近畿大学(近大)と加美乃素本舗は1月22日、同社の育毛剤に配合されている有効成分の由来生薬「延命草」の詳細な分析を行った結果、そのエキスに発毛の司令塔である「毛乳頭細胞」を活性化する効果があることを発見したと共同で発表した。
同成果は、近大 薬学総合研究所の萬瀬貴昭研究員、同・羅鳳琳大学院生、同・森川敏生教授と加美乃素本舗の研究者らによる共同研究チームによるもの。詳細は、シュプリンガー・ネイチャーが発行する学術雑誌「Journal of Natural Medicines」に掲載された。
脱毛症は生命の危機となる疾患ではないが、外見上の印象を大きく左右することから、男女どちらにとってもQOL(Quality Of Life:生活の質)への影響が大きい。脱毛症の原因には、ストレスや栄養不足、ホルモンバランスの乱れ、老化などが挙げられ、複数の原因が重なることにより脱毛症に至る場合もある。
そうした中、近年になって、原因に関係なく脱毛の症状自体を改善する新たな治療薬の開発が推進されているという。今回、共同研究チームにより、生薬素材の中から脱毛症の治療に有益な成分の探索研究が、発毛の司令塔といわれる毛乳頭細胞を用いて実施された。なお毛乳頭細胞が選ばれた理由は、髪の成長を促す信号と脱毛へ誘導する信号のバランスによって、髪の成長と脱毛の周期である毛周期(成長期、退行期、休止期があり、薄毛や脱毛は、毛周期の乱れが原因であることが多い)を制御している細胞だからだ。
今回の研究では、加美乃素本舗が55年間育毛剤の有効成分として使用してきた生薬である延命草のエキスについて、新規機能開拓研究が行われた。延命草とは、シソ科の多年草である「ヒキオコシ」のことだ。20種類の生薬のエキスが毛乳頭細胞に添加培養され、その増殖率が測定されたところ、延命草のエキスに毛乳頭細胞の増殖を促進する効果が発見された。
またこの効果を指標にして、延命草のエキスが分子レベルまで分離・精製され、含有成分が明らかにされた。同植物に含有されているエントカウラン型のジテルペノイドである「エンメイン」、「イソドカルピン」、「ノドシン」、「オリドニン」といった化合物が、毛乳頭細胞の増殖を促進する成分であることが同定された。
なおジテルペノイドとは、炭素数5個の分子単位(イソプレン単位)が4つ結合した天然有機化合物の総称である。構造多様性に富み、さまざまな基本骨格が存在し、エントカウランもその基本骨格のひとつだ。
さらに、主要成分エンメインを用いて、作用メカニズムが分子生物学的手法にて解析された。その結果、毛乳頭細胞に投与することにより、細胞の増殖を制御する生体内シグナル伝達(増殖スイッチ)のひとつである「Akt/GSK-3β/β-catenin シグナル伝達経路」を活性化していることが判明。
髪の成長を促す信号を成長因子といい、毛周期の成長期を延長することが知られている。エンメインには、その成長因子のひとつである「VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮増殖因子)」の毛乳頭細胞からの分泌を促進する効果があることも確認された。
共同研究チームはこれらの結果から、男性女性問わずさまざまな原因による薄毛に効果のある育毛剤の開発につながることが期待されるとしている。