変わらない(これは現在執筆中のDeep Diveで詳細を公開予定)という特性があり、内部でクリティカルな部分を再設計した事で、より動作周波数を上げやすくなった模様だ。これと同じことがGPU側にも施されているとすれば、無理なく動作周波数を上げやすくなったと思われる。
Zen 3コアに話を戻すと、Zen 3ではROP対策であるCETが搭載されたことも明らかにされた。Intelのこれに対する回答であって、これでセキュリティ対策に関しては同等になった形だ。
次がCPPC2(Photo08)。CPPC2そのものはZen 2の世代で実装された機能であるが、CPUはともかくAPUに関してはまだ未実装だった様で、これが実装されたとしている。
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Photo08: Preferred Coreの話は、なんとなくIntelのTurbo Boost Max 3.0に近い気がする。もっとも「軽い負荷の場合に最も高速なコアに割り当てる」というのはIntelと逆ではあるが。
さて、RenoirとCezanneが最も異なるのが電圧管理である(Photo09)。Renoirの世代では、内部のCPUとGPUは全て同一の電圧が供給されていた。これに対し、Cezanneの世代では、コア及びGPUにはそれぞれ独立にRegulatorが搭載されており、動作周波数に合わせた電圧が供給される様になった。消費電力が大幅に伸びたのは、このコア毎の個別の電力管理が大きく功を奏しているものと思われる。SoC全体での消費電力は、Renoir比で18~47%削減できた(Photo10)としており、この結果としてバッテリー利用時の動作時間を大幅に伸ばせた、とする。
Lucienneは改良型Renoirか?
さて、ここまではCezanneの話をご紹介してきたが、実はCezanneだけでなくLucienneについてもCPPC2の搭載、及び個別のレギュレータによる電力管理が実施されているという話であった。つまりLucienneはRenoirとは物理的に異なるダイであり、単にRenoirをRebrandした訳ではない、ということがAMDの関係者に確認して明らかになった。
実際問題として、RenoirとLucienneは意外にスペックが異なる。表1にRenoirとLucienneの主要なスペックをまとめてみたが、CPUコアそのものは大きな差が無い一方でGPUに関してはコア数も増え、しかも動作周波数が増えている事が判る。つまりLucienneはRenoirのRebrandではなく、言ってみればCezanneのコアをZen 2に載せ戻した製品ということになる。肝心の「何でわざわざZen 2を今更混ぜたのか」に関しての説明は今のところAMDから貰えていないが、単にRenoirそのものとは異なる製品だということだけははっきりした格好だ。
Ryzen 5000G (Ryzen 5000 Mobile)の性能評価
ついでにAMDによる性能評価についてもご紹介しておきたい。まずはハイエンドであるRyzen 5900HXにGeForce RTX 3080による性能がこちら(Photo12)だが、これはDiscrete Graphicsとの組み合わせなので、あまり参考にならない。ということでもう少し現実的なUシリーズでの比較をご紹介したい。まずはRyzen 7 5800U vs Core i7-1165G7(Photo13~15)であるが、Ryzen 7 5800Uは悪いケースでもCore i7-1165G7と概ね同等程度で、上手くすると3割以上性能が高いとしている。次がRyzen 5 5600U vs Core i5-1135G7(Photo16~18)で、最後がRyzen 3 5400U vs Core i3-1115G4(Photo19~21)となっている。
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Photo12: これはASUS Zephyrus DuoにRyzen 9 5900HXとGeForce RTX 3080を組み合わせた場合の性能で、主要なゲーム全てで軽く60fpsを超えるフレームレートを実現しているが、まぁ解像度が2Kだから当然ともいえる。ところでZephyrus Duoであれば4Kも可能な筈なのだが、なぜ2Kなのだろう?
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Photo13: PCMark 10 Applicationsでの比較。Ryzen 7 4800UはTiger Lakeに今一つ及ばない程度だったのが、Ryzen 7 5800UではTiger Lakeを上回ったとして良いかと思う。
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Photo14: Web系ベンチマークを出してくるあたりは、Intelの昨今のキャンペーン(例えばこれ)に対するカウンターと考えれば良いだろう。これだとTiger Lakeとほぼ同等となる。
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Photo15: 内蔵CPUを利用してのテスト。環境は2KでLow Settingだそうである。ただTiger Lakeとの相対性能はともかくとして、絶対性能で果たしてPlayableな程度のフレームレートが確保されているかどうかはちょっと疑問ではあるが。
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Photo19: こちらもRyzen 3 5400Uが有利であるが、このあたりになってくるとIntel/AMD共に「どれだけのリソースを有効にするか」で割と性能が大きく変わってくる。まぁ通常の利用にはどちらでも支障はないが、強いて比較すればRyzen 3の方が有利といった程度。
ここまでは一般的な使い方であるが、Contents Creation系を含むMobile Workstation的な用途であってもRyzen 7 5800UはCore i7-1165G7を上回る性能を出す(Photo22~25)。
ただこうした用途は、Ryzen 9 5900HXの方が更に高速、ということで今度はCore i9-10980HKとの比較(Photo26~29)も示された。非常に面白いのが、Ryzen Threadripper 1900Xとの比較(Photo30)である。まぁZenコアのThreadripperと比較するのもどうか、という話はあるにしても、Ryzen 9 5900HXはRyzen Threadripper 1900X比で3割も高速(で、TDPは1/4)というあたりが、この3年少々で急速に技術が進化したことを物語っている。
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Photo27: PremireやHandbreakはまぁ概ね同等(何でHandbreakはRyzen 9 4900Hが最高速なのだろう?)として良いが、DaVinci ResolveやLameでは結構無視できない差に。
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Photo28: Chief Architectはともかく、Blenderで意外と大差がついており、その割にPOV-Rayが同等、というのが面白い。ただPOV-RayがV3.7βだとすれば、Intelの方に多少アドバンテージがあり、にも関わらず同等のスコアということでこれは評価できるのだが(脚注にも細かなバージョンは記されていない)。
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Photo30: まぁRyzen Threadripper 1900Xは2019年の時点で価格が2万円切りまで暴落していたから、ある意味性能にふさわしい値段になっている訳で、価格を考えれば妥当と言えば妥当なのだろうが。
既報の通りRyzen 5000シリーズMobileプロセッサ搭載ノートは2月から投入予定だが、既に通常のThin and Light(Photo31)以外にCreator Platforms向け(Photo32)、更に最近成長著しいGaming Laptop向け(Photo33)が多数用意されている事が明らかにされた。このあたりは発売開始になると細かなスペックが出てくると思われる。