PC製品を主力とする富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、13.3型ノートPCとして世界最軽量となる「FMV LIFEBOOK UH」シリーズなど、意欲的な製品を市場に投入している。FCCLがレノボグループの一員となって、新たに事業を開始したのは2018年5月2日。FCCLの齋藤邦彰社長は、最初の会見で、新生FCCLがスタートした日を「Day1」とし、約3年後の「Day1000」で進化した姿を報告することを約束した。Day1000は2021年1月25日。この短期連載では、Day1から続くFCCLの歩みを振り返るとともに、Day1000に向けた挑戦を追っていく。

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富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の歩みと挑戦を追う短期連載の第2回では、13.3型ノートPCの「世界最軽量」を追い続ける理由についてまとめよう。FCCLがDay1000に向けて掲げたひとつめの目標は、これまで取り組んできたパソコン事業をさらに進化させ、そこでFCCLならではの存在感を発揮だ。いわば、パソコン事業の「正常進化」の追求である。

その最たる取り組みは、2020年11月下旬から発売した「LIFEBOOK UH-X/E3」だろう。LIFEBOOK UH-X/E3は、13.3型ノートPCの世界最軽量をさらに更新して見せた。世界最軽量の座を初めて奪取した2017年1月発表「LIFEBOOK UH75/B1」のとき、FCCLの齋藤邦彰社長は「世界最軽量の座は譲らない」と記者会見で宣言したが、それから約4年を経過したいまも、公約は守られている。

  • 2020年12月発売の13.3型ノートPC「LIFEBOOK UH-X/E3」。重さ634gを実現した

こだわりの強さは、開発者も同じだ。実は、初めて世界一を奪取したLIFEBOOK UH75/B1は、発売前までのわずかな期間だけ、NECパーソナルコンピュータの「LAVIE Hybrid ZERO」に首位の座(世界最軽量)を明け渡したことがあった。

NECパーソナルコンピュータが、LIFEBOOK UH75/B1の777gを下回る769gで発売すると発表したからだ。だが、発売を直前に控えた2018年2月には、「LIFEBOOK UH75/B1」の重量を761gへと修正。発売時点においては、世界最軽量の座を譲らなかった。

発売前のわずか1カ月という短期間に16gも減量できた理由についてFCCLは、「777gは確実に達成できる数字として公表していたものであり、島根富士通(*)で量産を開始してから、約300台の平均値をとっても、761gは間違いなくいけると判断した」と、その理由を説明していた。

*島根富士通:FCCLのノートPCを生産する拠点

  • 島根富士通

これを実現した背景には、発売までの期間においても、開発者は気を緩めずに努力を重ねていた点が見逃せない。というのも、この製品は発売後も軽量に向けた努力を続けないと「太ってしまう」性質を持っているからだ。NECパーソナルコンピュータへの対抗ということよりも、継続的な努力が世界最軽量の奪取につながっている。

たとえば、ノートPCの塗装は、一度塗るだけで5g増えてしまう。「塗装の技術に課題があって塗りムラが出たので塗りなおす」ということが発生すれば、それだけで5g増えるのだ。天板、底面カバー、そしてキーボード部のそれぞれに塗装が一層増えれば、あっという間に約15gも増量する。

FCCLが発売する世界最軽量製品は、限定モデルではなく量産モデルだ。量産工程において、安定した塗装品質が実現できなかったり、使用している部品にばらつきがあったり、ネジの形状が少し変わったりするるだけでも、重量増に反映されてしまう。まさに発表後や発売後も、世界最軽量を維持するための努力が常に繰り返されているのだ。

777gという数字は、個体差の吸収を想定して公表した数字だった。いわば量産前の数字である。それが量産した結果、761gと公表しても問題はないと判断したのだ。

一度、公式に発表した数値を覆すというのは、あまり格好がいいものではない。しかしFCCLは、2020年11月下旬から発売した「LIFEBOOK UH-X/E3」でも、その「格好悪いこと」を繰り返した。

  • 2020年10月のオンライン発表会から。LIFEBOOK UH-X/E3は、はじめは重さ638gと発表された(写真右はFCCLの齋藤邦彰社長、写真左はFCCLの竹田弘康副社長

オンライン発表会にてサプライズ

2020年10月19日に行われたLIFEBOOK UH-X/E3の製品発表会見は、新型コロナウイルス感染症への対策として、完全オンラインで行われた。より分かりやすく製品を説明するため、オンライン会見の特性を生かして、齋藤社長による紹介や製品担当者による詳細な説明は、事前のビデオ収録となった。関係者によると、編集作業もあり、会見の約2週間前に収録されたようだ。そして、ビデオが終了したあとの質疑応答はライブ形式。記者の質問には、その場で正面から答える姿勢を示した。

そのオンライン会見、LIFEBOOK UH-X/E3のビデオ映像で齋藤社長は「638g」と発表したが、会見に合わせて配布されたニュースリリースには「634g」と書かれていたのだ。

質疑応答に登場した齋藤社長と竹田康弘副社長は、「開発陣が最後の最後の瞬間まで粘ったことがある。それを報告したい」としながら、2人で「世界最軽量更新638g」と書かれたボードを持ち出し、そこで末尾の「8」のシールをはがして見せた。すると現れたのは「4」という数字。

  • 2020年10月のオンライン発表会から。齋藤社長が「8」のシールをめくると……

  • その下には「4」の数字。LIFEBOOK UH-X/E3は正式に634gと発表された

「私にとっては、本当にうれしいことだ」と齋藤社長はコメント。ボードはそこで撤収されたが、齋藤社長の仕草からは、そのボードをまだ持っていたいという雰囲気すら感じられた。それほどのうれしさだったのだろう。ビデオの収録から記者会見までの2週間で、開発陣は4gの軽量化を実現したのだ。

