CPUアーキテクトのジム・ケラー氏が、カナダのトロントを本拠とするAI向けハードウェアベンチャー企業Tenstorrentのプレジデント兼CTO (最高技術責任者)に就任した。業界の勢力図を塗りかえる数々の製品・技術の設計をリードしてきた同氏は、テクノロジー産業に大きな影響を与える半導体技術者の1人に数えられる。

  • Intel時代のジム・ケラー氏

    AMD、Apple、Tesla、Intelで数々の功績を残してきたCPUアーキテクト、ジム・ケラー氏

ケラー氏の経歴をふり返ると、2000年代前半のAMD躍進の原動力となったK7とK8、x86-64 (AMD64/x64)の設計に従事した後、2004年にP.A.Semiのエンジニアリング担当バイスプレジデントに就任。2008年にP.A.SemiがAppleに買収され、Appleが独自に開発し始めたiPhone用のSoC (A4〜A7)の設計に携わった。2012年にAMDに復帰し、今日のAMDの躍進につながるZenマイクロアーキテクチャとK12の開発を率いた。2016年にTeslaのAutopilot Hardware Engineeringのバイスプレジデントに就任。2018年4月からIntelでシニアバイスプレジデントとして、半導体エンジニアリング全般をリード。昨年6月に退職したが、約2年間で同氏が残したものがIntel復活のカギになると期待されている。

Tenstorrentは2016年設立、創設者2人はAMDのベテランであり、コアとなる社員の多くは半導体設計者だ。ファブレスで機械学習ソフトウェアのためのチップを設計し、パートナーと共に、学習から推論まで包括的なソリューションを形にする。ケラー氏はCTOとして、Software 2.0のニーズを満たすハードウェアソリューションの取り組みをリードするという。

Software 2.0は、機械学習の利用を前提とした新しい形のソフトウエアエンジニアリングを指す。大量のコーディングに時間を費やすよりも、機械学習が自動生成できるようにトレーニング用のデータを揃えて学習させた方が、より効率的に問題を解決できる可能性がある。ソフトウェアエンジニアリングをデータサイエンスに置き換えるような考えだ。ケラー氏は「Software 2.0は、コンピューティングの長期的なイノベーションになる大きなチャンスです。その成功をつかむには、コンピュートとローレベルのソフトウェアを包括的に再考する必要があります」と述べている。