パソコンの性能を決定づける最も重要な存在である「CPU」。このCPUをけん引してきたのが、Intel Coreプロセッサーで知られるインテルだ。そのインテルが、「パソコンの性能」を判断する際に留意すべきという、ひとつの提言を発信している。今回は、ユーザーにとって有益となり得る可能性があるこの提言について、少し掘り下げて考えてみたい。

提言の発端は、今年の夏にインテルが海外で開催した「Intel Platform Advantage」というイベントにて、関係者向けに公開されたパソコンの性能に関するプレゼンテーションだ。今回のインテルの提言は簡単に言えば、「パソコンの性能は、仮定のベンチマークテストにのみ頼るよりも、リアルな製品を、リアルな使い道で測ってこそ、より良い判断ができる」というものだ。

本誌マイナビニュースをはじめ従来の業界の慣習では、新しいCPUが登場すると、いくつかのパーツを組み合わせて、そのCPUが動作する完成品パソコン相当の環境を構築。一定のレギュレーションで選んだベンチマークソフトを使ってその性能を計測している。こういった慣習的な現在の性能評価には公平性はあるが、一方で「ユーザーがパソコンを実際に使用する際の性能」に十分に合致した評価ができるのかは、改めて確かめなければならないとされる。

● ベンチマークの結果≒リアルな性能?

では、そのIntel Platform Advantageで示された例をいくつか紹介してみたい。

まずはモバイル向けのハイエンドCPUの性能を、"実在"する米レノボの"ゲーミング"ノートPC「Legion Y7000」(CPUにIntel Core i7-10750H搭載モデルとCore i5-10300H搭載モデルの2台)と、比較用として同「Legion R7000」(CPUにAMD Ryzen 7 4800H搭載モデル)で比べた結果から。

  • 「CINEBENCH」や「3DMark」で比べた場合と、実在のゲームソフトで比べた場合では結果が逆転する。何故なのか?

この場合、CPU性能のベンチマークソフトとして定番の「CINEBENCH」や、GPU性能のベンチマークソフトでやはり定番の「3DMark」で計測すると、高いスコアを出すのはLegion R7000の方だ。ところが、"実在"するゲームソフトで性能を計測すると、状況が一変する。

グランドセフトオートVやリーグ・オブ・レジェンド、または日本のユーザーにも馴染み深いファイナルファンタジーXIVなどを使って、プレイの快適さの目安となる平均フレームレートを測ってみると、先ほどは優位だったLegion R7000ではなく、Legion Y7000の方が高い性能を示すというのだ。

  • メジャーなゲームソフトを36タイトル使ってテストしても、やはりCINEBENCHや3DMarkの結果とは異なる傾向に

他にもメジャーなゲームソフト36タイトルで確かめたところ、35タイトルでCINEBENCHや3DMarkの結果とは異なる傾向になったとしている。なぜこのような結果になるのか、インテルは、実在のゲームソフトをプレイする場合、CPUコアの数でスコアが出やすいベンチマークソフトとは違い、CPUが効率よく周波数を上げて動作することの方が肝要になるためだ、といった理由を挙げている。

  • エントリークラスの環境であっても、ゲームソフトで比較すると似た傾向になるとしている

ほかの例ではどうだろうか。モバイル向けの低消費電力CPUの性能を、今度は米HPの"薄型軽量モバイル"ノートPC「Envy x360 15t」(Core i7-1065G7搭載モデルとCore i5-1035G1搭載モデル)と、比較用に同「Envy x360 15z」(Ryzen 7 4700U搭載モデル)で比べたというものがある。

この環境では、主にBAPCo社のベンチマークソフト「SYSmark」を使った結果が示されている。パソコンの総合性能を測るベンチマークソフトはいくつか存在するが、SYSmarkについてインテルは、マイクロソフトのOfficeなど"実在"かつ"よく使われている"メジャーなアプリケーションを動作させるテストであることから、よりリアルな使い道に近い性能が測れるのだと説明している。

  • 「SYSmark」は、実在するシェアの高いメジャーなアプリケーションを動作させるテストであるため、よりリアルな使い道に近い性能が測れるとする

SYSmarkではEnvy x360 15tがEnvy x360 15zと同等以上の性能を発揮しており、特にバッテリー駆動時は性能差が顕著になる。ユーザーにとって「軽量薄型モバイルノートPCを持ち出してバッテリー駆動で使う」というシチュエーションは"リアル"であるだけに、気になる結果だろう。インテルは、バッテリー駆動時のCPU動作周波数の制御の違いによるものと説明している。電力制御やメモリ動作など、1台のパソコンというプラットフォーム全体の総合力で見ると、CPU単体のベンチマークとは見える風景が異なるということらしい。

