東北大学は11月9日、新しく開発した指標により、地球史上最大の生物絶滅事象とされる約2億5000万年前のペルム紀末の大量絶滅と、その前に起きた陸上生態系崩壊の原因は大規模火山噴火であるとする確たる証拠を発見したことを発表した。

同成果は、東北大大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授(現・東北大学名誉教授)らの研究チームによるもの。詳細は、米国地質学会が刊行する「Geology」に掲載されるに先立ち、電子版に掲載された。

地球上の生命は約40億年前に誕生したとされ、それから現在までの間に、全生物の大半が絶滅する大量絶滅が5回起きたとされ、「ビッグファイブ」と呼ばれる(6回起きたと数える研究者もいる)。

約6500万年前に巨大隕石の衝突で恐竜を初めとする多くの生物が絶滅したときは、地球上の全生物種のうちの約70%が滅んだとされる。しかし、それは“まだ少ない方”で、ビッグファイブ中で最大の被害を出したのが、約2億5000万年前のペルム紀末の大量絶滅だ。このときは90%以上の生物種が絶滅し、地質学的年代も古生代から中生代へと切り替わることに。一歩間違えれば、我々人類の遠い祖先も絶滅していた可能性もある全地球規模の大災害だったのである。

その環境激変と絶滅の原因の研究が世界中で活発に行われており、現在、有力とされる説が、シベリア東部のバイカル湖の北に広がる直径約2000kmの火山岩地域での火山活動が原因というものだ。この“シベリア火山大規模噴火”は、その噴火したマグマの量から推定すると大規模な噴火が数百万年もの間続いたとされ、大気中を火山性のエアロゾルが大量に漂って太陽光を遮断し、植物が枯死したことで、陸上生態系が崩壊。また植物の枯死により、土壌が海洋に流出して海洋環境を大きく変えた結果、海洋生物もその大半が絶滅するに至ったとされるものだ。

シベリア火山大規模噴火が有力とされる証拠は、シベリアの火山岩の放射年代と中国の大量絶滅を記録した地層の放射年代が一致したことと、火山噴火により供給される水銀の濃集がその地層で見つかったことだ。しかし、必ずしも研究者全員がこの説に納得しているわけではなく、疑問点も指摘されている。前者の放射年代測定の一致に関しては実際には誤差があり、正確には同時とはいえないという。また後者の水銀は、生物に濃集しているので、原因にかかわらず陸上生態系崩壊が起きれば土壌や死んだ植物から供給されるので不確かだとされている。

こうした状況の中、海保教授の研究チームは、中国とイタリアにおいて、約2億5000万年前に浅海で堆積した岩石を採取し、水銀と「堆積有機分子」の分析を実施した。堆積有機分子とは、生物が死後に堆積物中に残す有機分子と燃焼と熟成により生成する芳香族炭化水素の総称だ。有機分子は安定な形に変化して保存されることが多く、粉末化した堆積岩から有機溶媒で抽出することで、質量分析器を用いて分子レベルで定量することが可能である。

その結果、6環の芳香族炭化水素「コロネン」という有機分子の濃集を大量絶滅を記録した地層とその上下の地層で発見したという。都合3回の濃集のうち、最初の2回は水銀の濃集と同時で、2回目が最大だった。そして、2回とも陸上植物の海への流出事件を示す有機分子指標のピークと、その後の急減という変化と一致したとした。これは陸上の植生が崩壊したことを示しており、1回目で陸の植物が絶滅、2回目で海の動物の絶滅が起きたという。地質学的な視点からすると比較的短い間隔で起きているが、このふたつの事象の間隔は数万年はあるとした。

なおコロネンは有機物の燃焼により生成するが、通常の堆積岩に含まれる割合は少ない。その理由は生成に高温が必要なためで、平均的な森林火災の温度よりも高い温度が必要だ。海保教授ら研究チームは今回とは別の研究において、コロネンの濃集は大量絶滅時においてのみ発見していることから、その熱源は、高温マグマか小惑星や彗星の衝突による衝撃と考えられるという。ペルム紀末の場合は高温マグマだ。

これまでは、画像にあるような、水平方向のマグマの堆積岩への貫入により、加熱された堆積岩から気候を制御するガスが生成されるといわれていた。しかし、その証拠は水平方向の貫入岩の発達のみだった。

ところが今回、通常の森林火災では生成しないコロネンの濃集を、大量絶滅を記録した3つの地層で発見することに成功。これらの地層は約千kmと約1万km離れており、コロネン-水銀-絶滅の同時発生はグローバル現象であるといえるとした。このことから、ペルム紀末における史上最大の大量絶滅の原因は、シベリア火山大規模噴火であることがより確実になったという。また、今回の研究は、陸上生態系崩壊は海の生態系崩壊よりも、より小さな気候変化で起きることも示しているとした。

海保教授らは、今回の研究で使用されたコロネンと水銀の指標の同調性が、“大規模火山噴火燃焼事件”を示すという事実を用いることで、ほかの時代の大量絶滅の原因も明らかにできるだろうとしている。今回のコロネン指標は、世界で初めての有機分子の火山噴火指標で、遠く離れた場所で過去の大規模火山噴火の証拠を捉えるために使えると、論文が掲載された「Geology」の査読者からも評価されているとした。

  • ペルム紀末大量絶滅

    ペルム紀末大量絶滅の原因。シベリア火山大規模噴火により、地球の大気環境は激減したことが想像される。火山性のエアロゾルにおり数百万年の間、太陽光が遮断されて寒冷化し、陸上の植物の多くがまず枯れ、食物連鎖ピラミッドが崩壊。また、植物が枯れたことで土壌が海洋に流出して海洋環境も激変し、海洋生物の大量絶滅も招いたと考えられている (c) Kunio Kaiho (出所:東北大学プレスリリースPDF)