もはや700gを切る13.3型ノートPCは世界中を見渡してもない。ライバルがいないなかで、最初の修正時のように、世界軽量化を達成したスペックをさらに軽量化した数値に修正する必要はなかったともいえる。だが、ここにも開発者のこだわりがあった。

齋藤社長はこのとき、「世界最軽量はムサシである」という表現を使った。実は、開発者たちは、最初から「ムサシ(634g)」を目標にしてきた。「634」という数字は、東京スカイツリーの高さである634mでも用いられており、東京、埼玉、神奈川の一部を含む「武蔵」の国を一望できるという意味がある。ムサシはまた、日本人が覚えやすい語呂のひとつだ。

一方で、LIFEBOOK UH-X/E3のムサシは、FCCLの開発拠点であるR&Dセンターが、JR南武線の武蔵中原駅が最寄り駅であり、「ムサシ」で生まれたパソコンであったことが背景にある。だからこそ、開発者は最後の4gという軽量化に執念を燃やし、発表直前の修正につながっているわけだ。

  • JR武蔵中原駅

このエピソードこそが、いまのFCCLの姿を示しているといえるだろう。

「2018年5月に新たな体制になって以降、社内には、自分たちでやろうという意識や、自分たちならできるという意識が強くなった。意思決定のスピードが速まり、現場もすぐに動き出せる。仕組みが変わったことで、社員の意識や姿勢にも変化が出ている」(斎藤社長)

世界最軽量を目指し続ける理由

今回の世界最軽量は、FCCL自らが、最後の最後まで軽量化に挑み、納得がいくスペックで達成したものだ。ではなぜ、FCCLは、世界最軽量にこだわるのだろうか。

齋藤社長は、「ストレスを感じさせない、空気のような存在。これが我々の目標である」とする。ジャケットを手に取りながら、「この重さは640gくらい。空気のような軽い着心地は人の気持ちを高める。着ている人のジャマはしない。スーツを着ているときは、その人の心を高め、仕事をするスイッチが入る。軽量によって潜在能力を出すことは、大切なこと。これと同じであり、パソコンの軽量化は、仕事に利用するパソコンにとって重要な要素」と語る。

  • 「世界最軽量の座は決して渡しません」(齋藤社長)

今回の634gは、従来モデルから64gの軽量化を実現した。「重さにするとネクタイと同じくらい。ライフスタイルのトレンドにあわせて、UHも脱ネクタイを果たした」(齋藤社長)と笑う。

もちろん軽いだけではない。堅牢性の追求やキーボードといった使いやすさ、ビジネスに必要とされる数々のインタフェース搭載など、これまで同様に妥協はない。

「どこでもいつでも使えて、創造性を生むツールを目標に開発したパソコン。どんなところでもパソコンの威力が発揮できなくてはならない。いざ使おうとしたときに使えないのではシャレにならない。だからこそ堅牢性は大切にしている。

また、使っているときに創造性を妨げないようにするには、快適な使い勝手を提供しなくてはならない。そのためには、打ちやすいキーホード、見やすいディスプレイ、マイクやスピーカーにも配慮したものでなくてはならない。これは、人とのインタフェースにこだわっているFCCLだからこそ実現できた。それらを統合し、バランスよく実現しているのが、FCCLならではのデザイン。見ているだけでも気持ちよくなる」(齋藤社長)

  • LIFEBOOK UH-X/E3は外部インタフェースも一通り備えている。モバイルノートPCとして、これは使い勝手がいい

増加する在宅勤務にも、世界最軽量は生かされる。

「仕事で使えるパソコンを目指して開発した新製品(LIFEBOOK UH-X/E3)は、スペックの面からも使い勝手の面からも、家庭から仕事まで幅広く使ってもらえる。守備範囲は広い」(齋藤社長)

家庭内でも、パソコンを動かしながら利用する人も多いだろう。在宅勤務だけでなく、新たな働き方が増えるなかで、サラテライトオフィスやシェアオフィス、カフェなどに持ち運んで利用するにも、軽量化は重要な要素となる。

「場所を選ばない、持ち歩くオフィスを実現するツールになる。そのためには、基本性能であるキーボード、ディスプレイの性能だけでなく、最軽量を探求しないといけない」(齋藤社長)

こんな言い方もする。

「社会が大きく変化するなかで、自分の潜在能力を高めてくれるパソコンがほしいという人、この変化をチャンスに変えたいと思っている人、ポジティブな思考を持っている人たちを最大限に支援したい。世界最軽量であるからこそ、人の潜在能力を最大限に引き出せる。新しい自分になりたい、これを機に変わっていきたいといった人に向けたパソコンでもある。進化を求める人に向き合い、人が求める進化への想いをカタチにした、人の進化に寄り添うパソコンだ」(齋藤社長)

FCCLは発足時に、「あらゆる人、あらゆる場所で発生する、あるいは必要とされるコンピューティングをすべてまかなうことによって、お客さまの豊かなライフスタイルに貢献する」ことを掲げた。その実現のためには、世界最軽量は必要な要素だとFCCLは考えている。

「今回もかなり苦労した。だが、自信作ができた。ニューノーマライフという新たな生活環境への変化とともに進化したのが、さらに記録を更新した世界最軽量のLIFEBOOK UH-X/E3だ。そして、これからも世界最軽量の座は決して渡さない」と、齋藤社長は力強く語る。