台湾の複数メディアが1月5日付けで、「TSMCが、日本の経済産業省(経産省)の誘致に応じて、日本に後工程(アッセンブリ・パッケージング・最終テスト)ファブを開設することを決めた模様である」と伝えた。すでに経産省とTSMCは基本的に合意しており、近く最終的な覚書への署名を経て正式発表すると見られるという。
これらの情報は、TSMCや経産省から発表された正式情報ではなく、TSMCの内情に通じた台湾半導体関係筋のリークのようである。来る1月14日に予定されているTSMCの投資家向け事業方針説明会で何らかの発表が行われる可能性もあるとみられる。また経産省も、決定した事実はないとしているが、台湾メディアは同省の官僚がTSMCを何度も訪問した事実をつかんでおり、最終決定ではないにしろ、交渉は最終段階を迎えていると見ている。
日本に後工程ファブを設置するメリットはあるのか?
台湾メディアによると、経産省の担当者が2020年に複数回にわたってTSMCを訪問し、日本に前工程ファブを設置するように要請してきたものの、TSMCは応じようとはしなかったという。同社は「いかなる可能性も排除しない」としつつ、有力顧客がおらず市場性に乏しい日本に「ファブ建設の計画はない」と明らかにしていた。このため、日本政府は次善の策として後工程ファブを日本に設置するようTSMCの説得を続けてきたという。日本は、半導体製造装置や材料技術で優位性があるものの、ウェハ製造に関する需要が不足しており、米国進出を控えて、台湾に結集しているTSMCのR&Dリソースを分散させるのは得策ではないと判断し、最終的に経産省の前工程ファブ設立要請には応じないことを決定したという。
後工程ファブは前工程ファブより設備投資がはるかに少ない。また、予算の裏付けのある経産省の補助金が確実に得られ、日本の後工程製造装置メーカーと開発協業しやすくなり、さらには台湾海峡での紛争リスクなどの地政学的リスクを回避できることはTSMCにメリットとなる。一方の日本側も、日米台間の協力関係を深めることにつながり、日本の存在感を高めることができると考えているようだ。
台湾メディアによると、台湾の識者の談話として、「日本に後工程ファブを設置しても、日本には有力顧客はおらず実際の市場需要の間にはギャップがありすぎる。日本の半導体産業は電源、車両、風力、モーター、イメージセンサなど特殊な分野が支配的であり、日本に後工程ファブを設置する場合、特別な生産ラインとなる可能性が高い。また、ファブ建設に日本政府の補助金が出るにせよ、日本の高い運営コストをどのように克服するのかが問わることとなる」と日本での工場運営の課題点を挙げている。
台湾外の初後工程ファブとなるか?
TSMCの海外ファブは現在、200mmファブが中国上海と米国ワシントン州、300mmファブが中国南京で稼働している。また、米国政府の強い要請で現在、米国アリゾナ州に300mmファブの建設を計画しているが、いずれも前工程ファブである。もし、日本に後工程ファブが設置されれば、同社初の海外後工程ファブとなる。上述の識者の発言ではないが、TSMCとしても日本の先端実装技術を活用するのではないかとの期待もあるが、前工程ファブでは海外に最先端プロセスを出していないことから、後工程についても最先端技術は台湾内に留める可能性がある。