  • 左側の電源接続時の性能グラフでは、おおむね互角程度。右側、バッテリー駆動時の性能グラフではEnvy x360 15tがかなり優位に

  • デスクトップ向けCPUでも、実在するゲームソフトで比べるとモバイル向けCPUと同様の傾向が見られるという

ただし、これらはあくまでもインテルが用意した環境を、インテルが自らテストしているものに過ぎない。

我々としては、このインテルの提言が、本当に"実在"する"リアル"なものであるのか客観的に確かめることで、ユーザーの利益に貢献できるものと考える。そこで、本誌マイナビニュースでもCPU性能のテストを数多く手掛けてきたテクニカルライターの大原雄介氏に依頼し、本件に関する第三者検証を実施してもらうこととした。

● 実在するパソコンで実際に確認してみる (text by 大原雄介)

Intel Platform Advantage Briefingの内容は、筆者からすると「理解はできるが納得はしにくい」ものもある。例えばSYSmark 25(Photo01)。「良く利用される実際のアプリケーションを利用しているから現実的」ということには同意するが、その一方でSYSmark 25はトータルのスコアが出るだけで「なぜこういう結果になったか」を知る術がないあたりは、評価として非常に使いにくい。

  • Photo01: あと、PCMark 10ではOpenCLを多用するのも、現実に今ひとつそぐわない気はする。その一方でPCMark 10はデータの測定方法やスコアの出し方がきちんと開示されているというメリットもあり、まぁどっちもどっちであるのだが。

それもあって普段はPCMark 10を使っている訳だが、そのPCMark 10はBuild inされたアプリケーションを動かす通常のテスト(PCMark 10/PCMark 10 Essentials/PCMark 10 Extended)以外に、製品版のOffice 365を利用してのテストを行うPCMark 10 Applicationsがある。これに関しては前出の「よく使われている実在のアプリケーションを利用」というシナリオにも合致するし、実際に評価として示している(Photo02)。これであれば評価に使用しても差し支えないだろう。

  • Photo02: SYSmark 25とWebXPRT v3に並んで、PCMark 10 Applicationsの結果も示されているのが判る。

さて、ではこれら示されたグラフを検証してみようという話であるが、Photo02の構成は実在する最終製品として米HPのEnvy x360シリーズを使っているものの、これが国内では残念ながら調達できなかった(HPはRyzen 3以外のモデルを一次販売停止にしている)。そもそも、Ryzen搭載ノートの場合、4000シリーズを搭載した製品は色々発表されているものの、実際の入手性という観点ではまだちょっと難しく、むしろ前世代である3000シリーズの方が現実的である。

これはインテルも同じで、Tiger Lake搭載ノートは華々しく発表されたものの、市場に出ているのはIce Lake搭載ノートである、主力である期間もまだ続くだろう。多分両社共にこの状況が改善されるのは年末あたりだろうと思うのだが、そんな訳で「今入手できる」という観点で見ると、似たような機材でCPU毎のおおまかな傾向を見るという構図にならざるを得ない。

  • Photo03: この手の話でいつも困るのは、米国と日本では売られている製品のSKUが異なる関係で、同じ機材を用意できないことだ。従って、日本なりにローカライズして実施の必要がある。画像はASUS JAPANのVivoBook 15(左)とZenBook 14(右)。

というわけで今回はASUS JAPANが日本国内で販売中の、以下の2台のマシンを入手してテスト機材とした。

・Ice Lake:ASUS VivoBook 15 X512JA
┗構成:Core i5-1035G1+8GB DDR4-2400+512GB SSD、Windows 10 Home 64bit+Office Home and Business 2019
┗検証時のASUS Store価格 89,800円(税別)
・Ryzen:ASUS ZenBook 14 UM431DA
┗構成:Ryzen 5 3500U+8GB DDR4-2400+256GB SSD、Windows 10 Home 64bit
┗検証時のASUS Store価格 84,800円(税別)

VivoBookが5,000円ほど高価ではあるが、ストレージ容量が倍増し、+Office Home and Business 2019がバンドルされていることを考えれば、むしろVivoBookの方が割安ということも出来る。まぁ、筐体に高級感があるのはZenBookなので、それで相殺という考え方も可能だが。

さて難しいのは「内部の構成はこれで公平か?」という判断である。今回の場合、まず筐体サイズが異なるからバッテリー容量も異なる訳で、これはACのみの比較(バッテリー動作は考えない)とした。SSDの容量も異なるが、これは後述の様に幸い(保証外だが)交換は出来るし、テストに大きな影響はないと思われる。

