京都⼤学は1月26日、漢字の「読字」「書字」「意味理解」の習得には、部分的に異なる複数の認知能力が関わっていること、ならびに「書字」の能力が高い人ほど文章作成能力が高くなり、手書きの習得が高度な言語能力の発達と関連する事を発見したと発表した。
同成果は、同大大学院医学研究科の大塚貞男 特定助教、同村井俊哉 教授らによるもの。詳細は1月26日付の国際学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
すでに研究チームは先行研究として漢字能力が「読字」「書字」「意味理解」の3側面からなる事を発表しているが、今回の研究では、大学(院)生30名に対し漢字能力の3側面、基礎的な認知能力、高度な言語力の測定を行う形でそれぞれの関連性の調査を行った。
漢字能力の習得には複数の認知能力が関わっていることが判明
具体的な調査方法としては、基礎的な認知能力として、音韻処理、呼称速度、視空間処理、統語処理の4つを心理検査を用いた測定を実施。音韻処理が3側面の習得に共通して関わる一方で、他の3つの認知能力は、読字には呼称速度と統語処理、書字には視空間処理、意味理解には統語処理といった形で側面特異的に関わっていることが分かったとしており、この結果を踏まえ研究チームは、漢字習得に困難を抱える⼦どもたちに同じ指導方法を適用することは効果的とは⾔えず、習得が難しい漢字能力の側面とその要因(苦手な認知能力)を考慮した教育ストラテジーが必要であることが示唆されたとしている。
書字能力と高度な言語能力の関係
また、高度な言語能力と3側面の関係についての検討を行った結果、書字能力だけが、言語的知識の習得を介して文章作成能力に影響を及ぼすことが示されたという。
この結果について研究チームでは、小学校から高校までの間に漢字の手書きを十分に習得することが、その後の高度な言語能力の発達にとって重要であることを示唆するものであり、早期のデジタルデバイスの利⽤が漢字の⼿書き習得に抑制的な影響を及ぼした場合、その影響は⼿書きを必要としないさまざまな⾔語・認知能⼒の発達にまでおよぶ可能性があるとしており、学校教育、特に読み書き教育におけるデジタルデバイスの導⼊については、その是⾮や適切な利⽤⽅法などを注意深く議論していく必要があるとしている。
なお、先行研究として今回の研究で文章作成能力の指標として用いられた意味密度が高い人ほど「認知予備能」(アルツハイマー型認知症などによって脳に器質的な障害が生じた場合に、脳神経ネットワークを柔軟に利用して認知能力の低下に抵抗する能力)が高く、アルツハイマー病による脳の病変が進んでいた場合でも、晩年まで健全な認知能⼒を維持していたことが報告されていることから、研究チームでは学童期の読み書き習得(特に⼿書きの習得)から成⼈期の⾼度な⾔語能⼒(意味密度など)の発達を通して認知予備能を⾼め、⽼年期の認知能⼒維持に⾄る⽣涯軌道に関する理論的フレームワークを提唱。
今後、児童、成⼈、⾼齢者といったさまざまな年齢層の⼈たちを対象に、漢字の読み、書き、意味理解のそれぞれの習得に着⽬した学習の効果を検証することによって、漢字の習得に困難を抱える⼦どもへの教育ストラテジーの開発や認知症予防などに役⽴つ知⾒を得ることにつなげていきたいとしている。