衛星事業では世界初の技術にも挑戦

また、同社の100%子会社として、新会社「Our stars」を設立することも明らかにされた。新会社が手がけるのは衛星ビジネス。設立時期は2021年初頭で、社長には堀江氏が就任する予定だ。

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    新会社「Our stars」の概要 (C)IST

SpaceXは「Starlink」、Rocket Labは「Photon」と、民間ロケット企業で最も勢いのある2社がすでに開始しているように、ロケット企業が衛星ビジネスも手がけるのはトレンドになりつつある。ZEROはまだ開発中なものの、運用開始後を見据えて早めに衛星会社を作っておくというのは、何も不思議なことではない。

ただ、Our starsが検討している事業の内容はかなりユニークだ。今回発表されたのは、通信、地球観測、宇宙実験と、宇宙では定番の3分野の事業であるものの、いずれも技術的にはチャレンジング。スタンダードな路線に行っても競合が多いだけ、という事情もあるだろうが、実現できたら非常に画期的なものばかりだ。

(1)超々小型衛星フォーメーションフライトによる衛星通信サービス

これは、10cm立方のキューブサットよりさらに小さい超々小型衛星(ピンポン球サイズ)を多数打ち上げ、フォーメーションフライト(編隊飛行)により、軌道上に配置するというもの。一つひとつの衛星には、通信機と電磁石が内蔵されており、お互いの距離をうまく調整することで、宇宙空間で巨大なアンテナになるという。

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    超々小型衛星を大量に配置することで、巨大なアンテナが出現 (C)IST

アンテナの性能は、その大きさ(口径)が重要な要素となる。宇宙で大きなアンテナを展開しようとすれば、どうしても衛星は大型化するため、ZEROが打ち上げ可能な超小型衛星では勝負にならないが、この方式であれば、アンテナの構造物を省略して大幅な軽量化が可能なので、ZEROでも巨大アンテナを構築できる。

堀江氏は、「一気に5Gクラスの通信速度を実現できる」と目論むが、ただ技術的には相当ハードルが高い。電磁石によるフォーメーションフライトは世界初の技術で、軌道上で実証実験すらまだ行われていない。本当に実現できるのかどうか、まずはその成立性の見極めが必要になるだろう。

(2)超低高度リモートセンシング衛星による地球観測サービス

地球観測衛星は、一般的に高度600km~800km程度の低軌道を飛行していることが多い。もっと低い高度で飛ばせれば、地面までの距離が近くなるので、カメラを小型化できるメリットがあるが、大気抵抗が増して軌道が下がり、衛星の寿命が短くなるという問題があった。長く使うためには、エンジンを噴射して高度を維持する必要がある。

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    超低高度を飛行することで、超小型衛星でも高分解能の撮影が可能に (C)IST

これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)で実証された技術であり、技術的に可能であることは分かっている。しかし、民間のビジネスとするためには、これをどうコストダウンし、小型化するかが非常に重要。特に、燃費の良い電気推進エンジンが必要なのは大きな課題になるだろう。

(3)宇宙実験用衛星・回収カプセル

現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)は、2024年以降の運用がどうなるのか不透明。しかし、微小重力環境での宇宙実験には根強いニーズがあり、衛星と回収カプセルの組み合わせで、サービスを提供する。無人の衛星であれば、安全上の問題によりISSでは難しかった実験でもやりやすいというメリットがある。

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    軌道上で半年~1年ほど無人実験を行い、回収カプセルが帰還する (C)IST

これも、すでに次世代型無人宇宙実験システム「USERS」等の例があり、技術的には十分可能。しかし、回収カプセルという難易度の高い技術が必要になる上、回収方法をどうするのかといった課題もある。堀江氏は、3つの事業のうちこれが「一番最初に事業化できる」と見るが、決して簡単というわけではない。

なぜ、ISTとは別に、新会社を作るのか。堀江氏はその狙いを、「収益化しやすいビジネスを切り出した方が、資金調達しやすいから」と述べる。

ロケット事業は、ZEROが完成したあとも、次の大型ロケットの開発が始まるので、息の長い投資家しか集まらない。しかしこれでは、他の大勢の投資家から出資を得るのは難しい。一方、衛星事業は、衛星を上げればサービスを開始し、収益を上げられるので、ロケットよりも短期間で資金を回収しやすいわけだ。

また同社にとっては、衛星事業を開始することで、ロケット側のニーズを自ら作り出せるという側面もある。特に完成したばかりのロケットは実績が少なく、顧客も様子見になることが多い。顧客として利用すればZEROの実績を増やせるし、ZEROを購入することで、衛星側から間接的にISTの資金調達を支援できる。一石二鳥だ。

衛星はロケットとはかなり異なるノウハウになるため、今後、衛星事業向けの人材募集を行い、徐々に体制を整えていく。事業が本格化するのはZEROの完成後になるだろうが、その前に他のロケットを使い、実証衛星を打ち上げる可能性もあるということだ。