問題はメモリで、容量が8GBと、果たして現在の多くのユーザーにとって足りるものなのかが少し微妙だ。昨今だとChromeとかのメモリ大喰いアプリケーションもあるので、個人的にはできれば16GBは欲しい所だ。せめてこれを何とか出来ないか? と思ったが、VivoBook 15(Photo04)はオンボードで4GB分が搭載され、1スロットのSO-DIMMが用意されるという構成。

なので、オンボードで搭載される4GB分の速度は変更できない事になる。実際BIOS Setupにも速度変更のオプションもない。このオンボードの4GB分はSPDも無いため速度が不明なのだが、CPU-Zで見るとCL17となっており、恐らくDDR4-2400動作と思われる。一方ZenBook 14(Photo05)の方は更に状況が厳しく、DDR4-2400 8GB分が全部オンボード実装になっており、拡張が出来ない。幸い2ch構成での接続なので速度的には十分であるが、今回は8GBでのテストで我慢するしかない。

  • Photo04: 今回試したVivoBook 15にはSK-HynixのDDR4-3200 4GB DIMMが装着されていた。仮にこれを8GBにすればトータル12GB、16GBにすればトータル20GBになる。ただこういう非対称構成はあまりおすすめは出来ないが。

  • Photo05: ZenBook 14のDRAMは全部オンチップ実装になっている模様。内部スペース的にSO-DIMMスロットを設けるのは至難の業なのだろう。

ちなみに本来ならCore i5-1035G1はDDR4-3200までサポート(Ryzen 5 3500UはDDR4-2400止まり)されており、その意味では、プラットフォームレベルの性能としてはIntel Coreがフルの実力を発揮する比較環境ではないのだが、実際に販売している製品かつ、大体同等の値段で、大体同じ構成という観点からすれば一定の公平性はあるとして良いと思う。

前書きはこの程度にして、では実際の性能を見て頂きたいと思う。今回の場合、14~15inchの15W枠の薄型ノートであるから、Intel Platform Advantage Briefingのシナリオと同様となるが、例えばこれでFPSゲームをやるとか、コンテンツ生成バリバリ、という使い方はあまりそぐわない。現実的にはビジネス(書類やプレゼンテーション生成)と表計算、それをWebブラウザで利用するという時間が一番長いと思われる。そんな訳でまずPCMark 10(Version 2.1.2506)を利用してのApplication Testの結果をご紹介したい。Ice LakeとRyzenのどちらもOffice 365 Businessをインストールして利用した。

Application Testの場合、基準になるリファレンス機はなく、Excel/Word/Powerpoint/Edgeの4つのアプリケーションで一連のシナリオを行い、そのシナリオに要する所要時間から所要時間を算出する仕組みで、ほぼスコアが速度(=所要時間の逆数)に比例する感じと考えて頂ければよい。

  • グラフ1

で、Overallの結果(グラフ1)をご覧いただくとわかるが、VivoBookがZenBookを大幅に上回る快適さ(=所要時間の短さ)を実現している、という結果になった。Overallのスコアは、Excel/Word/Powerpoint/Edgeの4つのテストの相乗平均を取っただけであるが、その個々のテストの結果はVivoBookがZenBookを大幅に上回っているのが判る。

  • グラフ2

ではなぜ? ということで、まずグラフ2がExcelの詳細である。Excelのテストの場合、

  1. Excelを起動
  2. 編集元と編集先のワークシートを開く
  3. 画面を引き延ばす
  4. 編集元ワークシートから編集先ワークシートに、式の評価ありでデータをコピー
  5. 編集元ワークシートから編集先ワークシートに、式の評価なしでデータをコピー
  6. 編集先のワークシート内で、式の評価付きでコピー5回
  7. 編集元ワークシートから編集先ワークシートに、式の評価ありでデータをコピー(4.と同じ)
  8. 特定の値をトリガーに式を評価
  9. 編集先ワークシートを保存して終了

という9つの処理を行い、これに要する処理時間を細かく測定している訳だが、Excelそのものの起動とか画面のリサイズ、式の評価付きのコピーといった処理でZenBookが妙に所要時間が多い(VivoBookよりも50~100%余分に時間が掛かっている)ことがわかる。勿論中にはZenBookの方が僅かながら高速(Building Design RecalculateとかStock History Recalculate)なこともあるが、その差は僅かである。

ちなみにグラフ2の横軸は所要時間であり、なので棒が長いほど遅いということになる。実際の数字を見ると、たとえば画面のリサイズは0.68sec vs 1.09sec、Excelの起動は0.51sec vs 0.95secということで、個々の数字そのものは小さい差であるが、その積み重ねが大きな体感性能の違いに繋がる、ということをこのベンチマークでは示している。もちろん、ZenBookでもそれなりに快適だろう。ただVivoBookはさらに快適、という訳だ。

  • グラフ3

  • グラフ4

  • グラフ5

同じ様にWord/Powerpoint/Edgeにおける個々の結果をグラフ3~5にまとめた。個々のテストで何を行っているのか、はTechnical Guide (リンク先にpdf)にまとめられているので、興味のある方は確認してほしい。Word(グラフ3)はこと文章入力に関しては同等だが、それ以外の処理でZenBookはちょっともたつく感じ。PowerPoint(グラフ4)では、文章や図版の挿入こそZenBookの方が高速だが、保存は逆に倍の時間が掛かるということで、トータルするとVivoBookの方が快適であると判断できる。Edge(グラフ5)では、差が無いテストもある一方、ZenBookが倍近く遅くなるものもあり、やはりトータルではVivoBookの方が快適そうだ。

これだけだと何なので、もうひとつWebXPRT 3も実施してみた。Edgeは先にグラフ5で試しているので、Chrome 85をダウンロードして、この上で実施している。WebXPRT 3も、White Paper (リンク先にpdf)という形で、個々のテストで何を行い、その結果をどう集計してスコアが算出されているかが公開されている関係で、評価に使いやすい。

WebXPRT 3ではPhoto Enhancement/Organize Album using AI/Stock Option Pricing/Encrypt Notes and OCR Scan/Sales Graphs/Online Homeworkの6つのカテゴリで細かなテストが行われ、その際の平均所要時間からスコアが導き出されるあたりは、PCMark 10と同じ構図である(ちなみにこの6つのカテゴリで7回ずつテストが行われる)。

  • グラフ6

  • グラフ7

結果はグラフ6の通りで、やはりVivoBookがZenBookより優位という結果になった。グラフ7がテスト別の所要時間の平均値であるが、全般的にVivoBookの方がZenBookより30%程度短い所要時間で処理を完了できることが示された。

今回行ったテストであるが、15Wクラスのノート向けの実在のワークロードに即したベンチマークであり、この範疇であれば確かにVivoBookというかIce Lakeが、Ryzen 3000シリーズのZenBookよりも優れた性能を発揮することが示されたし、これは体感性能ともほぼ一致する結果である。

普段筆者の場合はアーキテクチャレビューを行う関係で、最もパフォーマンス出る様に環境を揃えてベンチマークを実施するが、実際に購入するマシンというのは必ずしも最高のパフォーマンスを引き出す構成になっているとは限らない、という側面は確かにある。特にノートPCだとこれが顕著であり、今回の様にメモリ容量8GBとか速度固定、なんてケースは珍しくない。インテルの今回の取り組みが、そうした現実の製品構成と現実のアプリケーション性能を反映するものという意味合いであれば、これは機種選定の際の助けになることは間違いないのだろう。

今回はインテルの提唱に沿う形でテストを行ってみたが、この結果として「最終製品を使い、実在するアプリケーションベースで測ると、ベンチマークとは性能の出方が違う場面が存在し、それが実際の反応速度の向上という形でユーザーメリットになっている」ことは確認できたと思うし、インテルのテスト内容に一定の公平性はあったと思う。

アーキテクチャとしての性能を追いつつも、こうした結果を受けて、業界的にはさらに踏み込んで、最終製品のパフォーマンスとして現状よりももっと引き出せるようにと競って進化してくれれば、将来的なユーザーメリットがさらに増すことになるだろう。とりあえず年末あたりには揃うであろう、Tiger LakeベースのCore i5とRenoirベースのRyzen 5の薄型ノート対決がちょっと楽しみである。

● パソコンの性能、読み解く目を持とう

というわけで、ここまで大原雄介氏に依頼した検証の結果をお届けした。

パソコンの用途は多岐にわたり、フォームファクタも多様化し続けている昨今、様々な場面で目にするベンチマークテストの結果は、例えばそのアーキテクチャの限界の性能であったり、ある使用目的における性能のいち側面であったりしており、それこそコレが「overall」な性能指標、という断言は難しくなっているのかもしれない。

ユーザーそれぞれが、使用目的も踏まえて本当に必要とされる性能を見極められるようになれば、より最適な製品に巡り合える機会が増えるに違いない。伝える側はわかりやすく、ユーザー側も目を肥やすことで、メーカーは今よりもっと素晴らしい製品を世に送り出してくれるはずだ。時期的にはちょうど新しいCPUの話題も出始めているが、この機会に、各種のベンチマークテストの結果を、いつも以上に目を凝らしてチェックしてみてはいかがだろうか。

[PR]提供:インテル